護りたい

 ……それから数分が経った。しかし未だに、僕らは1度も魔王に攻撃を当てられず、かなりの苦戦を強いられていた。


「チィ……どうなってんだよコイツ……!」

「また外した……完全にブーメランの軌道を読まれてる!」

「ふふん、焦るなお主ら。こうやって、落ち着いて行動を読んでからじゃな……【火炎弾】!」


 そう言いつつ、ミミルさんの放った火の玉も、魔王の位置から大きく離れた場所にぶつかった。


「……ありゃ?」

「お前も全然当たってねぇじゃねぇか!」

「やかましいぞ、白髪」

「それ侮辱罪だぞコラ」


 しかしそんな僕らと同様に、魔王もクエスチョンマークを頭に浮かべているようだった。


「……何故だ?」


 恐らく……僕らが眠る素振りすら見せないのを不審に思っているのだろう。ハンナさんの事に気付かれるのは、時間の問題かもしれない────


「おい、何をしている!?」

「えっ」


 ……嫌な予感ほど的中するものだ。


 僕は急いでハンナさんの方を振り向くと、魔法を唱えている所を、魔王に思いっきり見られていた。


「貴様ッ、もしや裏切ったな!?」

「え、いや……その……」

「裏切ったのか、と聞いておる!」

「いや……これは、ち、違くて……!」

「はぁ…………もう良い。お前から殺してやろう」


 話が通じないのにうんざりしたのか、魔王はミミルさん2人分はありそうな程の、超巨大な鎌を背後から取り出した。


 そしてそれをハンナさんに向ける。


「ヒッ……!」

「一瞬で殺してやるから……怖がらなくて良い」


 これは……マズイ。頭の中の第六感が告げずとも、僕は瞬時に判断が出来た。


 僕は自分に素早さ強化を唱えつつ走り、魔王とハンナさんの間に割り込んで…………間一髪。振り下ろされた鎌を剣で受け止めた。


 ガギン、と重々しい武器のぶつかり合う音がした。


「あっ……アル君!!」

「大丈夫ですかっ、ハンナさん!!」

「だっ、ダメっ! アル君……早く逃げてっ!!」


 ハンナさんは今にも泣き出しそうな震えた声で、僕に訴えかけてくる。


 ……そりゃ僕だって、逃げられるのなら今すぐに逃げたいさ。強くなったからと言って、命を投げ出す勇気も増える訳じゃないんだ。


 でも……でもね。そうしない理由が……僕にはあるんだよ。


「約束……しましたから」

「……えっ?」

「絶対に護ってみせる…………ってね!!」


 僕はぶつかり合っていた、巨大な鎌を跳ね返した。


「チッ……調子に乗るなッ!! 」

「うっ!?」


 跳ね返したのを見るや否や、魔王は連続して鎌を振りかざしてくる。


「グッ……!!」

「どうした!! そんなものか!? 」


 魔王は攻撃の手を止めない……そして一撃一撃が重すぎる……! 受け止めるのも精一杯だ!


 でも……今なら回避に振っていないから……攻撃が当たるんじゃないのかっ……!?


「アル!」

「アルさん!」


 それに仲間の援護もある……チャンスがあれば、狙えるかもしれない!



 ────これが判断ミスだった。



 攻撃の速度が遅くなった時を見計らって、僕は魔王の図体に飛びかかった────瞬間、目が合った。


「あっ!!」

「フン、馬鹿め!」


 しまった……身体が全く動かない。魔王の能力によって固められてしまったようだ。


「あっ、アル君!!!」

「別にお前からでも良い……! 死ねぇ!!」


 大きく鎌が振り上げられる。


 ……死が近付くと映像がスローモーションに見える、と言うのは良く言われた話で……無論、僕も例外ではなかった。


 だが遅くなったからと言って、何がどうかなる訳でもない。ただ鎌が僕の身体に近付いてくるのを見てるしかないだけで。



 ヤバい……ヤバいヤバいヤバい────






「おい危ねぇ!!!!! アルっ!!!!!」




 ドン。





「えっ?」





 一瞬……何が起きたのか分からなかった。気付いた時には、僕の身体は宙に浮いていたのだから。


 後ろに倒れ行く身体で、目だけ必死に動かして……眼前を見た。そこにはシンの背中があった。


 僕は……シンに突き飛ばされたんだ。


 理解したのも束の間……シンは真横に大きく吹き飛ばされた。





 僕の代わりにシンが…………切り裂かれた。





 その光景を……見たんだ。


 ……直後に僕の身体に衝撃が。地面に落ちたんだ。


 痛みなんか無視して、動けるようになった足で起き上がる。そして……必死に叫んだ。


「シン!!! 大丈夫かっ!!!」

「……」


 返事はない。


「おいっ!!! シン!!!!」


 シンの元に急いで駆け寄ると……胴体が思い切り引き裂かれた状態のシンが横たわっていた。


 開いたままの目。動かない身体。


 もはや生気は……感じられなかった。


「あぁっ!!!! シン!!! 返事をしろっ!!!」

「……」

「おいっ!!!!」

「……」






 嘘だ……嘘だろ?



 お前……あんなに強いって言ってたじゃねぇか。



 僕をここまで鍛えてくれたじゃねぇか。



 あんなに負けず嫌いだったじゃねぇか。



 なのに……なのに。こんな所で死ぬなんてさ……しかも僕を庇って死ぬなんて……



 最後まで……ホントに大バカだよ。お前は。



 まだ……何にも。お前に。恩返し出来てないのに。



 やりたい事。沢山あったのに。



 どうして……先に死んじゃうんだよ。





「フハハハッ!!! ガキを護って死ぬとは愚かだなァ!! やはり死に損ないは死に損ないか!」



 魔王の高笑いだ。


 今の僕には……それがこれ以上無いほどの、不快な音声であった。



「……」

「んん?」





「絶対に…………お前を許さねぇえぇっ!!!!!」

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