第4話 両親への報告

 屋敷を駆け、すれ違うメイドに両親の居場所を問うと、どうやら丁度お父様の執務室に2人揃って居るとの事なので、そこへ向かう。


 到着と同時にドアをノック。向こうからお父様の入室許可の声が聞こえてきたので、部屋へと入った。


「……お父様、お母様」


 僕の声を受け、仕事の話だろうか、真剣な表情で会話していた2人は、こちらを向き一瞬驚いた表情をした後、柔らかい笑顔を浮かべる。


「ん、レフトか。どうしたんだ?」


「……実は僕のギフトについて、お父様とお母様にお話したい事があるのです」


「ギフトの……そうか。うむ、丁度良い。セルビア、仕事は一度切り上げ、休憩としようか。レフトの話もそこで聴こう」


 お父様の言葉に、お母様と僕は頷き、リビングへと向かった。


 リビングに着くと、メイドがセイロウ茶──紅茶のようなもの──と簡素な菓子を持ってきた為、少し飲食して一服。


 お父様がセイロウ茶を飲み、フーと軽く息を吐いた所で話が始まった。


「……さて、ギフトについての話だったか」


「はい、お父様。……実はつい先ほど『植物図鑑』の新たな能力が判明致しました」


「……なに本当か!?」


 僕は頷くと、


「その能力がコレです」


 そう言って植物図鑑を召喚。右手に下級薬草を実体化させる。


「……ん? いつも通……ッ!? いや、これは……!」


「そうです、下級薬草です」


 2人は驚きに目を見開く。その後、何かを思い出したのだろう、お母様がハッとすると、


「そういえば昨日、下級薬草が欲しいと言っていたわね……」


 それを聞き、お父様が更に目を見開くと、


「…………っ! まさか!」


「お母様から頂いた下級薬草。あれに直接触れた所、図鑑にページが追加され、下級薬草を実体化できる様になりました。それも現状制限は無く、魔力が尽きるまで──」


 言って、実は持ってきていた下級薬草を、背負っていたカバンから全て取り出し、


「──これがつい先程十数分の内に実体化した下級薬草です」


 それを聞いた瞬間、お父様が立ち上がると、


「……教会へ行ってくる」


 と言う。なる程、神父にこの能力を伝え、周囲から僕に向けられる負の感情を無くそうと考えているのだろう。しかし──


「お父様。僕のギフトの能力について訂正をしようとお考えでしたら、その必要はございません」


「何故だ! これを伝えればレフトに向けられる負の数々を取り除けると言うのに!」


 子に向けられる悪評を取り除きたいという親心なのかもしれないが、神父に伝えられては今後の活動に支障が出てしまう為、困る。


「……お父様は僕の判明した能力について、どう思いますか?」


「凄まじい能力だと思う。だからこそ、神父にこれを伝え、広まれば──」


 ここまで言った所で少し冷静になったのか、別の可能性に気づいたようで、お父様が一度口を閉じる。


「……この能力の真価に気付いた人の中で、この能力を悪用しようと考える人が現れるかもしれない」


 父の考えを代弁するように僕が言う。


「いや、だが──」


 僕の言葉を受け、お父様は眉根を寄せる。きっと伝える事で僕の前に現れるかもしれない悪と、伝えない事で僕に向けられる嫌な視線や言葉、そのどちらかを選ばなければならないが、しかし選べずにいるのだろう。

 ならば、僕が選択をすれば良い。


「……お父様、僕は周囲から向けられる視線や言葉など一切気にも留めていません。……だから、能力についてはここだけの秘密としてとどめておいて欲しいのです」


 お父様は眉根を寄せたままうーんと唸った後、


「……わかった。秘密にしよう」


「ありがとうございます!」


 という事でひとまず僕の能力は秘匿する事になった。


 お父様は僕の感謝の言葉にうんと頷くと、


「……ところでレフト。判明した能力を考えるに、検証を進めるためにも様々な植物が必要なのではないか」


「そうですね。仮に下級薬草の様に登録できるのならば、幅が広がるのは間違いありませんので」


「よし、ならばできる限り多くの有用な植物をこちらで用意しよう」


「いえ、その必要はありません。……その代わりと言っては何ですが、1人で街へと行く許可をいただけませんか」


 僕の言葉を聞いて、お父様が少しだけ険しい顔を浮かべる。


「……付き添いありでは駄目なのか」


「日付制限無く街へと赴きたいのです」


「日付制限無く…………いや、しかしお前はまだ10歳。危険だ」


 お父様がそう言い、静かに僕達の話を聞いていたお母様もうんと頷く。


「……僕は大通りしか行くつもりはありません。それならば、人通りも多く人攫いに遭う可能性は少ないですし、貴族然とした格好であれば、平民は陰口を叩く事はあれど、直接絡んでは来ないかと。危険など大してございません」


 と口では言うものの、実際に被害に遭う可能性がゼロかと言われれば当然違う。


 お父様も間違いなくそれは理解している。


 けれど、お父様は長考した後、何とも言えない表情で、


「わかった。許可しよう」


「あなた……!?」


「ただし、街へ行く際は一言伝え、時間は10時から13時までの3時間のみ。これ以上は許さん」


「はい。ありがとうございます!」


 お礼を言いつつ内心思う。


 正直許可が下りるとは思っていなかった……熱意が伝わったって事かな。


 お父様がどういう感情かはわからないが、許可をくれた事には変わりない。


 ……よし! 明日早速街へ行こう!


 ◇


 レフトが退出し、2人きりになった所で、セルビアが珍しく少しだけ強い声音で声を上げる。


「どういう事なのあなた。未だ10歳のあの子に1人で街へ行く許可を与えるなんて」


「……正直俺もまだ早いと思っている」


「なら何故……」


「セルビア。俺はな、何となく……レフトが何か大きな事を成し遂げるような、そんな気がするんだ」


「それは、わたしも思うわ。けどだからと言って……」


「……街には危険もあるが、それ以上に屋敷に篭っていては得られない経験の数々がある。レフトの将来を考えた時に、早い内から経験を積ませた方が良いように思えたんだ。それと──レフトが発した数少ない我儘だ。何とか叶えてやりたいとそう思ってしまった」


「あなた……」


「──さて、仕事へと戻ろうか」


「…………えぇ、わかったわ」


 やはりセルビアの中で、レフトが1人で街へ行く事に対する不安は消えない。

 しかし、ガベルの決断もレフトを思っての事だとは理解している為、これ以上追及する事は出来ず、セルビアはただただレフトの身に不幸が降り注ぐ事がない様にと心の中で祈るのであった。

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