熱烈な勧誘

 そして表彰式終了後……僕は一躍時の人となった。


 詳しく言うと、知らない冒険者が話しかけてきてくれたり、僕と一緒にクエストを受けようと誘ってくれたり……中にはアイテムを僕に分けてくれる人も現れたんだ。


 こんな初めての事に僕は少し戸惑っちゃったけれど……とっても嬉しかったんだ。


 ……そんな中。水を差すような事を言ってくる奴が1人。


『お前さぁ……浮かれてチヤホヤされたい気持ちも分かるけどよぉ。もう少し大人しくしとけって』

「えっ? うっ、浮かれてなんか……ないよ? 」

『いやいや……顔見りゃわかるって。お前俺の前じゃそんな顔しねぇだろ?』

「……えっ?」


 ……なっ、何なんだ急に。独占欲強い彼女みたいな事言わないでくれよ。すごく怖いから。


「別にそんなんじゃ……ただ、こんな僕に時間使って話しかけてくれてるんだから、僕も全部しっかり返そうって思っただけで……!」

『あ、そう……まぁこれ以上は何も言わねぇけどよ。好きに友情ごっこやってたらいいじゃねぇか』


 ……かと思ったら急に嫌味を言ってきたぞ。結局何が言いたかったんだコイツは……


「君がアル君だよね?」

「んっ?」


 ふと、背後から声をかけられた。僕は応答しつつ、振り向いてみる。


「はい、そうですけど」


 そこには青色のコートを羽織った、高身長の男が立っていた。腰元にはロングソードが刺さっている事から、冒険者だと一目で分かった。


 そしてその男は僕の声を聞くなり、自己紹介を始める。


「良かった。僕は『ロイヤルソード』ってギルドの団長をやってるジェネ・カセレスって者だ。それで、君に話したいことがあるんだけれど……」

「はい、何でしょうか」


 するとジェネと名乗った男は。


「ここでじゃ何だし、外で話そう。待ってるよ」

「あっ……」


 そう言って僕が呼び止める前に、外の方へと歩いて行ってしまった。


 うーん、どうしようか。今までの僕なら迷わず向かったと思うんだけど……シンに大人しくしとけって言われたからな。


 ここは行かない方がいいのかも……


『おいアル、何ぼさっとしてんだ! あの男を早く追えって!』

「えっ? でもさっき大人しくしとけって……」

『知るか! 早くしろ!』

「えっ……えぇ……?」


 全く……ホントに何なんだ。せめて言ってる事を統一してくれよ。そう思いつつ、僕ははジェネさんの後を追うのであった。


 ──


 ジェネさんを追って森の方へ来た。風の音しか響かない、とても静かな場所である。


「ああ、来てくれたんだね。嬉しいよ」

「結構歩きましたよ……それで、話ってなんでしょうか?」


 ジェネさんはじろーっと僕の目を見た後に言う。


「……それはね、僕のクランに入らないってお誘いなんだ。どうかな、悪い話ではないだろう?」

「ええっと……クランですか?」

「うん……そうだけど、どうしたの?」

「あ、いえ……クランの事をあまり理解していなくてですね」


 そう。僕はクランについて知識がほぼ無い……というか意味を知らないのだ。


 最近はミミルさんの口からよく聞いていた様な気もしてたけど……何となく分かったフリを続けていたから、聞くタイミングを失っていたのだ。やっぱり知ったかぶりは良くないね。


 そんな僕にも、ジェネさんは優しく教えてくれた。


「クランって言うのは冒険者達の集まりの事さ。それに入っていたら、一緒にクエストを受ける仲間がすぐに集まったり……武器や食べ物が安くなったりする特典もある所もあったりするんだ」

「へぇ。そんな便利な事が」

「うん。だからクランに入らないのは、かなり損する事なんだよ?」


 なるほど……大体分かった。確かにクエスト受ける度に、即席のパーティを作るのは面倒だし、クランは便利な物かもしれない。


 それに仲間の得意な部分とか知ってたら、戦闘もスムーズに行えるだろうしね。


 だけど……少し気になる事が。


「でも……何で僕なんかを勧誘するんですか?」

「それは君が輝かしい功績を持っているからさ。Fランクだろうと、僕は歓迎するよ?」


 笑顔でジェネさんは答えた。


 そう言ってくれるのは有難いけど……そんな表彰されただけで……僕の動きすら見ないで誘うのもおかしくないか……?


 僕が黙っていると、続けてジェネさんは言う。


「それにこのクランは伝説の騎士、シン・クレイトン様が結成した歴史のあるクランなんだ。少し厳しい言い方をすると……その辺の人じゃ簡単には入れないんだよ?」

「えっ。あのシン…………様ですか?」

「そうだよ。あの勇者パーティにいたシン様さ!」


 ……あー。だからコイツは反応したんだな。と僕は魔剣をチラ見する。


『……は? んだよ。悪ぃかよ?』


 何も言ってないじゃんか……


「それで、返事を聞いていいかい?」

「あっ……はい」


 まぁ……それでもこんな大きなクランは魅力的だけど。いきなりそんな強そうな所に僕が入るなんてな……考えただけでもストレスとプレッシャーでお腹が痛くなる。


 それに他のクランについて何も知らないし……答えを出すのは早すぎるよね。


 でもシンは何て言うかな……と思ってたら。


『でも……コイツ気に入らねぇな。アル、こんなトコ絶対入るんじゃねぇぞ』


 意外にも答えは否定的だった。シンの事だから入って偵察しろとでも言われると思ったのに──


『俺がクランマスターの頃は、絶対こんな雑魚スカウトしなかったからな。コイツは見る目が無さすぎる』


 ……ただ僕をディスってただけだった……まぁ何にせよ……意見は一致したみたいなので。


「あの……もう少し他のクランを見てから決めたいので……ごめんなさい」


 僕は丁寧に断った。するとジェネさんは


「えっ、今しか入れないよ? こんな事滅多にないんだよ? 本当にいいの?」


 何で入らないのか理解できない、とでも言いたげな目でそう言ってきた。


「あの……だから……すみません」

「……」

「……ご、ごめんなさい?」

「……」


それからジェネさんはずっと黙ったままだった。


何? どうすりゃいいの? まさか『はい』と答えるまで帰さないつもり……?


とにかく何か言わなきゃ……!


「いや、あの、誘ってくれたのは本当に嬉しくてですね……! それは本当で……!」

「……いいよ」


 するとジェネさんは、さっきとは全く異なる声色で僕の言葉を遮るのだった。


「……もういいよ」

「えっ……? ジェネ……さん?」

「いいんだ。それなら……」


 そしてジェネ……は……腰元の……剣を……手に……



『やべぇアル! そいつから離れろっ!!』





「……ここで死ねよ。悪魔が」


 僕に刃を向けてきたんだ。

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