第7話 道中

 ちょっとした騒動に少しだけ疲れながら冒険者ギルドを後にしようとすると、何故かヘリオさんがついてくる。


「……えっと、ヘリオさん?」

「周り見てみろ」

「…………え?」


 小声で言うヘリオさん。それに従うようにチラチラと周囲へと目を向ける。


 いつも通りこちらを馬鹿にする様な視線と、恐らくヘリオさんの隣に並んでいるからか、どこか嫉妬する様な視線、そしてその中に一部──獲物を狙うかの様な視線が潜んでいる。……そうか、金貨3枚貰ったから。


 それを目にし──僕はなる程と頷く。


「……すみません、少しの間お願いします」

「おう」


 頷くヘリオさんと共に僕は冒険者ギルドを後にした。

 そしてそのまま並びながら歩くのだが、やはりヘリオさんは有名なのか、やたらと視線を受ける。


 中には、何故植物使いの雑魚がヘリオさんの隣に居るんだとでも言いたげな視線もある。


 ……あれ、これってもしかして逆効果?


 確かにヘリオさんのおかげで直近の脅威からは逃れられるかもしれない。しかし、今後僕が1人で行動している時に、嫉妬らしき視線を送る人達に絡まれる可能性がある。

 勿論こちらが貴族だと認識しているだろうから、危害を加えてくる可能性は少ないが、ゆすりかけてくる事はあるかもしれない。


 ……うん、とりあえず先の事はあまり考えない様にしよう。


 と、ここでヘリオさんが周囲にチラと視線を向ける。


「なぁ、レフト」

「はい、何でしょうか」

「さっきから侮蔑を含んだ視線や雑草使いとかいう声が聞こえてきたりするんだが、何か知ってるか?」

「知ってるも何も侮蔑の視線を向けられているのも、雑草使いという名を冠しているのも僕ですよ」

「……いや、は? 嘘だろ?」

「本当ですよ」

「レフトお前今いくつだ?」

「10歳です」

「えぇ、未だ10歳の幼子にこの視線って……何があったんだよ」


 言って苦々しい顔をするヘリオさん。会って未だそれ程時間は経っていないが、その表情だけで彼は信用できるとそう思えた。

 だから僕は神童と呼ばれ期待されていた事、得たギフトが植物図鑑というユニークギフトであったが、雑草しか実体化できなかった事などをヘリオさんに話した。


 勿論、本来の能力については話さない。


 現状ヘリオさんは良い人であるが、それだけで全幅の信頼を向けるのは流石にリスクがあるからである。それに能力については自身も完璧に把握している訳ではなく、迂闊に話すべきではないとも思ったのである。


「なるほどなぁ……けどよ、その割にはあんま悲観してねぇな。何か抜け道でも見つけたか?」


 言ってニヤリと獰猛な笑みを浮かべるヘリオさん。


 ……流石トップレベルの冒険者。鋭い。


「抜け道といいますか、本来の使い方がわかっただけですよ」


 僕の言葉にヘリオさんは「そうだろうな」と言うと、


「ユニークが何の価値もないなんて、そんな訳ねぇからな。この街の連中は大きな魚を逃した訳だ」

「そうだといいんですけど……」


 現状では有用な能力だと思える。しかし、今後使っていく上で、もしかしたら何かしらの制限があるかもしれないと考えると、未だ植物図鑑が特別有用であるとは言い切れない。


「それによ、ポジティブに考えりゃ、縛られる事なく生きられるんだからな。レフトにとってむしろプラスだったんじゃねぇか?」

「ふふっ……かもしれませんね」


 言って僕は、いつまでもポジティブなヘリオさんの考え方に微笑んだ。


 と、ここでヘリオさんが僕の事を気遣ってか、うんと頷くと、


「うっし……話してくれたお礼だ。このまま家まで送ってくぜ。別れた後で襲われたとありゃ、寝覚めも悪いしな」

「本当ですか! 是非、よろしくお願いします」

「おう! と、その前にどこか寄りたい所とかあるか? 付き合うぜ」

「あ、なら雑貨屋に行きたいです!」

「雑貨屋か。よっしゃ、んじゃ俺のおすすめの店に連れてってやるよ!」


 言葉の後、僕はヘリオさんに連れられ彼オススメの雑貨屋へと向かった。

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