再会とぬいぐるみ
そしてジェネさんがモンスターを確保してくるまでの時間、僕らは話し合いをするのだった。
「それでシン……やっぱり『フェイク』は見破れる人が何人もいるみたいだよ」
「そうみてぇだな」
「魔剣の正体に気づいた人が毎回僕の事を襲ってくるの、もう耐えられないよ……どうにかしてよ!」
魔剣の正体に気づいたミミルさんやジェネさんは何とか誤解を解けたけれど……これから出会う人全員を誤魔化せる自信はないのだ。
それに魔剣と分かった瞬間に命を狙ってくる人が居たら、いくらシンとはいえ対処出来ないだろうし……
だから早いところ、『フェイク』より上手い魔剣の隠し方を考えなくちゃいけないのだ。
でもそれが見つからなくて……
「でもよぉ、物を変化したように見せる魔法だなんて『フェイク』位しかねぇんだよ。」
「そんな……」
「んー。ならいっその事、お前が魔王軍に入れば万事解決なんじゃねぇの?」
「……」
聞いて僕はシンを強く握った。
「……シン。いくら冗談とは言え、そんな事は絶対に言っちゃ駄目だよ」
「……悪ぃ」
きっと和ませる為に言った冗談なのだろうが、流石にそれは笑えない。街だってめちゃくちゃにされたんだから……でもまぁ素直に謝ってくれたのは良かったよ。
「……」
「……」
でも……空気は一気に悪くなった。結局何も解決策見つからないし……おい。どうすんだ。これ……
『コンコン』
そんな静寂な僕らをぶち壊すノックの音が。もしかしてジェネさんが戻って来たのかな……?
「おーい。ウチじゃーアル」
何だ、ミミルさんじゃんか……今度は何の用なんだろうか。また変な依頼でもしに来たのかな……もう面倒な事は嫌なんだけどな……
意味はないと知りつつも、誰なのかを尋ねた。
「ど、どちら様ですかー?」
「ミミルじゃー早く開けぃ」
「ミミルさん……要件を先に言って下さいよ」
「いーから入れるのじゃ。さもないとここから追い出すぞー?」
……それは困る!!
思った僕は足早に部屋の鍵を開けた。
すると扉の外にはミミルさんと……
「あっ……!」
「久しぶりだね、アル君!」
ハンナさんの姿がそこにはあった。
「ど、どうしてここが?」
「その女子がお主に会いたいと言うから、ここまで連れて来てやったのじゃよ。全く……ウチに感謝せい」
「そうだったんですか……ありがとうございます、ミミルさん」
「うむ……それで。どうしてお主はぬいぐるみなんかを握っておるのじゃ?」
「えっ?」
言われて僕は右手を見る……が、変わらず僕の手には魔剣が握られていた。
何が起こってる……と頭にクエスチョンマークを浮かべていると、脳内に声が……
『おいアル。咄嗟に【フェイク】発動したから、ミスってクマのぬいぐるみに変わっちまった』
いや何でだよ!?
『だから今他のやつからは、お前の手にはクマのぬいぐるみが握られているように見える』
そ、そんな……またハンナさんに変な誤解されちゃうって……! 変人扱いされちゃうって!
……ってあれ? ミミルさんには『フェイク』効かないんじゃ?
と、そんな僕の脳内を読み取ったのか、シンは続けて言う。
『あのちびっ子は見破ってるだろうが、後ろの女と話を合わせるためにワザと乗ってくれてるんだろう……だからお前も合わせろ』
なるほど……何から何まで申し訳ないミミルさん……今度飴ちゃん奢りますから……!
思いつつ僕は……何とかぬいぐるみを持った少年が言いそうな事を無理やり捻り出した。
「えっと……最近寂しいからコイツと一緒に過ごしてるんですよ! な! ダーちゃん!」
「ウン! (裏声)」
『……キッツ』
「……」
「……あ、あー。かっ……可愛いね?」
そんな目で……僕を見ないでくれよ……
「そ、そんな事より! ハンナさん! 無事でしたか!」
「うん、アル君のおかげで助かったよ! 本当にありがとうね!」
「いえいえ! 本当に無事で良かったです!」
そして一連の会話を聞いたミミルさんは。
「んじゃウチはもう行く。あとは
「うん! ありがとねミミちゃん!」
「お主……ミミちゃんと呼ぶでない」
そう言ってミミルさんはここから去るのだった。
そして残った2人と1匹。何を……何を話そう。
「ええっと……そうだ。あの最近全く仕事行けてなくてすみません」
「あーいいのいいの! 今はお客さんは少ないし! それにアル君は本業冒険者だもんね」
「あっ……はい!」
「ふふっ、ミミちゃんも褒めてたよ? 『あやつにはもっとスゴい力がある』ーって」
そんな事言ってたんだミミルさん……! うわー嬉しいな。
「……って、そういやハンナさんはミミルさんと知り合いだったんですね」
「うん、ちょっとしたきっかけでね……それでたまたま出会ったから、アル君の場所知ってないか聞いたんだー」
そうだったのか。流石ミミルさんは顔が広いな。
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