命の恩人?

 ──夢を見た。


 巨大な鎌を持つ恐ろしい姿をした怪物と、僕が戦うという変な内容だった。


 その戦っている僕の横には、目付きの悪いギザ歯の男、赤髪の大きな杖を持った少女、ど派手な髪色をした道化師……ピエロが立っていた。


 後ろを振り向いていないから、他にも人が居たかもしれないが……とにかくそんな非現実的な光景だったのだ。


 ……しかし夢を見ている時というものは、どんな不思議な出来事もスッと受け入れてしまう。そして夢の中の登場人物は(自分も含め)勝手に行動するのだ。


 僕は走り出し、いつの間にか右手に握られていた剣を、その怪物に向かって振り下ろしていた。


「……オラッ!!」


 ……しかし僕の剣は空を切る。


「幻影だ!」


 誰かが言った。と同時にその怪物が、僕の前に瞬間移動したかの如くバッと現れた。


 そしてそいつは僕を睨みつけて……動きを止める。


「……」


 ……いや、違う。止まったんじゃない……止まったのは僕の身体だ。足が、手が……動かない。まさかコイツ僕を金縛り状態に……!!


「おいどうしたアル!!」


 それを確認した化け物はヘラヘラ笑いながらゆっくり……鎌を振りかざしてきて──


「避けろっ! アルッ!!!」





 ────僕の心臓を貫いた。


 ───


「……うわぁあぁああっ!!」


 僕は飛び上がるように起きた。……起きるなり不快な寒気が僕を襲う。服を触って確認すると、バケツの水を被ったかのように汗でびっしょり濡れていた。


 ……史上最悪の目覚めだ。ああ、これが悪夢ってやつか。この夢は数ヶ月は忘れられないだろうな……


 しかし……あの貫かれた鎌。そして感触……痛み……嫌な程リアリティがあった。


「まさか」と思いつつも何だか不安になってしまった僕は、自分の胸にに手を当ててみた。


 するとドクンドクンドクン……とかなりハイペースで鼓動を繰り返していた……どうやらまだ僕は生きているらしい。


「はぁ……良かった……」

「何が良かったじゃ! お主が急に叫ぶから、こっちはびっくりしてかなわんかったわ!」

「うわっ! 誰!?」


 自分以外の声が急に聞こえてきたため、僕は驚いてしまい、ベッドから転げ落ちた。


 その転んだまま見上げると、とんがり帽子の少女……僕がハンナさん家に向かっている時に出会った魔法使いの女の子が、木の椅子に座ってこちらを見ていた。


「ん、ああ……そう言えば名を名乗っておらんかったな。ウチはミミル。ミミル・エンシューナじゃ」

「ぼ、僕はアル……どうして君がここに……? というかそもそもここは何処なんだ?」


 そう言いつつ僕は立ち上がる。そして彼女……ミミルさんは面倒くさそうな顔をして「あー……教えてやろうか」とやる気のない声をしつつも、ちゃんと話してくれた。


「ウチがモンスターを討伐している時、魔力切れで倒れているお主……アルが倒れておったのを発見してな。だからウチが宿屋まで運んでやったのじゃ」

「運んだって……僕は魔力切れていたんだから、そのまま死ぬはずだったんじゃ……」

「もしやアルよ……ポーションを知らないのか?」

「ぽーしょん?」


 ぽーしょん。何だろう。動きや動作の事かな……ってそれはモーション……


「それを飲めば魔力を回復する薬の事……まぁそれは後々詳しく教えてやる」


 僕が明らかに分かってない顔をしていたので、ミミルさんが解説してくれた。


 というかそんな便利な道具があったのか。……なんで魔剣のヤローは教えてくれなかったんだよ。


 まぁそれより気になるのは……


「あ、うん。それより宿屋って……大丈夫なの?」


 街はかなり壊滅的な状態だった。無事だった宿屋など、人がごった返して仕方ないんじゃ……と思っていると。


「ここはウチのクランメンバーが運営している宿屋じゃから……ん、ああ。街にいたモンスターは全部討伐されたから安心せい」


 ミミルさんが僕の考えを汲み取ったかのように、説明してくれた。


 クランメンバーというよく分からない単語が出てきたが、今はさほど重要じゃないだろう。それより僕にはもっと聞きたい事が……!


「そうだ……ハンナさんは!」

「ああ。あの寝巻き姿の女子か。彼女なら安全な場所に逃げたと思うがの」

「本当!」

「うむ。恐らく西のサハノ村にいると思うぞ。大半の住民はそこに逃げたらしいからな」


 ミミルさんからその事を聞いて……僕はとても安心した。そして心臓の鼓動も落ち着いたスピードに戻っていた。


「そっか……良かったよ」

「……」

「そして僕を助けてくれて本当にありがとう。君は命の恩人だよ、ミミルちゃ……」


 ……無言の圧を感じる。


「ミミルさん」

「……うむ」


 恐らく……じゃない。確実にミミルさんは子供扱いされるのを嫌っている。……実年齢しらないけど多分大人なんだろう……


 ……あ。そうだ。後1つ聞かなきゃいけない事があった。ミミルさんに聞いてみよう。


「そうだ、僕の剣を知らない?」


 ……と、僕はさっきまでのノリでミミルさんは教えてくれると思い込んでいた。だけど……さっきとは反応は違くて……


「……」

「ねぇって。僕の剣知らない──」


 もう1度僕が言うと、ミミルさんは置いてあった杖を素早く手に取り……突き刺すように僕へと向けてきた。


「えっ、えぇ!?」

「おいアルよ……答えようによってはお主を殺すハメになるかもしれないから、正直に答えておくれ」

「ななな何!? ちょ、ちょっと待ってよ!!!」

「待たぬ。そして1度しか言わぬからよく聞いておくがよい……」


 ジリジリと杖の距離を縮めながら……ミミルさんはこう言った。




「……どうしてお主がを持っていたのだ?」

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