第5話 街と冒険者ギルド

 お父様お母様から3時間という制限付きではあるが、街へ行く許可を貰えた。


 という事で、許可を得た翌日。僕は早速街へ行く事にした。お父様へと外出する事を伝え、街へとダッシュ。

 一応付き添い付きではあるが街へは何度か行った事があるので、1人の今日もその通りに進んで行く。


 貴族街を走る走る。時折すれ違う貴族達が何やら悪口の様な物を言っているが、僕は殆ど気にしていない。

 それだけ今のギフトに僕自身可能性を感じているのと、街へ行く事で起こるあれこれを考え、ワクワクが止まらないのだ。


 走る度に、背に背負った鞄が躍り、何やら金属の擦れる音がチャリチャリと鳴る。


 実はつい先程、街へ行くという話をしたらお父様がお小遣いをくれたのだ。額は銀貨6枚。銀貨1枚──日本円換算でおよそ10000円程度か──で安宿で2泊できる事を考えると、正直かなりの額だ。


 恐らく、植物を購入する用として多めに持たせてくれたのだろうが、今回僕はこの大半を植物の購入では無く、冒険者登録で使うつもりである。


 冒険者登録に必要な額は銀貨5枚。かなりの額ではあるが、危険と隣り合わせの職業であり、遊び半分で登録されては困るという考えの元決められた金額……との事なので仕方が無いか。


 因みに冒険者登録をしてしまうと所持金は銀貨1枚となってしまい、植物を買うお金が無くなってしまうが、これは冒険者ギルドで下級薬草を売る事で補おうと考えている。


 たとえ下級であっても、怪我の多い冒険者を扱う上で薬草、ひいてはそれを用いた下級ポーションの需要は尽きる事が無く、冒険者ギルドの中で下級薬草の納品は、常時依頼として扱われており、またそれなりの額で売る事ができるのだ。


 ということもあり、今日はとりあえず資金確保の為にも、まずは冒険者ギルドへ向かうつもりである。


 と、そうこうしている内に貴族街を抜け市民街──僕らは単に街と呼んでいる──へと到着した。


 早速冒険者ギルドに向け歩くのだが、やはり僕のギフトについて悪評が広まっているのか、街を歩くと嫌な視線を向けられる。が、やはり貴族の力を恐れてか直接ちょっかいをかけてくる人は居らず、僕は何のトラブルも無く、冒険者ギルドへと入ることができた。


 冒険者ギルドに入っても、周囲から向けられる視線は変わらない。


 その視線に、気にはしないとは言ってもあまり良い気分にはならない事もあって、辟易としながら受付に向かう。


 入口正面にある受付では5人の受付嬢が対応をしていた。皆、一様に綺麗なお姉さんで、対応を受けている冒険者は皆デレデレとしている。


 と、その様子を眺めていると、丁度僕から見て右端の受付が開いた様なのでそこへと向かう。


 ……ちゃんと対応してくれるかな。


 そこに一抹の不安を覚えながらも、右端のお姉さんの前へと行くと、お姉さんは突然子供が現れた事に驚いたのか、少しだけ目を見開いた後、柔和な表情をこちらへと向け、


「あら、可愛らしいお客様ですね。本日はどのような御用向きでしょうか」


 と他冒険者と変わらない対応をしてくれた。


 ……良かった、多分良い人だ。


 当然一言で判断などできないが、少なくとも僕を見て嫌な顔はせず、優しい笑顔を向けてくれた為、良い人だと仮定して話を進める事にした。


「冒険者登録をお願いしたいです」


「冒険者登録ですね。登録には銀貨5枚が必要になりますが、宜しいですか?」


「はい」


 言って、僕はカバンから銀貨5枚を取り出す。それを目にし、回収したお姉さんはうんと頷いた後、


「では、冒険者登録を致しますので、此方に手を翳していただけますか」


 と言い、円柱型の魔道具を取り出す。どうやらここに手を翳すだけで、翳した人の情報が内部に格納されたカードを作成する事ができるらしい。


 僕は円柱型の魔道具に手を翳す。すると何やら淡い光が発生したり、謎の異音が聞こえた後、すぐに2枚のカードが出てきた。……おお、魔法って凄い。


 何かよくわからないが魔法の凄さに浸っていると、お姉さんはこちらへ笑顔を向けると、


「はい。登録は完了致しました。こちらが冒険者証になります。……ギルドの方で予備を確保しておきますが、大事なモノですので無くさないようにお気をつけ下さい」


 言って先程作成されたカードの一方を僕に渡してくれるので、それを受け取る。


「……ところで冒険者についてはどの程度ご存知ですか」


「うーん。常識的な事は知っていますが、それ以外はあまり──」


 僕の言葉にお姉さんは頷いた後、


「では、説明致しますね──」


 と言い、沢山の事を教えてくれた。


 冒険者にはランクというものが存在。ランクFをスタートとし、以来の達成数などに応じ、E、D、C、B、A、Sと上がって行く事。


 依頼は壁に貼り付けてある依頼書を受付に持って行く事で受ける事ができるが、依頼書により推奨ランクや期限などが設定されており、ランクに沿わない者は依頼の受理はされず、また期限を過ぎてしまった場合は依頼失敗となり、ペナルティが課せられてしまう事。

 ただし、常時依頼には期限やランク制限は無い事。


 冒険者は複数人で集まってパーティーを組む事ができ、このパーティーについても冒険者のモノと同じランクが設定されている事などなど。


 他にも禁則事項等受付嬢のお姉さんはこれでもかと言うくらい説明をしてくれた。


「──といったところでしょうか。他に何か知りたい事などはございますか?」


 優しく丁寧な対応に、助かるなーと思いつつ今回の目的の目的である薬草の売却について問うてみる。


「あの、下級薬草を売りたいのですが──」


「素材の売却はあちらの窓口でお願いします。薬草は常時依頼になりますので、そのまま向かって頂いて構いません」


 言って入口から見て右に位置する窓口を示す。


「おお、なるほど。ありがとうございました」


「いえいえ…………ってあっ…………」


 僕のお礼にふふっと微笑んだ後、お姉さんは何かを言おうとし──ハッとした表情を作る。突然の事に僕が首を傾げると、お姉さんは少しだけ恥ずかしそうに頬を赤らめながら、


「申し遅れました。私、冒険者ギルド、ユグドリア支部受付嬢のミラと申します。以後、お見知り置きを……」


 それを受け、僕もハッとする。


 前世の記憶で冒険者登録と言えば、紙に情報を記し、それを受付嬢が目にすることで名前を覚えて貰っていたが、この世界では全てを魔道具が処理してしまう。また、作成されたカードには表面に謎の模様等は刻まれているが、直接見て名がわかる様な所はない。


 つまりは、直接名を伝えなければいけない訳で──


「あぁすみません、僕も忘れていました。……レフトです。これからよろしくお願いします、ミラさん」


 ……という事で心優しく──少しだけ天然? な受付嬢ミラさんの元で冒険者登録が完了した。次は──下級薬草の売却だ。


 僕はそう考えると、ミラさんに会釈をした後、彼女が言っていた素材の買取をしている窓口の方へと向かった。

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