第9話 火竜の一撃

 お店を出た僕とヘリオさんは再び並び歩く。……うん、相変わらず視線が凄い。


 しかしそんな視線など気にならんとばかりに、ヘリオさんはあっけらかんとした様子で僕の方へと顔を向ける。


「良い買い物になったみたいだな」

「はい! ヘリオさんのご紹介のおかげです。ありがとうございます!」

「おう! さてと、他にどっか寄りたいとこはあるか?」

「いえ、本日の目的は終わりましたので大丈夫です」

「そっか、んじゃ家まで送るぜ」

「お願いします!」


 言葉の後、僕が先導し、実家へと向かう。


 その間、当然無言では無く話をする。基本的には僕が聞き手でヘリオさんが話し手である。


 別段これは彼の話を聞かされている訳では無く、寧ろトップ冒険者であるヘリオさんの冒険譚を僕が聞きたいと思い、あれこれと聞いた為にこういった構図が出来上がった。


 しかし、一方的に話をする事になっても、ヘリオさんは特に嫌な顔一つせず、寧ろ楽しげに話をしてくれた。


 おかげで彼ら火竜の一撃がどれ程の冒険をしてきたのか、パーティーメンバーがどれ程個性的で素晴らしい方々なのかを詳しく知る事ができた。


 と、話を聞く中で1つ疑問が生まれた為、僕はヘリオさんに問う。


「そういえば、今日はお一人なんですね」

「あぁ、今日は休みなんだ。つっても、これから明日の依頼のミーティングがあるから合流するけどな」


 言いながらハッとした様子で、


「お、そうだ! これも何かの縁だし、ミーティング来るか?」

「えっ、いやいやミーティングですよね?! 僕なんかが行ったら邪魔なんじゃ……」

「いや、そんな厳かなもんじゃねぇから大丈夫だよ。あとどちらかと言うと来て貰えた方が助かる」

「……助かる?」

「あぁ、そりゃもうめちゃくちゃな」


 言って遠い目をするヘリオさん。その瞳の奥に何やら苦労が見て取れる。


 一体どう言う事なんだろ。


 よくわからないが、行くだけで助かるのならばお世話になったお礼も兼ねて行くべきであろう。


 それにトップ冒険者のミーティング風景なんてそうそう見れるものではないだろうし、正直参加したい。


 僕は近くの時計に目を向ける。


 うん、時間的にもまだ余裕があるな。


「もしこれが罠で、何か危険な事に巻き込まれる事になったら」と一瞬考える。

 しかしヘリオさんの今までの行動から、流石にそれは無いだろうと脳内ですぐに否定をした。


 ……もしこれで騙されていたのならば、まぁ運がなかったという事で諦めよう。


 僕はうんと頷くと、


「なら、お邪魔じゃなければ良いですか?」

「お、参加してくれるか! 助かるわ!」


 助かるというのが何かは相変わらずわからないが、僕はとりあえずヘリオさんと会話をしながらミーティングの会場へと向かった。


 そしてやってきたのは高級宿。流石一流冒険者と思いつつ僕はヘリオさんに続き中へと入る。次いでそのまま歩き、とある部屋の前までやってきた。


「おう、集まってるかー」


 言って扉を開けるヘリオさん。彼に続き部屋へと入る。


 この部屋はどうやら宿利用客が使用できる会議室の様である。こじんまりとしながらも防音対策などが施されており、かなりしっかりした造りである事がわかる。


 部屋の中には6人がけの四角形のテーブルが中央に一つ置かれており、そしてそこに向かい合うようにして座る2人の男女の姿があった。

 荘厳な衣装に身を纏った幼き白髪の少女と、筋骨隆々で野性味あふれる青髪の青年である。


「ん」

「おうよ!」


 ヘリオさんの言葉に反応をする2人。それを受け頷いた後、ヘリオさんはキョロキョロとすると、


「リアトリスは?」

「いつも通り」

「……ったく、あいつは」


 言って頭をかかえため息をつくヘリオさん。


 と、そんな彼の様子を表情一つ変えず見つめる少女であったが、ここでその視線が彼の後ろにいる僕の方へと向いた。


「……ヘリオ、その子は?」

「おう、こいつはな──」

「あ、僕から自己紹介しますよ。えっとレフトと申します! 先程ヘリオさんに助けて頂きまして、その後成り行きでミーティングを見学させて頂けるという事でついて参りました。よろしくお願いします」


 正しいとも言えない敬語を交えながら話す僕の言葉に、少女は感心した様に目を見開きパチクリとし、青年は豪快に歯を見せて笑みを作る。


「凄いね、ぼく。しっかりしてる」


 言って僕の方へと寄ると「よしよし」と発しながら僕の頭を撫でてくる。


 ……随分と子供扱いするなぁ。まぁ、確かに今は子供だけど、それでもこの子とあまり歳変わらないと思うんだけど。


 思う僕の心を読んだのか、少女はムッと頬を膨らめると、


「……む。私14歳だからね。きっと君よりお姉さん」


 えっ……!?


「信じてないでしょ?」


 言ってジト目を作った後、小さく息を吐き表情を元に戻すと、


「……まぁ、いいや。私は火竜の一撃の回復役、マユウ。……よろしく」

「よろしくお願いします!」

「ん」

「んで、こっちが」

「グラジオラスだ! よろしくなレフト!」

「は、はい! よろしくお願いします!」

「あともう1人火竜の一撃にはいてな……マユウ、ちょいと起こして来てもらえるか?」

「ん。でも起きるかな?」

「いつもなら起きない。ただ、今日は大丈夫な筈だ」


 言ってニヤリと笑うヘリオさん。その笑みを見た後、マユウさんはチラと視線を僕の方へと向け、


「……あぁ、なるほど。ん、わかった。行ってくる」


 言ってマユウさんは部屋を出ていった。


 そしてほんの数十秒後、突如ドタドタと走りよってくる足音が聞こえてくる。

 その音は徐々に大きくなっていき、遂に部屋の扉がドンッと開くと、そこにはハァハァと息を荒げている寝癖だらけの美女の姿があった。


 そんな彼女はキョロキョロと部屋を見回し、遂にその視線が僕の方へと向き──


「て、天使……!?」

「…………んぶっ」


 次の瞬間、僕の全身が柔らかくていい匂いのする何かに包まれた。

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