既視感
「ゴボッゴボッ……! ……ハァッ……お前ふざけんなよっ、髪の毛真っ白じゃねぇか! もうジジイになったのかよ俺は!?」
「わっ、わざとじゃないもん!」
「んな事知るかよ……オラ、顔出せ……!」
そう言ってシンは僕に掴みかかろうとした……が、それは上手くいかずに、足をくじいたのかシンはその場に倒れ込んでしまった。
「えっ……シン大丈夫?」
「……」
急に動かなくなったシンを心配した僕は、しゃがんで顔を確認する……あ、良かった生きてた。でも目を閉じてる。何で? と疑問に思ってると。
「あー。魂入ったばっかりだから、まだ上手く身体を動かせないんだと思うよ」
一連の流れを見ていたドールさんが、シンの身体を起こしながら解説してくれた。
「あ、なーんだ。それなら安心……でもこれガチで寝てない?」
「疲れたんじゃないかな?」
「そんな一気に寝る事あるの?」
でもまぁ……今まで軽い身体を動かしてたシンだから、急にこんな人間サイズを動かすとなると、想像以上の体力が必要なんだろうな。
はぁ仕方ない。担いで宿に帰ってやろう。
思った僕はシンを受け取り、肩に手を回した……その時。ドールさんに呼び止められる。
「あ、ちょっとちょっとアル君」
「どうしました?」
「お会計、忘れてない?」
「……あ」
「それと、ここの掃除代も……ね?」
ドールさんはニコニコ笑顔で、スプレーで真っ白になった部屋全体を指す。
こ、これは……逃れられないな。
「あっ……はい。ホントすいません」
僕は震えた手で、財布に入っていたお金の殆どをドールさんに渡した。
「はーい、ありがとうございまーす。またのお越しを!」
「……こちらこそ。ありがとうございます」
軽くなった財布と重たくなったシンを抱えて歩く帰り道は、中々辛いものであった。
──
で。次の日から、人間になったシンとの特訓がまた始まった。シンが剣を握れるようになったため、模擬戦的なヤツもするようになった。
最初のうちは僕が勝ち越していたのだが、徐々に感覚を取り戻していったのか、シンとほぼ互角の戦いを繰り広げるようになったのだ。
「ははっ、やっぱりシンは強いね!」
「まだまだ俺はこんなもんじゃねぇよ……! 立て、もう一度だ!」
「うん!」
────世界最強の冒険者になるという夢。それにどんどん近付いている感触を、今の僕は確かに感じていたのだ。
そんなある日。特訓終わりにシンが僕にこんな提案をしてきた。
「おいアル。たまには街の風呂屋にでも行かねぇか? さっぱり疲れを流してぇ気分なんだ」
「え? それは良いけど……シンは大丈夫なの? 何か変な大事なパーツ溶けたりしない?」
言うとシンが僕の肩を小突いてきた。
「バーカ。大丈夫だっつーの、もう俺は完全な人間なんだからな。それに……お前いっつもあそこの滝で浴びてばっかだろ?」
「まぁ……そうだけど」
「だろ? なら行こうぜ?」
「は、はぁ」
別に滝で良いんだけどな……ん? いや、ちょっと待てよ。
もしかして……自分が風呂に行きたいと見せかけて、僕の事を気遣ってそう言ってるのでは? シンなりの優しさなのでは?
も〜。可愛いんだから〜。それなら行かない理由はないよー。
「うん、そうだね。それじゃあ行こうか!」
「おう」
了承した僕は、完全にマスターしたテレポートを使用して、街の方まで飛んでいくのだった。
──
「……ん?」
だけど……街に到着した瞬間に、僕は何か嫌な感触を覚えてしまった。どうも街の様子がおかしいのだ。
何やら人々がざわめいて、何かから走って逃げている……そして心地の悪い熱風が僕の頬を撫でた。
「えっ……シン。こ、これって」
「……前にも見たなこんなの」
「えっと、とっ、とりあえず……行こう! 嫌な予感がするよ!」
「ああ。上から行くぞ」
僕らは跳躍し建物の屋根を登って、騒がしい方へと駆け出した。
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