信じる

 全く予想もしなかったジェネの言葉と行動に、僕は頭が真っ白になる。


 それでも何とか……何とか震えた声で聞き返したんだ。


「あっ……悪魔?」

「ふん、しらを切るつもりか? そんな魔剣なんかぶら下げてよ……」

「ど、どうしてそれを……?」

「僕が【フェイク】を見破れないとでも思ったか?」

「……」


 ……ん? いやちょっと待て。これって……すっげぇデジャブ! というかまんま! ミミルさんに疑われた時と全く同じだよ!


 というかシンは【フェイク】の力を過信し過ぎなんだよ! バレる人にはバレるじゃんか!


 とにかく早く誤解を解かなくちゃ!


「ちっ、違う! 確かにこれは魔剣だけど、呪われて僕から離れないんだ! 好きで持ってる訳じゃない!」

「なら何故お前は魔剣を操れる? 大抵呪われた人はすぐに死ぬ……お前が死んでいないのは魔王軍の人間だからだろ!」


 熱くなったのかジェネは大声でそう言って、握った剣をジリジリと僕に近づけてくる。


「それは……! 僕が──」

「もういい。お前が表彰されたのも僕らを油断させる為だったんだろ。信用を勝ち取ったつもりだろうが、それも失敗に終わったな」


 もしかして……表彰式の時に感じた視線は、ジェネのものだったのか。もう少し警戒しておけば良かったな……


「そしてギルドを内部から壊滅させようとしていたんだろ? ……この悪魔。ここで殺してやる!」

「ほんとに違うんだ! それに……っ!」


 本当は言わない方がいいかもしれないけれど……この状況だ。やむを得ない。


 僕は魔剣を取り出し、見せつけながら言った。


「実はコイツの正体は、お前が信仰するシン・クレイトンなんだ! だからその剣を置いて落ち着いて話でも……」


 僕が言い終える前に、ジェネの身体全体がプルプルと震えだし……顔を真っ赤にして、僕を睨みつけてきた。


「お前ッ……!! 我らのシン様まで愚弄するつもりか……!! 絶対に殺してやる……!!!」


 そう言ってジェネは僕に飛びかかってきた……が、なんとか間一髪。避ける事に成功した。


「うわっ!」


『はは……我らのシン様だってよ。まったく照れちゃうぜ』


 言ってる場合かぁ!!


 ジェネは空振ったと見るなり、また僕を殺す目をして追いかけてくる。


「殺してやる……殺して僕が世界を守るッ……!」

「うわっ、マジのやつじゃん! これやばいって!」


 僕は必死に森の方へ走って逃げつつ、命からがらシンに呼びかける。


「シン!! どっ、とりあえず僕を強化してくれ!!」

「へいへい……【軽量化】【加速】【物理ダメージ軽減】こんなもんかな」


 するといつもの通り身体が温まり……僕は身軽になった。そして僕は圧倒的速さで駆け出して行く。


 よし、これで逃げ切れるはず──


「おい待てぇ!!」

「えっ……!?」


 背後からジェネの声がする……どうしてこの速さについて来れるんだ……!?


「お前だけが魔法を使えると思うなぁ!! どうせ魔剣の力だろうがな!」


 クソっ、そういう事か……そりゃ剣士でも魔法使える人いるもんな……!


 思いつつ走っていると。シンの声が。


「おいアル、あいつの方がスピードは異常に速い。逃げ切ろうなんざ考えない方がいい」

「えっ……そ、それじゃあテレポートは?」

「馬鹿、時間がかかる。それにその間は隙だらけだ」

「なら……戦うしかないの!?」

「そういうこった」


 そんな無茶な……! いくらこっちが魔剣持ってるとはいえ、相手は大型クランの団長……とても勝てる相手じゃないよ!


「そんなの……無理だよ!」

「ふぅん。じゃあお前このままだと、追いつかれて殺されるぞ?」

「でもっ……!」


 逃げても死ぬ……戦っても死ぬ……なら僕はどうすりゃいいんだよ! 今度こそ本当にどうしようもないのか……?


 なんで僕がこんな目に合うんだよっ……クソっ、なんか泣きそうになってきた……!


「泣くなアル」

「まだ泣いてない!」

「まぁ……たまには俺を信じてみろって。守ってやるからよ」

「……えっ?」


 シンらしからぬ言葉に僕は驚いてしまって、少し固まってしまった。


 そんな無言の状態に耐えられなくなったのか、シンは続けて言った。


「あのな……こんな所でお前に死なれちゃ俺が困るんだよ。ほら……せっかく勇者に会えるかもしれねぇって時によ」

「……」

「だから……とりあえず俺の言う事聞け。そしたらお前は絶対に生き残れるから」


 シンはただ自分の目的の為だけにそう言ったのかもしれないけど……本心からじゃないかもしれないけど。


 その言葉を……信じても良いかなって僕は思ったんだ。


「……うん。僕はお前の事信じるよ! とりあえずどうしたらいいの?」

「そうだな……まず止まれ」

「わ、分かった」


 僕は走っていた足を止め、立ち止まった。


「逃げるのを諦めたのかい? まぁ賢明な判断だと思うけれど」


 ジェネもすぐに僕に追いついてそう言った。


 走っている内に落ち着いたのか、ジェネは元の口調に近い状態に戻っていた。


 そしてジェネは1歩ずつ……剣を構えながら僕の方へとやって来る。

 

 僕は聞こえるか聞こえないかの声でシンに言った。


「ど、どうするの?」

「ああ……まずは両足を開いてだな」


 僕は言われた通りにする。


「次は」

「膝を曲げて……目をつぶれ」

「こ、こう?」

「そして俺を掲げるように前に持って、そんで舌を出せ」


 ……僕は言われた通りに動いた。


「お前……? 何を?」


 ジェネは気味悪そうに……怪訝な顔をして言った。


 けれど、この状況の意味が分からないのは僕も同じだった……本当になんの意味があるんだよこれ。


 ……信じるって言った手前やるけどさ。


「それで……トドメに相手を煽れ」

「煽る……?」

「……じゃあいい。俺が言う」

「え、ちょ、ちょっと!」


 そしてシンは僕の言葉を聞かずに……ジェネに向かってこう言ったんだ。






「おい! ジェネとか言うやつ!」

「……ん?」

「よく聞け!! お前の信仰しているシンは、雑魚だから魔王に負けたんだ!! 仲間の指示を無視して突っ込んだ……勇敢と無謀を履き違えた、本物の大馬鹿なんだよ!!」

「なっ──」

「そんなヤツの作ったクランに居座り続ける……お前らも。これ以上にない大馬鹿なんだよおっ!!!!」

「きっ……貴様ぁ!!!!!!」

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