第8話 新植物大量ゲット!

 ヘリオさんに連れられてやって来たのは、人通りの少ない街外れにある、こじんまりとした古びたお店であった。

 ヘリオさんに続き中へと入る。


「ここだぜ。……おーい、リネのばーさん!」

「何だい!」


 ヘリオさんの声を受け、嗄れた声が遠方から飛んでくる。

 そして数瞬の後に、店奥にあるカウンターその更に奥にあるバックヤードから齢70程だろうか、腰の折れたしわくちゃなお婆さんがやってきた。


「はー、全くうるさいのが来たねぇ」


 言って、リネと呼ばれたそのお婆さんは迷惑気な表情になる。しかしその声や表情とは裏腹に、ヘリオさんを歓迎しているのか、どこか嬉しそうな雰囲気を漂わせている。


「せっかく客を連れてきてやったのに、うるさいとはなんだよ」

「客?」


 リネさんがその鋭い視線をキョロキョロと動かし、僕に向いた所で停止する。


「このボウズのことかい?」


 言って目を細めじっと見つめた後、


「ふーん、貴族の坊ちゃんかね。金は持ってそうだねぇ」

「相変わらず金にがめついなばーさん」

「はっ。そうでなきゃ雑貨屋なんてやってられんよ」

「客も殆どこねぇしな」

「……ったく、相変わらず容赦の無い男だねぇ。まぁ、本当の事だから否定はせんがね」


 一拍開け、リネさんは僕の方へと視線を戻すと、


「……さて、客となりゃ文句は言わんよ。ゆっくり見ていってくれ」

「ありがとうございます!」


 リネさんは頷くと、バックヤードへと戻っていった。


「さ、買うもんがあんだろ。焦らず探してきな」

「はい!」


 さて……。


 ヘリオさんの言葉に従い、僕は辺りを見回す。


 雑貨屋というだけあり、冒険者にとって必需品であろう道具が数多く揃っている。しかしそれよりも多く、というよりも店の品の殆どが薬の材料である植物であった。


 ……凄い。選び放題だ!


 想定外の植物の量にワクワクが抑えられない。


 因みに現状の手持ちは金貨3枚と銀貨1枚。ひとまずお金を使う機会が無い事を考えれば、ここで限界まで使っても問題が無い。


 ……よし、そうと決まれば、有用そうな植物を片っ端から買っていこう!


 まず僕はカウンターの横、最も目立つ位置にある棚へと目を向けた。高級な商品を置く棚なのか、並べられているものはどれも存在感の強い物が多い。

 そしてその中には幾つか植物も並んでおり──僕はその内の1つに目を奪われた。


 ……上級薬草だ!


 そう、上級ポーションの材料である希少な薬草、上級薬草である。


 ……欲しい。めっちゃ欲しい。


 仮に上級薬草を図鑑に登録し、いつでも実体化できる様になれば、植物図鑑の価値はグンと跳ね上がる。


 だからこそ、上級薬草は早めに入手しておきたかったもので──しかし値段は金貨10枚。残念ながら手が届かない。


 ……まぁ、そう簡単にはいかないか。仕方が無い。次の機会にとっておこう。


 僕は気持ちを切り替えると上級薬草と同じ棚に並べられた植物を見ていく。


 金貨8枚、金貨7枚、金貨12枚……。


 最も目立つ位置に飾られているだけあって、現状では手が届かない高級品ばかりが並んでいる。


 ……うーん、流石にこのレベルはまだ無理かぁ。


 と思いつつも棚の商品へと目を通していくと……。


 ……ん? おぉ! クリスタルフラワー!


 棚の端の方に、宝石の様にキラキラと輝く花があった。クリスタルフラワーと呼ばれる中級以上のポーションを作る際に欠かせない植物である。そしてその値段は金貨1枚と銀貨5枚。


「おお、買える!」


 つまり購入可能である。僕は早速棚からクリスタルフラワーを取り出す。密封性の高い容器に入れられており、それがクリスタルフラワーの高級感を際立てている。


 早く植物図鑑に登録したい。


 流行る気持ちを抑えながら、僕は他の植物を見ていった。


 結局10分ほど見て回り、僕は5つの植物を選んだ。


 クリスタルフラワーに加え、銀貨8枚の中級薬草、銀貨2枚であり、クリスタルフラワー同様中級以上のポーションで材料として用いる月光草、そして銅貨3枚である毒草と痺れ草である。


 これに加えて銀貨1枚の解毒ポーションを2つ手に取り、合計金額は金貨2枚銀貨7枚銅貨6枚。全財産から考えればかなりの出費である。


 しかし今回は残金の事は考えずに購入すると決めていた為、僕はそれらを手にカウンターへと向かう。

 カウンターには既にリネさんの姿があった。流石というべきか、何ともタイミングが良い。


「リネさん!」

「リネ婆ちゃんと呼び」

「リネ婆ちゃん! これください!」

「はいよ」


 僕がカウンターに置いた植物を、リネ婆ちゃんが一つ一つ確認していく。


「にしてもボウズ、こんなに色々と一体何に使うんだい」

「わかりません。お母様におつかいを頼まれただけなので」

「はーこんな小さな子にかい」

「僕が望んだんですよ。さながらはじめてのおつかいといった所でしょうか」


 そう言って微笑む僕の横で、ヘリオさんは特に言葉を発さずにいた。きっと色々と疑問に思ったに違いない。


 けれど、ヘリオさんは特に追及してこない。そこにどういう意図があるにしろ、その心遣いは凄くありがたかった。


 その後、購入を終えた僕達は、リネ婆ちゃんにお礼を言った後、店を出た。

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