裏切り者

 僕らは一心不乱に走って走って……ギルドハウスの所まで辿り着いた。そこには……僕のよく知っている、とんがり帽子の女の子の後ろ姿が。


「ミミルさん!」


 僕は呼び掛けながら、建物の屋根から飛び降りる。


「なっ、もしやアルか!? 」


 するとミミルさんは随分と驚いた様な……焦った様な声を上げて、僕の方を振り向いた。そして杖の先を地面に叩きつけ、僕の元へと駆けて来る。


「まっ……全く。何処に行っておったんじゃ! こっちはとっても大変なんじゃぞ!」

「お、落ち着いて下さい、ミミルさん。一体何が起こってるんですか」


 反省したのか恥ずかしいのか、ミミルさんは帽子を深く被り直す。


「……すまん、ウチとした事が。感情的になるとはな…………魔王じゃ。また魔王がここを征服しようとやって来たのじゃ」

「魔王……」

「うむ。それに今回は前回とはワケが全く違う。モンスターの数もレベルも桁違いじゃ」


 まさかとは思っていたけど、やっぱり魔王の仕業だったのか……クソ。またこんな事になるなんて。


「襲撃の対策は……していたんですか?」

「無論じゃ! 無論じゃが…………何処からか侵入を許していたらしいんじゃよ……」

「……」


 ミミルさんの悔しそうな声を聞いて、相当な対策はしていたのだろうと予測は出来た。なら……どうしてこんな事になってしまったんだ。


 思ってると、ミミルさんがまた口を開いた。


「……じゃがな、こんな事。絶対にありえんのじゃ。魔王軍のスパイか裏切り者でも居らん限りな」

「……!」


 なるほど……さっきの大きく慌てた様なミミルさんの姿に合点がいった。多分ミミルさんは僕を疑っていたのだろう。『裏切り者』だと。


 だって魔王軍の武器の魔剣持ってるし。そこそこ街には詳しいし。ミミルさんに最近会ってなかったし。


 まぁ怪しい要素は数えたらキリないくらいあるけど……それでも。僕の事を信じてくれてたのだろう。


 だってそうじゃなきゃ、とっくに僕の事を殺してるだろうしな。


 僕は少しだけホッとしつつも、ミミルさんの方を向く。しかしミミルさんは、依然として険しい顔をしていた。


 まぁ……この様子だと裏切り者とやらは見つかってないみたいだよな。ここは僕も協力しよう。


「そうなんですか……僕も手伝います。裏切り者とやらを一緒にぶっ潰しましょう!」


 ……しかしミミルさんはすぐに「うむ」と、承諾してくれなかった。


「アル……それはこの話を聞いてから、考えるのじゃ」

「なんですか」

「あのな……数日前からハンナの姿が見えぬ」

「えっ? ハンナさんが? ……で、でもそれって、魔王軍の襲撃から逃げただけなんじゃないですか?」

「……」


 そこでずっと後ろの方で傍観していたシンが、会話に割り込んで来た。


「おい違ぇだろ。そのチビっ子が言いてえのは……」







「その女が魔王軍の人間じゃねぇのかって事だろ?」






「……………………は?」

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