変身!

 ──そして数日後、またまた僕は人形屋さんに足を運んだ。もちろんその理由は、完成しているかを確かめるためである。


「こんにちはドールさん。進捗はどうですか?」


 僕は扉を開き、受付の所でうつ伏せ状態のドールさんに向かって言った。


 するとドールさんはむくりと起き上がって。


「……ん、おおーアル君かぁ。実は昨日、やーっと完成したんだよ。見てみる?」

「あっ、はい! 是非!」

「ふぁぁー。こっちだよー」


 眠そうな声を上げるドールさんの後ろをついて行って、奥の部屋へと向かった……そこには。


「おぉっ……!」

「……へぇ」


 非常にリアルなシンの身体が、シートの上に置かれてあった。顔も絵画にあったシンとそっくりである。


「こんな感じで作ったけどどうかなー。サイズとか合わせるの結構頑張ったよー?」


 ドールさんの言うだけあって、クオリティは申し分ない。人間と言われても普通に信じてしまうくらいである。


「凄い! これなら完璧ですよ! なぁシン!」


 僕は肩の上のシンに同意を求める。


「……まぁ悪くはない。でもこれが動くかは分かんねぇんだろ?」


 するとシンはスカした様にそう言った。何で上から目線なんだよお前。


 で、それを聞いたドールさんは両手を上げて……


「なら早速挑戦してみる? 失敗してもまた改良すれば良いだけだしー」

「ん。じゃあ頼む」

「はいはーい。じゃあそこに寝転んでね」


 言われた通りに人形のシンが寝転ぶ。その隣にはリアルシンの人形が……なんか凄いなこの光景。


「それじゃあいくよ……」

「ああ」


 そしてドールさんは魔法を詠唱しながら……魂を入れ込む様な動作を行った。そして何秒か経ってから、ドールさんがシンに尋ねた。


「……どうかな? 動くかな?」

「……」


 ……すると。大きなシンの人形がピクピクっと、鋭い目がパチパチっと動いて。


「……ん、あぁー。なんか身体がすげぇ重ぇな」


 気だるそうに、大きな人形が身体を起こしたのだ。


「シン……やったね!」

「どうやら成功みたいだねー。良かった良かった」

「……えっ。マジ?」


 シンはやっと入れ替わったのに気がついたのか、ポカーンとしたまま手をグーパーグーパーする。


 そしてしばらくウロウロした後、「へへっ」とギザ歯を見せてこう言ったのだった。


「これが本当の俺……アル。そしてドール。サンキューな。やっと夢が叶ったぜ」

「うん! やっと、ちゃんと会えたね! 嬉しいよ!」

「……ああ。そうだな」

「じゃあ早速イメチェンしようか!」

「……ん?」


 実は昨日、こっそり髪の毛を染めるスプレー缶を沢山購入していたのだ。僕はそれを箱から取り出す。


「え、もう変えるのか?」

「うん。何色にする?」

「……好きにしろよ」


 そう言われると困っちゃうな……うーん。と悩んだ所で、隣に今までシンの魂が入っていた人形が目に入った。


「そうだ。この子と同じ白髪にしようよ! 新型に旧型のパーツと同じ部分があるってヤツ、意志を受け継いだみたいでアツくない!? こういうのシン好きでしょ!!」

「いや別に……」

「僕は好きだね!!」


 僕は白色のスプレー缶をクルクルと回しながら、2本とも持ち上げた。


「じゃあ後ろ向いて!」

「……ああ」

「えいっ!」


 そしてスプレーのボタンを押すと……


「ぎゃー!!!」

「うわっ!!」


 予想の3倍くらいの勢いで、それは噴射されたのだ。

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