魔剣『シン・クレイトン』
「……なっ!?」
思わず僕の口から声が漏れてしまう。
だが、それも無理はない。ミミルさんは魔剣の事を伝説の騎士の名……シン・クレイトンと確かに呼んだのだ。
もし……それが本当なら、勇者の仲間の生き残りがいるという事になる。しかも、呪われし魔剣に姿を変えられてだ。
こんなの! 世界がひっくり返る程の超絶大ニュースだぞ! これが叫ばずにいられるか!! ああ!?
「そんなのありえな──」
「アルよ……盗み聞きとは感心せんなぁ」
その言葉と同時に、僕が耳を引っ付けていた扉がバァンと勢いよく開かれる。
「んぎゃあおす!!」
「あ、すまぬ。まさかそんなに密着させて聞いていたとは」
扉の勢いで飛ばされ、僕は尻もちをついた。当然尻に大きなダメージを受け、また叫びたくなったが……そんな事よりも!!
僕はそのままの情けない姿勢で、ミミルさんに問いかけた。
「ミミルさん! 魔剣の正体って!」
「ああ……シン・クレイトンみたいじゃな」
「なっ、何でそんなに落ち着いているんだよ!!」
「いや? これでもまぁまぁ驚いておるぞ」
顔を見ても、ミミルさんはさっきまでの表情とほとんど変わっていないように見えた。あまり感情を表に出さない人なのだろう……いや、それよりも!
僕は手をついて立ち上がり、その勢いのままミミルさんの横を通って扉へ入り込んだ。
そして机に置かれた魔剣の前に立ち、話しかける。
「おいダースレ!!! 話は聞いたぞ!! お前は!! あの伝説の!! シン・クレイトン様なのか!!」
「……チッ。うるせぇな」
「本当に本当なのか!!」
「あぁ……お前それマジでしつけぇ……」
と吐き捨てるように言った後、続けてこう言った。
「ああホントだよ。俺は元勇者のパーティにいた、シン・クレイトンだ……クソガキ、これで満足か?」
「……っ!」
僕は……言葉に出来ない、ぐちゃぐちゃでモヤモヤとした感情に押しつぶされそうになっていた。
あの僕の憧れの1人であった勇者の仲間が本当は生きていた、という事の喜び。その人がずっと僕の傍にいたという事の驚きと戸惑い。
そして……
「……ンだよ、その目は?」
伝説の騎士、シン・クレイトンが実はこんな性格だった……という事に対してのショック……?
……僕は勇者の物語の本を何度も読み返したくらい、彼らに憧れていた。言わずもがな、その中にはシン・クレイトンだって含まれていた。
確か文献には『強気な性格』や『喧嘩早い』と書かれていた気がする。……でも、そんな彼だって『仲間思い』で『とても勇敢な男』とも書かれていたんだ。
そんな彼が……この魔剣だったなんて。僕は今でも信じられないんだ。僕は……
僕は……これからどうすれば……こいつとどうやって接していけばいいんだよっ……!!
「アルよ」
静寂の中ミミルさんの声が響く。
「……」
見ると、ミミルさんは平坦な自分の胸をポンポンと叩いていた。
一体何を……あっ、もしかして……心? 記憶……? ……思い出?
僕がハッと気が付いた様な顔をすると、ミミルさんはニヤッと頷いた。
……そっか。うん、そうだよな。
魔剣がシン・クレイトン様だろうと、ダースレはダースレだ。
僕に生意気で、酷い目に何度も合わされて、死を覚悟した事だって何回もあったけど……それと同じ回数だけコイツに助けられたんだ。
それに……僕に突っかかる厄介な客をコイツはボコボコにしてくれたし、言ってしまえば僕が強くなれた理由だって、殆どコイツのおかげなんだし。
それに伝説の勇者の本も、結局は色々と脚色されていたんだよな。
うん。これが本来のシン・クレイトン。これが本物。僕しか知り得ない伝説の騎士の姿だったんだ。
全てを納得し、全てを受け入れた僕は、晴れやかな顔をして、また魔剣へと顔を近づけた。
「ンだよ……?」
「ダースレ……改めシン・クレイトン。君があの伝説の騎士だった事はすごく驚いたけれど……」
「……」
「これからも今まで通り……いつもの距離感で接してもいいよな?」
「……」
魔剣は黙った。そして長い沈黙の後に……いつものよう不機嫌そうな声をさせてこう言った。
「……フン。もしお前が『シン様!! 今までの御無礼をお許し下さい!!』なんて言おうモンなら、ぶっ殺そうと思っていた所だった」
「あっ……あはは……! そんな事……言うわけないじゃんかぁ!」
あっ……あっぶねぇ……!!! 選択肢間違えたら死んでたよ僕。そしてよくやった僕。
やっぱりシンは伝説の騎士として、扱われたくなかったみたいだ。だからずっと僕に隠していたんだろうな……
「……で、何でダースレ……シンは魔剣に変えられちゃったの?」
「結局それ聞くのかよ」
「だってそれが1番気になるもん。もう正体バレてるし、全部話しちゃいなよ?」
「ふへへへっ……! お前ぇその口調、時代が時代なら処刑モンだぜ?」
そんな物騒な事を言っていたけど、シンはより心から笑っているように見えたんだ。
「いいから教えてよー」
「そうだな、それなら……」
「お前がFラン冒険者を卒業したら……教えてやってもいいかな?」
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