伝説の勇者のお話

「え、何言ってるのさダースレ。魔王を倒した伝説の勇者達の話知らないの?」

「でっ……伝説の……勇者……?」


 魔剣は初めて聞いた言葉かのように、ゆっくりと呟く。そして考え込んだのか、これ以上は何も言わずに黙りこくるのだった。


 ……うーん、魔剣のこの反応。勇者の事を何にも知らないみたいだけど……もしかして僕のように、勇者を知っている人の方が少数派なのか? いやいやでも、超有名な話だしな……


 とりあえずこの事をはっきりさせておく為に、僕はミミルさんにも聞いてみる事にした。


「ねぇ、ミミルさんは勇者の話、知ってるよね?」

「うむ、無論じゃ。ウチも小さな頃はよく聞かされたわい」


  ミミルさんはウンウンと頷きながらそう答えた。


 今も十分小さいじゃんって言ったら怒られるよな……


「そうなんだ。じゃあやっぱり知っている人の方が多数派みたいだ……」

「なぁ……ひょろひょろ」


 魔剣が話しかけてくる。


「何だ?」

「聞きたいんだが……勇者の名前は何なんだよ?」

「え、リリス・リルファーだけど」





 ──と、僕が答えると、また魔剣は動揺したのか、声を荒らげながら僕に突っかかってきた。


「……ッお前!! 嘘をつくのも大概にしろって!!! マジでぶっ殺すぞ!!!」

「えっ……えぇ?」


 理由はよく分からないが、魔剣はかなり冷静さを失い、感情的になっている。


「急にどうしたのさダースレ! 僕は嘘なんかついてないし……ほら、ミミルさん! 僕の言っている事本当だよね?」


 このままの勢いだと、僕の事を本当に殺すつもりだ。すかさず僕はミミルさんに助けを求めた。


 すると僕のヘルプを読み取ったミミルさんは


「うむ。アルの言っている事は全て本当じゃ。魔王を倒した勇者の名前はリリス・リルファーに違いない」


 と言った。もちろん僕は便乗する。


「ほ、ほらぁダースレ! 本当でしょ!」

「……」


 魔剣はまた黙った。そして長い沈黙の後……


「……じゃあそれは認めるからよ……教えてくれねぇか? 伝説の勇者って奴の話をよ」

「ねぇ、ホントにどうしちゃったのさダースレ? 教えるのは別にいいんだけどさ」

「なら早く教えろ……」


 魔剣は意気消沈したのか、力ない声でそう言った。


 僕は頭に多くのクエスチョンマークを浮かべながらも、伝説の勇者の話を語ったのだった。



 ──


 昔、とある町に冒険者が居たんだ。名前はリリス・リルファー。彼は至って普通の青年だった。


 だけどある日、魔王がリリスの住む町までやって来て、住民諸共全て壊滅させたんだ。ただ1人……リリスを除いてね。


 家族、仲間、恋人……全てを失ってしまったリリスは魔王に復讐を誓ったんだ。


 そして魔王に対抗する武器を調べ出し、世界各地に封印された伝説の剣や盾などがあるという事を知った。


 そしてリリスは伝説の武器を探しに行く旅に出たんだ。


 そこで彼は旅の途中に仲間と出会ったんだ。騎士のシン・クレイトン。僧侶のザック・ルトリル。魔法使いのアイナル・グリナー。


 みんな世界最強と言われる程の実力者だった。リリスは彼らを仲間に加えて旅を続けた。


 そして彼らは封印されていた武器を復活させ、魔王に勝負を挑む事になったんだ。


 長い激闘の末……勝ったのは勇者パーティ一同だった。しかし、勇者のリリス以外はみんな戦死してしまったんだ。


 町に帰って来たリリスは王にその事を伝えて、仲間の銅像を作らせ、本を書いた。


 こうして伝説は今でも語り継がれている……


 ──


「という話。かなり省略したけどね。……まぁ伝説なんて言われているけど、実際には30年くらい前にあった事らしいよ」

「うむ、ウチもアイナル・グリナーの使っていた魔導書を読んで、魔法使いを目指したぐらいじゃからな」

「へぇー! 僕も勇者様に憧れたから冒険者になったんだよ!」


 多分僕やミミルさんと同じ理由で冒険者や魔法使いになった人も沢山いるだろう。


 それぐらい、この話の影響力は凄まじいものだったんだ。……で。


「ダースレ。どうだった?」


 僕が聞くと感想は言わずに


「……勇者は今も生きてんだよな?」


 と聞いてきた。


「え、うん。生きてるけど」

「ならお前に頼みがあるんだ……」

「えっ、何?」











「……その勇者。リリス・リルファーと俺を会わせてくれないか?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る