燃料切れ

 魔剣の言った通り、ウルフは僕らを取り囲むように全方向からやって来た。


 僕はその大群を見て、恐怖で少し震えてしまったが……今更逃げる事など出来ないんだ。僕が……僕らがやるしかないんだ。


 ──魔剣を引き抜いた。


「かかってこい……!」


 ウルフは走って、僕との距離をグングン縮めて来ている。だけど僕はあえて動く事なく、落ち着いて剣を構えて……


「ダースレ、範囲攻撃だ!」

「あいよ……【斬撃波ソードビーム!】」


 スキルを発動させた。魔剣からは幾つもの斬撃が飛んでいき、ウルフの身体を切り刻んでいく。


 ……しかし、負けじとウルフも攻撃を受けつつも必死に前に進んで来ようとする。先頭のウルフが倒れても、また後ろにいるウルフがその死体を越えて僕らに詰め寄ってくるのだ。


 その光景を見て、僕はもちろんの事、流石の魔剣も怯んでしまったみたいだ。


「うっわ……群れってのはエグイもんなんだな……!」

「ね、ねぇダースレ! もっと早く斬撃飛ばしてよ!」

「いや無茶言うな! これが限界だ!」


 後ろに下がるにもウルフ、そして他のモンスターが居たため下がるに下がれなかった。


 前も後ろも敵だらけ。それなら……上だっ! 上空に逃げるんだ!


「ダースレ、軽量化だ!」

「チッ……【軽量化】!」


 スキルを唱えて、また僕の身体は軽くなる。僕は瞬時にジャンプをし、続けてこう言った。


「そして相性の良い属性に切り替えるんだ!」

「めちゃくちゃな注文するなお前……今回だけだかんな」


 ダメ元で言ってみたが、意外にも魔剣は受け入れてくれたようだ。そして。


「属性変更……【光】!」


 魔剣が眩しいくらいの金色に輝き出した。


 ……それ出来るなら最初からやってくれよ。しかも魔剣なのに光属性に変われるのかよ。


 ……まぁ何だっていい。これで少しはまともに戦えるようにはなったからね。


 僕は上空からウルフに向かって、できる限り多くの斬撃を飛ばした。


「いけぇ!! ソードッビーーム!!」

「ガルルっ!?」


 すると効果抜群だったのか、ウルフは呆気なく……まるで雑魚モンスターを相手しているかのようにバッタバッタと倒れていく。


「えっ……? めちゃくちゃ楽に倒せるんだけど」

「……」


 僕が再び地面の上に立つ頃には、生きたウルフの姿は数匹程度しかいなかった。


 逃がすと大変な事になるのを学んだ僕は、続けて斬撃を飛ばし、ウルフの群れを全滅させたのだ。


「よし……やった! やったけど……」

「……」

「どうして最初から属性変更してくれなかったんだよ?」

「……普通モンスターの弱点は自分で探すモンだろ。それに……ブラッディウルフは直で生き血飲む方が美味いんだよ」

「……」


 僕は……呆れて言葉も出なかった。


「ほら、お前だって作り置きより出来たての料理の方が何倍も美味ぇだろ?」

「……」


 ……いや、違う。本当に……言葉が出せなかったんだ。何だ……一体何が起こっているんだ……?


「……」

「おいおいどうした? ひょろひょろって……あ、あーあ。こりゃやっちゃったな」


 何だか気分が悪い……視界がぼやけて……魔剣の声もどどかなくなってくる……。どうしたんだんだ僕……


 そんなフラフラの状態になってしまった僕の脳内に、一瞬だけハッキリと魔剣の声が響いてきた。


「お前魔力切れだよ」

「……!」


 そうか……戦いに夢中で考えていなかったけど……コイツを握っていると魔力を吸い取られてしまうんだった。


 それに僕の魔力は人よりかなり少ない筈だった。


 ……クソっ。どうしてこんな単純な事を忘れてしまっていたんだ僕は!


「……ッ!!」


 更に時間が経つと全身の力が抜けていき、頭から地面に倒れ込んでしまう。


「死体の匂いでまた他のモンスターも集まって来るだろうしなぁ……あーあ、コイツもここで終わりか」


 ……うっ……嘘だ。僕はやり切ったんだ。群れを倒したんだ。ハンナさんを護りきったんだ!!


 死ぬのは怖くないって言ったけど……!! こんな……ここまで来て簡単に……死ねるかよッ……!!!


「じゃーなアル。生きてたらまた会おうぜ」


 嘘だ……僕はそんなの……そんなの認めない……ぞッ……!!


 ──


「アル君……! 起きてよアル君ッ!!」

「ん? おいおい、どうしたお主」

「アル君が……! 魔物を倒した後にアル君が急に倒れて……!!」








「ああ……これはただの魔力切れじゃよ。ウチにかかれば余裕で治る」

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