謎の箱

「まっ、前が見えねぇ……!」

「そりゃそうだろ……お前馬鹿なのか?」


 山のように積まれたポーション、薬草、その他もろもろを抱えて運んでいる僕に向かって、魔剣は呆れたように言う。


 僕は言い返す余裕すらなかったので、聞こえないフリをしつつ、魔剣に周りの状況を聞いてみた。


「……シン、前に人とか居ないよな? ぶつかったりしたら大変だしさ……」

「いない。何ならみんなお前を避けて歩いてるぞ」

「そっか……」


 傍から見た今の僕の姿は相当滑稽なのだろう……見えないけど「ママなにあれー?」「コラっ見ちゃいけません!」みたいなやり取りがそこら辺で行われてるのだろうか。それは嫌だな。


 そんな事を思いつつ、歯を食いしばりながら歩みを進めていると、また魔剣の声が。


「つーかさぁ……何でお前は貴族みたいな買い方したんだよ。俺でもそんなのした事ねーぞ?」

「それは……仕方ないだろ? それにあそこで『やっぱりいいです、買いません』なんて言ったら、金貨見せびらかした性格悪い奴みたいに思われるじゃんか!」

「はは……お前考え過ぎる系の人間なんだな。生きるのに疲れそうだ」


 同情してるのか憐れんでるのか分からないが、魔剣はボソッとそれだけ呟いた。


 そして2人の間には長い沈黙が続く……


「……」

「……」


「……はぁ」

「……」


「ああ……にしても重い……」

「どんくらい? 国王の期待くらい?」


「何だその勇者ジョーク……」

「……」


「……」

「……」


「んふふ……んっあはははっ!!」

「ふっ……ふへへへへっ!!」


 何故か時間差で笑ってしまった。つられて魔剣も笑う。それがおかしくて僕は更に笑ってしまう……


「はははっあ! っうわぁぁあ!」


 そして僕は笑い過ぎてバランスを崩し、薬草達を地面にぶちまけてしまう……そしてパリンと嫌な音が。


「あっ!」

「おい、そこのポーション割れてるぞ!!」


 見てみると、半分くらい瓶が割れてしまっていた。そしてどれもポーションがドバドバと溢れてしまっている。


「あっ……あぁそんな! シンのせいで!」

「……いや、絶対に俺悪くねぇからな」


 ──


「あーあ、もったいないな……」


 そう呟きながら、瓶の欠片を拾う。酒場でもよくこの作業をするので、手早く出来てしまうのも何だか悲しかった。


 それを見かねたのか魔剣は


「はぁ、仕方ねぇな。変わりに俺が買ったやつ持ってやるよ」


 と一言。


「え、シンってそんなに冗談言う人だったっけ?」

「冗談じゃねぇよ。お前は【収納】スキルも知らないのか?」

「収納……? 何だかしょぼそうだな」

「ほぉーん? なら見せてやるよ」


 すると魔剣は自信満々の声で


「現れろ……【無限箱インフィニティボックス!】」

「……そこは収納って言えよ」


 魔剣にツッコミつつ待っていると、空から小さな立方体の黒い箱がポトンと落ちてきた。


「え……これ?」

「そうだ」


 しかしその箱は明らかに小さかった。武器はもちろん、果物1つ入るか入らないかギリギリの大きさだ、


「これじゃ全然入らないって」

「いいから入れてみろ」

「……分かったよ」


 疑いつつも、僕は散らばった道具類をかき集め、その箱に近付けた……瞬間。


「うわっ! 何だ!?」


 突然重力を失ったかのように、ふわりと全て道具が宙に浮きだして……1個ずつその箱に吸い込まれていきだした。


「えっ、どうなっているんだ!?」

「へへへ、よく見てみろよ」


 言われた通りに箱を覗き込んでみると……アイテムが箱に吸い込まれては消滅し、吸い込まれては消滅を繰り返していた。


「いや……だからどうなってんだよ!」

「箱の中に何かが入ると自動で、転送魔法を使ってどっかに移動されてるらしい」

「えぇ……? じゃあ取り出す時は?」

「出ろって念じたら出てくる」

「そんなアバウトな……」


  そんな会話をしつつも、僕は買った道具を全て転送した。


「な? すげぇだろ?」

「まぁ……確かに凄かったよ」


 疑ってはいたが魔剣の言う通り、収納はとんでもないスキルだった……あっ、そうだ。こんなに便利な箱があるのなら……今まで買うのを渋っていたアレも買えるかもしれない。


「へへ、身軽になった事だしとっとと帰ろうぜ」

「……いや、ちょっと待ってくれ。僕はまだ買い物したいんだ」

「おいおい……これ以上何を買うって言うんだ?」



 そう。今の僕に必要な物は……






「最強の防具だよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る