じぶん
──で、今に至ると。
ミミルさんは淡々と表彰式を進めていっていたけれど、僕はあまり内容が頭に入ってこなかったんだ。
まぁ……それも当然だよ。だって明らかに場違いな僕が、凄腕の冒険者と並んで立っているのだから。落ち着いている方がおかしいよ。
「……はい、以上エリカさんでした。皆の者拍手を!」
それでも大きな声は僕の耳に入ってくる。どうやら隣の隣にいた女騎士の紹介が終わったらしい。
そして辺りは拍手に包まれる。
……聞いて僕はここから逃げ出したい衝動にも駆られたが、そんな勇気すら僕には持ち合わせていなかった……というか何で僕これ承諾したんだろうな。
「えー次は……AAランクのレウス・アラガルトじゃな。こやつはキメラの大群を1人で……しかも、ものの数分で討伐した。普通にスゴいんで表彰するんじゃ」
「おう、サンキュ! 最強魔法使いのミミちゃんに褒められるなんて嬉しいぜ!」
「レウス……いい加減その呼び方やめい」
「なんでさ!」
そしてミミルさんは聞こえるほどの舌打ちをぶちかました後、放り投げるようにレウスへと表彰状を渡した。
「……では。皆に一言あるか?」
「あ、仲間募集中なんで! よかったらお前ら、オレんとこ来……」
「はい、以上レウスくんでした」
レウスを押しのけ強制的に終了したミミルさんは、次は僕の番だと手を子招いて、1歩前に出ろとジェスチャーで伝えてくる。
僕は……震えた足を1歩前に出した。
「お次はFランクながらも、ブラッディウルフを30体以上を討伐した、冒険者のアルじゃ。その勇敢さと……今後に期待的な感じで表彰するんじゃ」
「あっ、ありがとう……ございます」
僕はミミルさんの持つ表彰状をサッと奪い取って、逃げるように元の場所へ戻ろうと考えていたのだが……
「……」
「……えっ?」
ミミルさんが力を入れて握っていたため、それを取ることができなかったんだ。
そんな予想外な事に驚いた僕は、反射的にミミルさんの顔を見たんだ。そしたら……
「どうしたんじゃアル。もっとシャキッとせんか」
「えっ」
小さな声で、僕にそう言ったんだ。
もしかして……ミミルさんはさっきから僕の様子が、変だった事に気がついていたのかもしれない。
「あっ、は、はい……」
「ほら、あのレウスの堂々っぷりを見習え。あやつ、ふんぞり返っておるぞ」
理由はよく分かってなさそうだけど。
僕は「そんな事、僕なんかが……」と3人の冒険者の顔と、ミミルさんの顔を交互に見た。
……そしたらすぐに察してくれたようで。
「うむ……確かにアルと他3人とは凄さのレベルは少し劣るけれど……それでもお主は命懸けで戦ったんじゃ。それは褒められるべき点じゃよ」
そう言ってくれた。その言葉はとても嬉しかったけれど……それでも僕は素直に受け止めきれなかったんだ。
「でも……! 僕は……! 僕はただアイツの力に頼って戦っただけで……! 」
「……」
「何も……他の人に比べて凄いことなんか……!!」
と言った所でミミルさんの拳が目の前に──
「うわあっ!! …………えっ?」
恐る恐る反射的に瞑ってしまった目を開くと、ミミルさんの拳は僕の目の前で止められていた。
そして呆然とした僕に向かってミミルさんは「はぁ……」と大きなため息の後に
「……馬鹿モノ。常人にあんなもの扱えるわけなかろう。ヤツを使いこなす事こそが……お主の卓越した才能ではないのか?」
呆れたように、そう言ったんだ。
『ケケケッ、おチビちゃんの癖にいい事言うじゃねぇか』
そして頭に魔剣のケラケラ笑い声が響く。でも……魔剣も。いや、シンもミミルさんの言葉は否定しなかったんだ。
なら……シンも同じような事を思っていたというのか……?
「ほら、顔を上げい」
言われて、はっと顔を上げる。
するとそこには……大勢の冒険者達が、笑顔で僕の事を褒め称え、拍手や歓声を上げる……そんな不思議な光景が広がっていたんだ。
「すごい……」
「これがお主の力なんじゃよ。やっと分かったか?」
……そっか。ずっと怖がって、背けて見ようともしなかった冒険者達の顔は……こんなにも輝いていたんだ。
「すげぇなアル!」
「命張って戦ったってかっけぇよ!」
「やるな! お前Fランとは思えねぇぞ!」
そして……聞こえる。僕を褒め称える声が。
ちょっと前までは人間以下の扱いされていた僕が……見下され、罵倒を浴びせられまくったこの僕が……
──ここに。この場所に居る。
何だ。僕の事を1番認めていなかったのは……
僕だったんだな。
「えっ! おっ、おいアル! 何でお前泣いてんだよ!?」
「……えっ?」
レウスに言われて、はっと我に返る。そして自分の瞳から雫がぽたぽた流れ落ちているのに気が付いた。
「あっ……あははっ! ……なっ、なんでだろ!」
自分でも何で泣いているのかよく分からないけれど……それでも、不思議と晴れ晴れとした気分になっていたんだ。
そして少し時間を取ってくれて……僕が落ち着いた頃になってミミルさんは言ったんだ。
「うむ……それでは最後にアルから一言貰おうかの。さぁ、何でもよいぞ」
「はい、えっと……あの……」
「早くFラン卒業したい……です! 」
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