従者?

「ったく、マジで世話の焼けるヤツだ……」

「おおぅん……癒される……」

「キショい声出すな」


 結局、宿屋近くにテレポートした僕らは息も絶え絶え宿の自分の部屋に戻る事が出来たのだ。


 それで今は焼けた箇所を回復魔法で治療中……


「しかし……ポーションを割って浴びるなんて、どんな脳ミソしてんだお前?」

「もしかして褒めてる?」

「やーっぱおめでたい頭してんな」


 シンはやれやれと呆れたように言う。まぁ……焦ってたとはいえ、自分でもあの行動は狂ってたと思う。


 でも、そのおかげで助かったのも事実……


「……ハイ終わり。これでも痛むんなら、包帯でも巻いとけよ?」

「いや、大丈夫。ありがとね」

「フン……」


 最近気がついたんだけど、シンって褒めるといっつもスカした態度取るよね。照れてんの?


「それより……アイツは出さなくて良いのか?」

「あいつ?」

「ジェネとか言うヤツだよ」


 あっ。普通に忘れてた……まぁ自分の事で精一杯だったもんね。


 しばらくゴロゴロした僕は、あの箱をまた部屋に召喚したのだった。


「さて……えー。ジェネさん、出ろ!」


 するとにょろーんとジェネさんが箱から現れて……


「はぁっ……ここは!?」

「僕が借りてる宿の部屋です。大丈夫でした?」

「大丈夫だと思うか!? 完全に死んだかと思ったぞ!」


 早めに箱に押し込んだからか、見たところジェネさんには大きな怪我らしき物はなかった。


「あぁよかった」

「どこが!?」

「まぁその辺座ってください」

「貴様……」


 言いつつもジェネさんはベッドに座る……いや椅子に座ってくださいよ。別にいいけどさ。


「それで信じて貰えました? アレ見せたんですからさ……」

「いや……あれが『インフェルノ』だという証拠はどこにもない。何せ今使える者は居ないのだからな」

「……」


 どんだけ疑り深いのこの人。流石の僕もキレそうだぞ。


 ……と、そんな僕の心を代弁してくれてるかのように、シンは言ってくれる。


「あぁ? ならお前あのレベルの火属性魔法見た事あんのかよ?」

「それは……」

「チッ……お前それでも『ロイヤルソード』団長なのか?ギルド内盟約その8言ってみろよ?」

「えっ……その8?」


 ジェネさんは不意を付かれたように、目を見開いて繰り返す。


「言えなかったら……どうなるか分かってるよな?」

「えっ……えっと……『仲間を信頼し、妄りに疑う事なかれ』」

「そうだ」


 あっ、そんなのあったんだ。シンが作ったクランでも一応そういうのはしっかりしてるんだな。


 そしてそれを聞いたシンは少し上機嫌でこう言った。


「別にこれは団員同士仲良しごっこしろってルールじゃねぇ。背中を任せて戦う仲間なんだから、気に食わないヤツがいても少なくとも戦場では信頼しろ……って意味を込めて俺が作ったもんだ」

「あっ……はい」

「まぁ『裏切り者は抹殺する』なんてのもあるけどな……これでも信じないか、ジェネ?」

「まさか……ほんとに本物!?」

「ずっと言ってんだろ」


 するとジェネさんは立ち上がったかと思えば、「あぁ……」と声にならない声を上げて、顔を地面に押し付けた。


「あっ……あぁシン様……!! この愚かな僕の……今までの御無礼をお許しください……!! 何でも致しますから……!!」

「チッ……そういうの今更要らねぇよ」

「しっ、しかし!」

「ならそこのガキに斬られてみろ」

「……はい! 承知しました!」


 元気よく返事して、ジェネさんは僕に背を向ける。


「えっ、え、えっ!?」

「君もずっと疑って済まなかった……この命、シン様に捧げるのも覚悟の上。一思いにやってくれ!」

「いやいや、やりませんよ!! 何言ってるんすか!」


 一体僕に何をさせるつもりなんだシンは!


「ちょっとシン! ジェネさんに何させてるのさ!」

「フン……お前、俺を鞘に戻したがってるだろ? だからそいつ斬って血を回収すればいい」

「いやいや、だからって人は斬らないよ!」


 いくら自分がジェネさんのこと憎いからって、そんな事させちゃ駄目でしょ!


「……あ、そう。じゃあコイツどうすんだよ」


 どうもこうも、解放してあげればいいんじゃ……まぁこんな目にあったのはジェネさんのせいだし、僕も怒りがないと言えば嘘になるけど……


 なら少しくらい何か頼んでもいいのかな……? あ、いい事思い付いた。


「ええっと……ならジェネさん、定期的に弱いモンスターを確保してきてくれませんか?」

「モンスター?」

「はい。シンは血を吸収しないと……死ぬんですよ」

「え、そうなんですか!?」


 ……正確には僕が死ぬんだけど。


「はい。それに今の時期モンスターは少ないので、探すのも大変なんです……だからモンスターを確保してくれると、シンが助かります!」

「はい、分かりました! シン様の為、精一杯確保して参ります!」


 ……やった。これで血を回収する手間が省ける……! やったよ僕……!


 と全面に喜びたい気持ちを抑えて。


「それじゃあ早速で悪いんですけど、今から何か捕まえてきてください。シンがお腹すかせてますから」

「はっ、はい! 任せてください!」


 そう言ってジェネさんは僕の部屋を元気よく出て行ったのだった。


 ──


「これまた便利なやつを従えたな、お前」

「へへっ……だから殺さなくて良かったでしょ?」

「お、おう……そうだな……」

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