怪しい男

 すると呆れた様に魔剣は言う。


「防具だぁ? ンなもん要らねぇだろ。お前はこんな最強の剣持ってるんだからよ。それに防御を上げたきゃ俺が魔法を使ってやる……」


 ここで僕は魔剣の言葉を遮った。


「それだよ」

「あ?」

「確かにシンは強い。足りない部分は魔法で補えば、大概は何とでもなるんだ」

「なら良いじゃねぇか」


 確かに普通の人ならそれで良い。だけどウザったいくらい何度も言うように僕は……


「僕は魔力が少ないんだよ。シンがどれだけ凄い魔法を知ってようと、僕はそれを上手に扱えない。だから魔力を節約する為に、着るだけで防御力を上げてくれる防具を手に入れなくちゃいけないんだ」

「ふーん、まぁお前が何買おうがどうだっていいんだけどよ……」


 魔剣は一呼吸置いた後言う。


「防具ってそれなりに重いんだぜ?」

「……あっ」

「防御力が高い物なら尚更だ。ひょろひょろのお前がそれを装備しても……結局【軽量化】使わないと動けないと思うんだけどな」


 そう言った後、魔剣はわざとらしく笑った。


 そうか…… 重さのことを全く考えていなかった。屈強な冒険者が鎧を着て動いているのも、筋力があるからなのか。何で僕は気づかなかったんだろう。


「じゃあ僕はどうすれば……」

「鍛えればいいんじゃねーの? まぁーわざわざ自分から素早さ下げる様な事しない方がいいと俺は思うけどな」

「そうか……」


 鍛えるのも1つの手だけれど、鎧に慣れるのには時間がかかりそうだ。それに魔剣の言うことも一理ある……なら変わりに盾を買って、盾の技術を身につけた方がいいかもしれないな……


 とか、そんな事を考えていると。


「ちょいちょい、そこのお兄さん!」


 突然、背後から声をかけられた。


 僕が振り返るとそこには、スーツを身にまとった、高身長で色白の、謎のオーラを放つ男が立っていた。


「え、僕?」

「そう! ボクゥ!」


 そしてそいつはテンションが異常に高い……何者なんだこの人。


 戸惑いつつも、僕は話を聞いてみた。


「それで何か用……ですか?」

「うん、見たところ君困ってないかい?」

「まぁ……困ってるっちゃ困ってますけど」


 そう言うと男はニッコリ笑い、ウンウン頷きながらこう言った。


「そうだよね! 人間生きてりゃ困る事なんか沢山あるもんね!」

「は、はぁ……」

「そんな迷える子羊ちゃん達に、オススメしたい物があるんだけど!」


 ……おっと。何だか雲行きが怪しくなってきたぞ。


 そして男は隠すように持っていたカバンを開き……指輪を取り出して僕の目の前へ、それを見せてきた。


「コレです! 『神秘の指輪』!」

「指輪……?」

「そう! コレを装備しているだけで元気になる、優れものなんだよ! 満足率100パーセント!」


 男は身振り手振り、僕にプレゼンした。あっ……これはまさか噂に聞く……押し売り──


『おいアル聞こえるか。多分あれ偽モンだぞ、神秘の指輪があんなに安いわけねぇ』


 脳内に魔剣の声が響く……まぁ言われるまでもなく、それは僕でも勘づいていたよ。


 そんな怪しまれていると気付いていない男は、プレゼンを続けていた。


「……高性能で……どうです? 欲しくなっちゃったでしょ?」

「いや、要らないです」

「またまたー! 今ならもーっと安くしてあげるからさ! さ!」


 僕が断っても諦めるどころか、男は更にグイグイ近づいてまた喋り出した……いや本当にどうしよう。この勢いだと買うまで何時間も離れない気だよ。この人。


『ふぁーあ、どうする、アル。殺る?』


 そんな軽いノリで言うなって。それに何か韻踏んでるし……とにかく悪い人だろうと、そんな事はしてはいけないのだ。


 しかし困ってるのも事実……こうなったら偽物って事を証明して、とっとと追い払う事にしよう。


 そう決めた僕は小声で魔剣に呼びかけた。


「シン【鑑定】をお願い」

『何だ殺らねえのかよ。しゃーねーな』


 愚痴りながらも、魔剣はスキルを発動してくれた……のだが。


『……あぁ? どうなってやがる?』


 返ってきたのは魔剣の困惑した声だった。


「どうしたのシン?」

『いや、何回やっても神秘の指輪って表示されやがるんだけど……まさかアレ本物なのか?』

「えっ……本当?」

『ああ。俺も不思議でならねぇ』


 僕は下げていた頭を上げて、男の顔をまじまじと見つめた。


「ん、どうしたんだい?」

「これ本物……なんだ」

「当たり前じゃないですかぁ! まさか疑ってたんですか! もーヤダなー!」


 男はまたヘラヘラっと笑って、恥ずかしそうに頭をかいた。いやいや……



「あんたセールス下手くそ過ぎない?」

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