第2話 植物図鑑の有用性
リティナちゃんが来なくなってからは遊び方が変わった。
今まで彼女が来ない日は、庭を駆け回ったり、小さな動物と戯れたりしていたが、最近は図鑑に描かれている植物をランダムで実体化し、それと同じ植物が庭にないか探すようになった。
地味なようで、これが意外と楽しい。植物の植生環境を考えながら探したり、探す中で今までの様に小さな虫や動物とも触れ合ったり。
……前世が社畜で自由が無かった事も影響してか、より自然が好きになった事もあって、今ではこの時間が僕にとっての至福の時間となっていた。
帰宅したら、発見した事を食事の場で両親やメイドに伝える。
すると、両親が笑顔を浮かべたり、「レフトは植物の研究者になれるかもな」と言ってくれたり。……僕の話で皆が楽しそうにしてくれるのは、本当に嬉しかった。
そんな生活を1カ月程続けると、自由時間の大半をそれに費やした事もあってか、何と図鑑に載っていた植物を粗方発見してしまった。
残りはほんの数種。当然、季節が違い採集できない植物もある為、すぐにコンプリートするのは不可能である。が、この様子なら恐らく1年もしない内に全て発見できる筈──
──って、そんな事ある?
僕は遊びながらずっと抱いていた疑問を思い起こす。
──ギフト『植物図鑑』。
通常図鑑、中でも植物図鑑と言えば、あらゆる生育環境の様々な植物について、図や解説を記したものの筈である。
……当然、記載されている植物を全て集めようと思えば、季節、生育場所など考慮しなければいけない物が多く、非常に難しい事などは容易に想像できる。
しかし、僕のギフト『植物図鑑』はどうか。
何故か図鑑に載っている植物の殆どが現在庭で見つかってしまっているのだ。
それに、記載されている植物の数も、通常販売されている図鑑と比べれば明らかに少ないし、ページ数だって10分の1どころではない。
これは図鑑という名称を有しているモノとしてはあまりにもおかしい。
──そこで一つの仮説が立った。
調査の為、夕飯時に両親にお願いする。
「お母様、お父様。僕、下級薬草が欲しいです」
「……あら、レフトが物を欲しがるなんて珍しいわね。何かに使うのかしら?」
「はい。試してみたい事があるのです」
「ふふっわかったわ。明日買ってくるわね」
「ありがとうございます!」
疑問を持った様だが、お母様は特に追及する事もなく用意すると言ってくれた。
ということでワクワクしながら眠り、翌日。
待ちきれないといった風にウズウズしながら部屋で待っていると、トントンと部屋をノックする音と共に、メイド長であるカイラが容器に入った下級薬草を持ってくる。
「レフト様、薬草でございます」
「ありがとう、カイラ」
僕の言葉に、カイラは笑顔で軽く一礼をすると、部屋を出ていった。
「さてと……」
1人になり、薬草が届いた所で検証スタートである。
まずは……と、薬草をじっと見る。
……うん、なんて事ないただの下級薬草だ。
思いつつも、じーっと見つめ続ける。そのままそれを1分程続けた所で、僕は植物図鑑を召喚すると、ペラペラと捲った。
……しかし図鑑に特に変化はない。
「まぁ、そりゃそうか」
ならばと、次は薬草に右手で触れる。
すると、触れて10秒程経った所で、突然手に持っていた薬草が光となり消えたかと思うと、図鑑が僅かに輝きだした。
「おおっ……」
上手く行ったかな? とワクワクしながら、図鑑を開き、輝いているページを開く。
瞬間、一度ピカッと強く輝いたかと思うと、光が徐々に収まって行き……同時に文字が浮かび上がってくる。
そして光が完全に収まった時、そこには……下級薬草の写真と、簡単な解説が記されていた。
「よしっ!」
ビンゴだ。どうやら、名称と今起きた現象を鑑みるに、植物図鑑は触れた植物を図鑑に登録できるようだ。その際、登録の為に触れていた植物は消えてしまうようではあるが。
そして、更に──
「……後は、これを──こいっ!」
右手の平を空に向け念じると、身体中の魔力が抜ける感覚の後……下級薬草が実体化した。
「うん、成功だ!」
これで判明した。どうやら植物図鑑は『僕が10秒程度触れた植物を消費する代わりに図鑑へと登録し、登録した任意の植物を魔力を媒介として実体化する』能力のようだ。
細かい制限などがあるかもしれないが、それは今後確認するとして……。
いや、これは凄い力なんじゃないか?
僕は思う。もし仮にだ、植物という枠組みに含まれる全ての物を登録できるならば、例えば神父の言っていた、あらゆる怪我や欠損を元通りにする神薬エリクサーの材料である神恵草や、それ以上に希少で、食べるだけで能力値が向上する能力の実シリーズなども登録できてしまう事になる。
勿論10秒程触れる必要があり、かつ登録の際にその植物は消費されてしまうという制約があるから、当然希少なもの程登録が難しくはなる。
しかし、買おうと思ったら例え王様でも迂闊に手が出せない程の金額が要求されるものを、たった一度手に入れる事ができれば、何度でも実体化できる可能性があると考えれば、この能力の価値が計り知れない物である事がわかる。
当然、もしもの話だ。未だ下級薬草しか登録していない上に、能力についての検証もろくに行えていない。登録できる植物は一部の安価な物で、神恵草や能力の実のような希少な植物は登録できない可能性だって当然ある。
けど、それでも、例え未だ可能性の話だとしても。
自身の能力が、世間が思っているようなゴミギフトではなく、寧ろ数あるギフトの中でも最上位に位置する程の有用な物だと。
そうかも知れないという希望を抱いてしまうのには、十分な検証結果が得られ、
「これなら、馬鹿にした人達を見返せる。……家族をもっと笑顔にできるかも知れない」
そう考え、僕は目を輝かせながらうんと頷いた。
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