「なっ……!?」


 どっ……どうしてそれを……!? 僕以外がアイツの姿を見ても、ボロボロの剣にしか見えなかったんじゃないのかよ……!


「……」


 僕が焦っている一方、ミミルさんは表情一つ変えずに無言で杖を近づけてくる。それはなんの変哲もない木の杖だったのに、今の僕にはどんな鋭利な刃物よりも恐ろしく見えた。


 どうする……どうするんだ……僕? 正直に全てを話すべきなのか……!?


「……」


 いや……それは駄目だ! ゴミ捨て場で拾ったなんて言っても絶対信じてもらえるとは思えない!


 ならもう嘘をつくしか、僕には道が残されていない……!


「えっ、魔剣……? 一体何の事……」

「……とぼける気か? ウチはこれでも名の知れた魔法使い何じゃ。そんな【フェイク】とかいう低俗なスキル、見破れんと思ったか?」

「……ひっ」


 ミミルさんは僕を鋭く睨みつける。そのブラウンの瞳は「次はないぞ」と訴え掛けている様にしか見えなかった。


 ああ……これはもう本当の事を言うしかなさそうだ。……もうなるようになれだ!


「じっ、実は拾ったんだ!」

「ん? 拾ったじゃと? 何処で?」

「ゴミ捨て場……」

「……ふむ」


 ミミルさんは杖を構えたまま、不思議そうな顔を僕に向ける。やっぱりまだ疑ってるようだ。


 このままだと更に怪しまれそうだったから、僕は畳み掛けるように続けた。


「そ、それで! 僕が手に取ったら喋って! 呪われて! 離したくても離れなかったんだよ! だから渋々持ち運んでいて……! 本当なんだ! 信じてくれ!」

「……」


 ……そんな僕の必死の訴えは、ミミルさんに何とか届いたようで。


「……はぁ。どうせそんな事だと思ったわい」


 そう呟いて、ゴトっと杖を机の上に置いた。


 えっ、これって……完全に信じてくれたって事だよな! 助かったって事だよな!


「こ、怖かったよぉ……!!」

「まったく……それならはよ言え。魔王軍の手先かと思ったじゃろ」


 魔王軍の手先って……まぁ魔剣なんか持ってる人見たら、そう思うのも自然な事か。


「そうだったんですか」

「……んまぁ、それにしては弱いし……何ならモンスターも倒していたから、その可能性は限りなく低かったがな」

「えぇ……」


 なんかナチュラルに弱いって言われたし……って、ん?


「モンスターを倒していたってどういう事?」


 するとミミルさんは人差し指をピンと立てて答える。


「ん、アルも見たじゃろ?あのモンスター達の大群が、急に街に現れたのを」

「うん」


 まぁ現れた瞬間は実際には見ていないが。


「実はあれをやった犯人は魔王なのではないかと言われておるんじゃ。もしお主がその仲間だったら、モンスターを倒すメリットなどないからの」

「……なるほど」


 ……ならその時点で僕の事を信用して良かったんじゃないのか。


「でも何で魔王って分かったの?」

「んーそれはな、この街以外にも同じ様な被害にあった場所があるらしいからじゃ。そして壊滅されられた所は魔物の住処に変わってしまった」

「それって……」

「ああ。一気にそんな事が出来るのは魔王ぐらいしか思いつかない。つまりじゃ。魔王が復活し……行動に移している段階まで事態は進んでいるという事なのじゃ」

「ええっ……」


 それって非常にヤバい事態なんじゃ……街どころか世界が滅んじゃう危機が迫っているんじゃ……


「んーでもどうしてモンスターを放ったんだろうね。街を壊滅させるなら自分の手ですればいいのに」

「正体がバレたくなかったんじゃろうな。いくら街を破壊した所で、生き残る人は少なからず現れるから……」


 そう言いつつ、ミミルさんは奥の方の棚にしまっていた魔剣を取り出した。


「ほい」

「え、いいの?」

「それがないと死ぬんじゃろ。それに多少はアルを信用してやったからの」

「あ、ありがとう」


 何だ、怖い子だと思っていたけど、本当は優しい子じゃん……


「……まぁ、アルがウチを殺しに来ても、返り討ちにする自信はあるからの! ハッハッハ!」

「は、ははは」


 何だその笑えないジョーク。


 とりあえず僕は、魔剣をミミルさんに置いてもらい、触らずに魔剣に呼び掛けた。


「おいダースレ!!」


 すると少しの間を置いた後、魔剣は反応を示す。


「あぁ……生きてたのか。案外しぶといなお前」

「ホント素直じゃないなコイツ……それよりダースレ。お前は魔王の情報知らないのかよ?」

「……知らん」


 うーん……何だか怪しい。僕は少しカマをかけてみる事にした。


「いーや知ってるね。その反応は。早く教えるんだ」

「……うぜぇな。オラ、血ィ吸い取るから早く握れ」

「やだよ」

「は? 生意気だな?」


 物騒な剣だ……と思いつつ、ミミルさんに目配せしてみた。するとミミルさんは読み取ってくれたのか、魔剣に優しく話しかけたのだった。


「……なぁ、魔剣クンよ。ウチらは困っておるんじゃ。お主の情報があれば世界を救えるかもしれん」

「……」

「お願いじゃ!」


 ……すると意外や意外、これまで魔王について何にも教えてくれなかった魔剣が


「……フン、仕方ねぇな。教えてやる」


 と言ったのだ。


 ……もしかしてこいつロリに弱いタイプなのかな。


 ……まぁそれを言ってしまったら絶対殺されると思った僕は、大人しく黙っている事にした。


「ホントかの?」

「ああ。えーっとな……確か魔王は角が生えてて……あと……すげぇ沢山の武器とか持ってた気がする……」


 ……何で魔王の見た目の情報何だよ。今必要なのは場所とか目的とかでしょ……


 黙っていようと思っていた僕だったが、つい口を挟んでしまった。


「いやそんなのじゃなくてさ……魔王がどうやって復活したのかとか……」


 ……とそこまで言った所で、魔剣が大きな声を出して会話を無理やり止めた。


「はぁ!? おいちょっと待てって……!!! 」

「え、どうした急に」


 すると、今までに見た事のないくらい動揺した様な声をさせてこう言ったのだ。






「魔王って……過去に滅んだ事あんのかよ!?」

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