指輪、購入

「うわあ、辛辣だなぁ! でもボクは負けへんよ!」

「どうしてそんなにメンタル強いでんすか……」

「慣れてるから!」


 男は凹む素振りを見せるどころか、負けじとまた近づいて、僕に指輪を見せてくる。


 この鋼のメンタル……もう呆れを通り越して、尊敬してしまうよ。


「ほら、こんなに凄い指輪はないよ! そして本物! これは買うしかないでしょう!」

「だから何が凄いかをちゃんと説明してよ……」

「さっきから説明はしていたんだけど……まぁ良いでしょう! もう一度説明してあげましょう!」


 そう言うと男はまた身振り手振りで、指輪の説明をしだした。本物だと判明したので、一応さっきよりはしっかり聞くことにした。


「この指輪はね、軽くて丈夫なんだよ! そしてデザインも優れていて……あと夜に光る!」

「え、いる? その機能」

「いります」

「あっ、はい。すんません」


 食い気味に言われたので、思わず謝ってしまったけど……僕悪くないよな。


「そしてなんと言ってもこの指輪はですねぇ、付けていると魔力を回復するんですよ! しかも毎秒!」

「え? 魔力回復?」


 思いがけない言葉に僕は反応してしまった。そして『しめた』と男は一言。


「おっ、食いつきましたね?」


 何だか癪だが……反応したのは事実なので小さく頷いた。


「まぁ……ね。それでそれはどのくらい回復するの?」

「それはほんの少しだけですけど……でも毎秒回復なんですからそんなもんですよ! そんなもんです!えぇ!」


 男はハツラツとした声でそう言った。まぁ……嘘つかないだけ好感持てるけど……でも回復は少しだけなのか。せめて魔剣に魔力吸収されてる分を打ち消しに出来るくらいあればいいんだけどな。


 ……聞いてみるか。


「なぁシン、お前の魔力吸収を打ち消すには、あの指輪何個分必要なんだ?」

『あぁ……あれなら5つぐらいあればプラスになるんじゃねぇかな』


 5つか。5つも指輪装備してる人なんて聞いた事ないけどなぁ。


『でも普通指輪って高級だしレアもんだからな。同じ指輪を揃える事なんてそうそう出来やしない』


 ふーん。そんなものなのか。でもこの人なら持ってそう……いや、絶対持ってるだろ。


「ねぇその指輪って……5つある?」


 すると男はパーッと嬉しそうな顔をして


「ございます! 何ならもっとあります! 発注ミスってありえないくらいありますから!」


 と、カバンの中を見せびらかしてきた。そして中には同じような指輪がジャラジャラと。


 あー……だからそんなに必死で売ってたのね。


 ……まぁ魔力回復アイテムは幾つあってもいいし、何だかこの人が可哀想に思えてきてしまったしな。


 せっかくだから買ってあげても……いいのかな?


 僕は顔を上げる。そこには必死に祈るようなポーズのまま固まった男の姿が……


「はぁ……それじゃあ……金貨2枚で買えるだけ下さい」


 すると男の顔は、これまでに見た事のない程の満面の笑みへと変わった。


「ありがとうございます!!! これでノルマ達成したので今月は殺されずに済みそうです!!」

「……ええっと。お節介かもしれないけど……その仕事辞めた方がいいんじゃない?」


 ──


 そして買い物の帰り道、魔剣が話しかけてきた。


「おいおいアル……何も全財産を使ってまで、そんな指輪を買う必要なかったんじゃねぇか? まーだ鎧でも買った方が良かったんじゃ……」

「いや、これで良いんだ。これでお前を握ってやる時間も増えるから……きっと鎧や盾よりお得な買い物をしたと思うよ」

「フン……そうか」


 魔剣がちょっとだけ嬉しそうな声を出したのを、僕が聞き逃す訳もなかった。……まぁそんな事は言わないけどね。


「それじゃあ早速つけてみようかな」


 僕はさっき買った指輪をポケットから取り出して、手のひらの上に円状に並べた。


 数は8。えーっと、1個あたり銀貨25枚って所か……高いのか安いのかよく分からないな。まぁいいや。


 そして僕は指輪を1個1個、右手左手のしっくりとくる指に装備してみた。


 スポッ。


 そして装着から数秒後……何だか身体が軽くなったような気がした。そして力がみなぎってくる……!


「シン、なんか……こう……魔力が溢れてくるよ!」

「そうか。なら早く俺を握れ」

「分かった」


 僕はいつもよりラクな気持ちで、鞘から魔剣を引き抜いた。


「……」

「どうだ?」

「ん……凄い! 全然苦しくない! これなら幾らでも握り続けられるよ! やったぁ!」

「フン、これで魔力切れで死ぬなんてだせぇマネはしなくなるのか。少し残念だ」

「何でだよ!」


 そんな冗談を交わしつつ、指輪がしっかり機能する事を確認した僕は、魔剣を鞘に戻そうとした……


「あれ? 離れないよ?」

「いやお前な……幾ら握れるようになったつっても、戻す方法は変わらねえよ。」

「あっ……」


 これはまずった。魔剣の言う通り鞘に戻すためには、いつものように血を吸収しなければならないのだ。


 一瞬このままでもいいんじゃないかとも思ったのだが……流石に剣を握ったまま、店や宿屋に行くのはヤバい奴に成り果ててしまう……


 ……ならもう選択肢は1つ。


「へへへ。オラ、とっとと血ぃ回収行くぜ?」

「うわーっ! そんなぁー!」

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