久しぶりだね
洞窟内はやけに静かで、天井の割れ目からポタポタと落ちる水の音や、サラサラと吹く風の音がハッキリと聞こえてくるほどであった。
そして……この場所。すげぇ寒い。長居するのは避けた方がいいのかもしれないな。
僕は魔法で火を出し、温かいライトを作り出した。そしてそれを持って慎重に……次第に狭くなっていく、ぬかるんだ道の奥へと進んで行った。
──
歩いて10分は経っただろうか。ほぼ一本道と化した洞窟の先に、光が見えた気がした。
もちろんそれは明るい出口の光なんかじゃなくて……召喚魔法をする時に必要な魔法陣から発生する……最悪な光である。
……どうする。一気にここから距離を詰めて、叩き込むか。うん……最悪な仕留め損ねたとしても、こっちの有利な展開に運べるだろう。
よし……行くぞ。
覚悟を決めて、仲間に合図を出そうとした……その時。
「フフフ……そこに居るんでしょ?」
「……ッ!?」
おどろおどろしい声が正面から聞こえてきた。
「誰だっ!!」
すると……バサバサとコウモリの飛ぶ音がした……と思ったら。頭に角が生えた、全身真っ黒の5メートル級の怪物が立ち塞がってきた。
「……チッ。やっぱりおめェかよ……!」
怒りの混じったシンの声から……コイツの正体が魔王であると、この場にいた全員が気が付いただろう。
「へぇ、キミ生き返ったんだ。別に興味無いけど」
「チィ……その気持ち悪ィ口を今すぐ閉じろ。ぶっ殺してやるからよォ……!」
言いつつ、シンは握った刃を魔王へ向けた。
「もー野蛮だなぁ。というか……もうすぐこの世界は我々の物になるんだから。そんな事するだけ無駄なのにねぇ」
「ふざけんなッ……!」
震えたシンの手元を見るに、相当イラついているみたいだ。それでも魔王の元へ飛びかからないのは、何とか理性が勝っているからなのだろう……いつまで持つか分からないけど。
そんな殺意を向けられている魔王は全く怯える事なく、僕らを宥めるようにしてこう言ったのだ。
「そんなおこおこしちゃって……んーじゃあ特別ゲストでも呼んであげるからさ、ちょっとは落ち着きなよ?」
「特別……ゲスト?」
「おーいちょっと、こっち来て!」
魔王は光の方に呼びかける。
……すると。静かな洞窟に足音が……コツコツと。響いてきた。同時に……向こうから見覚えのある影が。次第に……次第に大きくなっていく。
「……いやだ、やめろ……やめてくれ」
「どうしたんじゃ。アル?」
思わず声に出ていた。他の誰よりも早くに……気が付いてしまっていたからだ。
そんなの当然だ。昔は……2年前は毎日と言うほど顔を合わせていたんだ。体格だって間違える訳がない。
だから……だからこそ。信じたくなかった。信じられなかったんだ。目の前に現れた人物が…………僕の心優しい先輩だなんて。
やっぱり……きっとまだ僕は、心のどこかで信じていなかったのだろう。
きっと何かの間違いなんじゃないのかって。勘違いだったんじゃないのかって。この騒ぎが終わったら、いつもの日常に戻れるんじゃないのかって。
でも……彼女はそこに居た。もっと正確に言うと、魔法陣の描かれた方からやって来た。これは言い逃れられない事実である。
「あっ……あぁ……」
「……」
そして……その影はもっと近づいて来て。もう目と鼻の先の距離になっていた。
目を背けたい気持ちでいっぱいだったけれど。逃げられないと分かっている僕は………………彼女の顔を目視した。
「……」
「ふふっ」
薄暗い洞窟の中で……彼女は微笑んだ。
本当に……認めたくないけれど、どう見てもその人は。とっても笑顔の似合うハンナさんだったんだ。
「久しぶりだね、アル君?」
「……」
「お久しぶりです、ハンナさん」だなんて、今の僕には言えるワケがなかった。
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