魔剣の正体
「えっ、そんなの無理だよ! あの伝説の勇者様が僕なんかと会ってくれるわけが無いだろ!」
「……」
僕は魔剣に強い口調でそう言い返した。
伝説の勇者に憧れて冒険者になったくらいの僕だが、これでも身の程はわきまえているつもりだ。Fラン冒険者ふぜいが勇者に会うなんてとんでもない。
それに万が一オッケーをもらっても、恐れ多くて会えるわけないよ……!
それで魔剣はいつものように「使えねぇ」と僕に暴言を吐いてくるかと思ったのだが……
「……そうだよな。今のは忘れてくれ」
と元気のない声でそう答えるだけだった。
「えっ?」
予想外の言葉に思わず声が出る。
本当にダースレどうしちゃったんだろう。何か変なものでも食べたのかな。いや……変な血でも吸収したのかな。
まぁこのまま丸くなった状態でいて欲しいけど……それだと何かこっちまで調子が狂うと言うかなんというか……
何となくチラッとミミルさんの方を向いてみると、何かを考える様な表情をしていた。そして口を開いたかと思ったら一言。
「……ウチなら会えるかもしれん」
僕より先にその声に反応したのは魔剣だった。
「おい本当か!? 」
「多分じゃがな。ウチのクランメンバーに勇者と知り合いのヤツがおる。そやつに頼めば会わせてもらえるかもしれん」
「ならっ……!」
とミミルさんは、魔剣の言葉を遮るように言う。
「じゃが今はこんな時期じゃ。魔王軍の襲撃を受けて皆バタバタしておる。この話は落ち着いてからでも良いな?」
「ああ……済まねぇ」
魔剣が謝った……だと? 何だかここまでくると気味が悪いや。お願いだから元の性格に戻ってくれ。
そしてミミルさんは目線を僕に向ける。
「それでアルよ。とりあえずウチら……冒険者達が今やるべき事は、この街を復興させる事じゃ。そしてそれが終わったら壊滅させられた他の街を元通りにする」
「うん、それはそうだよね。建物とか壊れまくってたから修復しないと」
僕の生まれ故郷ではないとは言え、この街にはかなりお世話になっていたんだ。復興の手伝いくらいはしないとな。
「まぁこの街には大勢の冒険者がおるからの。意外と早く元通りになるかもしれん」
「それは良かったよ」
「うむ、明日から復興作業が始まるからお主も身体を休めておくのじゃ。しばらく宿はこの部屋に泊まるが良い」
「分かった。何から何までありがとね、ミミルさん」
「うむ、お主には色々と期待しておるからな……それとアル、今冒険者に臨時の討伐報酬が出ておる。貰ってくるが良い」
「えっ、本当! 貰ってくるよ!」
その事に喜びつつ、僕は魔剣を持って部屋から出ようとした……その時。
「ああ、それは置きっぱなしで良いぞ」
「え、でも魔剣と離れたら僕大変な事になる……」
「この宿の受付で貰えるから、わざわざ武器なんか持ち出さんでも良い」
……何か露骨に怪しい。でも僕はミミルさんの事は信用するって決めたしな……ならここは。
「うん、分かったよ」
言われた通りに僕は何も持たずに、部屋の扉を開いて宿屋の廊下に出た。そして受付に向かった……
……と見せかけて、さっき出た部屋の扉に耳を押し当てて、部屋の様子を伺う。
すると中から話し声が聞こえてきた──
──
「……さて。生きておるとは思ってはいたが……まさかこんな姿に変わり果てていたとはな。道理で見つからんわけじゃ」
「フン……何だ。そこまでバレてたのかよ。何モンだお前」
「ウチはクラン【フェアリーウィッチ】の現団長、ミミル・エンシューナじゃ。昔はお主のクランとは仲悪かったそうじゃが、今はそんな事はない。むしろ良好じゃ」
「そうかよ。全然嬉しくねぇな。俺は未だにアイツ……アイナルのヤローはいけ好かねぇよ」
「そうかい。それじゃあ勇者のリリスは?」
「……」
「意地悪な質問じゃったか。まぁ何にせよ会えて光栄じゃよ。勇者の右腕……伝説の騎士、シン・クレイトン様よ」
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