謎の部屋

 代わりに僕の口から出てきたのは、ハンナさんを問い詰める言葉だった。


「どっ……どうして! どうしてこんな事やってるんですかっ! ハンナさん!!」

「……」


 僕の問い掛けにハンナさんは何も答えず……じっと僕を見つめてきた。依然として、その表情は微笑んだままであった。


「ハンナさん……いいから何か言って下さいよ! じゃないと僕は……僕は………!! 貴方に刃を向けれません!!」

「……そっか。アル君は本当にお人好しなんだね」


 ハンナさんはそう呟くと、手を後ろに回して周辺をクルクルと歩き出した。そして……僕の傍に。


「理由なんか単純だよ。ただ……キライなんだよね。この世界も……私自身もね。だから魔王と国を滅ぼす手伝いをするって約束したんだ」

「やっ、約束……?」

「うん。だから……ホントにごめんね、アル君?」

「……えっ?」


 その言葉に僕は……謎の違和感を覚えたんだ。言葉には上手く出来ないけれど……何か。もっと別の事を僕に伝えようとしているような……そんな感じがしたんだ。


「フハハハッ、素晴らしい動機じゃないか!」


 そしてそれを聞いた魔王は高笑いする。


「チィ……コイツら……!!」

「やっ……やっつけましょう! あんな奴ら!」

「うむ」


 同じく僕の仲間も高ぶってきたようで、今にも戦闘が始まりそうな気配だ。でも…………待ってくれ。


 違う。いや、本当に違うんだ。何かがおかしい。


 今の僕は感情的になんかなっていないし、むしろ冷静だ。そんなの、嘘くさくて信じてもらえないだろうが本当なんだ。


 それでも……僕の中の何かが警鐘を鳴らしている。絶対にハンナさんを傷付けては駄目だと。


「よし……構えろ、お主ら」

「おうよ……!」

「はい!」


 それに気が付いているのは当然ながら、僕だけだ。そしてそれを仲間に説明する術も、時間もないだろう。


 でも、このままじゃ全滅……いや、それ以上に最悪な事が起こる予感がする。





 だから……必死に考えろ……!!この状況を打破する方法を……!!





 そして今まで与えられた数々のヒントを……思い出せっ…………僕っ!!!!


 ──


「………………え?」


 気が付くと僕は……真っ白な、何にも存在しない無機質な部屋に立っていた。


「なっ……何だ……ここは?」


 困惑しながら呼び掛けてみるけれど当然、返事が返って来る筈がなかった。何だ。何がどうなっている……?


 確か……僕は洞窟内に居て。それで、今にも戦いが始まろうとしている所で……それで。


 ──ここで1つ嫌な考えが思い浮かぶ。



 ……まさかあの世とかじゃないよな。


 怖くなって、急いで自分の胸に手を当てたけれど、いつも通り変わらずに心臓は動いていた。


「はぁー……何だ」


 ひとまずは安心したけれど……本当に何なんだここは。探索するにも、物すら無いしな……


 うーん。人間、本気で脳を使うと、時間を止められるだなんて事を聞いた事あるけど……まさかそれが発動したというのか?


 それとも一種の幻覚作用のある魔法でも、誰かにかけられたというのか……?


 ならどうしてこんな、殺すよりも面倒な事を……



 ……そこまで考えた所で僕は考えるのを止めた。



 だって不確定な要素が多すぎるのだ。それに多分、この場所や、目的なんかが分かった所で、意味なんかないと思ったからだ。


 だから……この謎に与えられたチャンスを、有効に活用するのが1番だ。



 そう考えた僕は、座り込んで……一旦、ハンナさんと出会った頃の事を振り返ってみる事にしたんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る