選ばれし者?

「はぁっ……はぁーっ!! 疲れた!! もうヤダ!! 寝るもん!!」


 僕は魔剣を部屋の端の方に投げ捨てて、宿のふかふかベッドにダイブした。


 ベッドはボフンと弾んだ後、僕の身体を優しく包み込む。ああ……どうしてお前はこんなにも愛おしいんだ。ぜってぇ離さないからな……


「へへッ、ひょろひょろにしては頑張った方じゃねぇか?」


 突如。その辺からヘラヘラした不快な声が聞こえてくる。僕はそいつに目もくれずに、当たり散らした。


「あー!! うるさいよ!! お前が『ちょっと魔法の練習しよう』なんて言わなきゃすぐ帰れたのに!!」

「お前だって乗り気だったじゃねぇか」

「だってあんな事になるとは思ってなかったもん!!」


 そう。あんな事になると分かっていたら、僕だってそんな事は絶対にしなかったのだ……


 ──


 ……説明。


 結局あの後、僕らは血をゲットする為にガラン平原へと向かったのだ。


 でも依然としてモンスターの姿は少なく、見つけるのも時間がかかりそうだった。


 だから魔剣が『折角こんな広い場所に来たんだ。魔法の練習でもしねぇか?』と言ったんだ。


 僕は指輪の具合も確かめたかったし、練習するのも大事だと思ったから「もちろんだ」と答えたんだ。ええ、答えましたとも。


 そして僕は魔剣の魔法で火の玉を放ったり、魔剣を氷の剣に変化させたり、辺りに雷を落としたり……途中から遊びみたいな事してたけど、一通り練習っぽい事をしていたんだ。


 それで……いくら指輪を付けていると言っても、そんなに連続して魔法を放ったら、魔力も当然尽きそうになるわけで。


 ヘトヘトになった僕は、草原へと思いっきり寝転んだ……それと同時に魔剣がこう言ったんだ。


「あ、12時の方向にモンスターの反応アリ。コイツを逃せば……次のチャンスは明日かもな?」

「はぁーん!!???」


 次を逃せば明日……冗談じゃない。外で寝泊まりなんか出来るかよ! 寒いし!!


 そう思った僕は急いで立ち上がって、向かおうとした……けれど指輪で回復してるとはいえ、残り魔力はカスカス。当然のごとく僕はフラフラしてしまう。


「シン……! ぽ、ぽぽポーションくれぇ……!!!」

「へいへい……」


 僕が声にならない声で叫ぶと、魔剣は空から黒い箱を出してくれた。例のあの無限箱インフィニティボックスというヤツだ。


 そして僕は『ポーション出ろ!!』念じて、箱から出す。そしてそれを一気に飲み干した。


「……っパはぁっ! ……あぁっ!!」

「うっさ」


 それで僕は元気になる……と思っていたのだが。


「あれ?」


 そんなに変わらなかった。いや、確かにフラフラはしなくなったけど……そんなものか? とか考えていると。


「ポーションは魔力は回復するだけだぞ」

「え?」

「だから魔力を回復するだけ……つまりだ。魔力切れで失った体力はポーションじゃ回復しない」


 何だ、ポーションも万能じゃないんだな。じゃあそれならと僕は。


「ならお得意の魔法で、体力回復してよ!」

「あのなぁ、俺は怪我の回復しか出来ないの。疲れとか、そういうのは普通に無理」

「……」

「行かねぇの? 魔物、逃げちゃうぜ?」


 そう言った後、魔剣はわざとらしく笑う。……もう僕が取る行動はただ1つしかないらしい。


「……シン。【軽量化】【加速】【追跡】を頼む」

「へいへい。ほらよ」

「くそぉぉお!!! うわだぁああああ!!!」


 疲れきった身体を無理やり動かして、僕は必死にモンスターを追いかけたのだった……


 ──


 ……ってな事があって相当僕は疲れているんだ。だからもう寝てやるんだ。一日中寝てやる。誰にも僕のスリープタイムを邪魔させないんだもん……!


 \コンコン/


「アルー! 居るかー?」

「いません!!」

「よし、居るな!」


 その言葉と同時に、部屋の扉が開く音がした……ミミルさんがやって来たらしい。


「な……何の用ですかミミルさん」

「何じゃ。用がなければ来てはいかんのか?」

「いや……別にそんな事は」


 今めちゃくそ疲れてるから帰って下さい、とは言えないよなぁ……


「まぁ、ちゃんと用はあるのじゃがな」


 一方でミミルさんは、何か紙を取り出して、僕に読み聞かせるように話し出した。


「アル。明日から冒険者ギルドの活動が正式に再開するらしい……そこでじゃな、魔王軍のモンスターを沢山討伐して、この街を守った勇敢な冒険者らを、皆の前で表彰しようと思っておるんじゃ」

「はぁ」

「それで……その中の1人にお主が選ばれたぞ。光栄に思うが良い」

「はぁ!?」


 思わず布団を押し退けて、飛び上がった。もちろん疲れなんか完全に消え去っていた。


 え? 何で? 何で僕? 首をブンブンさせながら僕は言う。


「い、いやいやいや! ありえないですよ! どうして僕が!」

「何、お主だって命懸けで戦ったじゃろう。それにFランクのアルが表彰されたら、他の冒険者らも『負けられない』と思って、きっとギルド全体の士気も上がる筈じゃ」

「そ、そうですかね……?」

「うむ。報酬だって出る、受けない手はないぞ」

「……」


 心の中でうーんうーんと唸っている僕に向かって、ミミルさんは続けてこう言った。


「んまぁ、どうしても嫌だと言うのなら断っても構わんが……ウチなら絶対にこんな美味しい話は逃さんがなぁ?」

「……」

「じゃ。またの」


 そこまで言うと、ミミルさんは可愛らしくヒラヒラっと手を振って、扉を閉めた。


 僕は……僕は!!




「シン……!!もしかしたら僕……人気者になっちゃうかも!?」

「……はぁ?」

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