護るべきもの

 それから走って走って数分後。僕はハンナさんの家の前に辿り着いていた。


 見たところ家は特に壊されたりはしていなかったが、付近にはモンスターが何体も居たので、この場所が危険である事には変わりはないだろう。


「ハンナさん! 大丈夫ですか!」


 そう呼びかけつつ、僕は家の扉を叩いてみたが……しばらく待ってみても、何も返事は返って来なかった。


「ハンナさん! いますか!」


 もう一度扉を強く叩いてみる……しかし、またしても返事は返って来なかった。


「……おい、ひょろひょろ。その女もう逃げてんじゃねぇのか?」


 呆れたように魔剣は僕に言う。確かに魔剣の言う通り、ハンナさんは既にどこかへ避難しているのかもしれないけど……


 だけど……何だかハンナさんはここにいる気がするんだよな。念の為にもう一度だけ叩いてみよう。


「ハンナさん!!」

「……」


 ……やっぱり僕の勘違いか。……仕方ない、僕もここから離れようかな……と思った瞬間。


 扉の中から足音が近づいてきた。


「えっ」

「おっ」


 そしてガチャっと扉から現れたのは。


「ん……アル君?」


 とても眠たそうな顔をした、寝巻き姿のハンナさんだった。慌てて僕はハンナさんに呼びかける。


「はっ……ハンナさん!! ちゃんと起きてください!! 今この街が大変な事になっているんですよ!」

「たいへんなこと?」


 寝起きで頭が回ってないのか、ハンナさんはボヤーっとしている。きっと昨日も遅くまで働いていたんだろうけど……


 今はそれどころじゃないのだ。


「詳しい説明は後です! 早く逃げましょう!」


 そう言って僕はハンナさんの手を引いた。


「わっ……! アル君! 私こんな格好なのに……」

「それは本当ごめんなさい!! でも逃げないと!!」


 ハンナさんには本当に申し訳ないが、着替えを待っている暇などないんだ。


 僕は街の外の方へ駆け出した。


 ──


 そして出口へと向かっている途中。


「ガルルルルッ……!」

「グルルル……!!」


 待ち構えていたのか、黒い犬みたいなモンスターが群れをなして、目の前に立ち塞がっていた。


 そして唸り声は後ろからも聞こえてくる。


「げっ、これは囲まれてるな……!」

「えっ……どうしてモンスターが!?」


『おお。あれは「ブラッディウルフ」じゃねぇか。確か人の腕を食いちぎる事もあるとか何とか……』


 魔剣がテレパシーで解説してくれているが、今の僕にはそれを落ち着いて聞く余裕など持ち合わせていなかった。


 とにかく……今の僕がやる事は1つ。ハンナさんを護るために……このなんちゃらウルフとか言うモンスターを壊滅させる事だ。


 僕はノータイムで魔剣を引き抜いた。


 ……見たところ敵モンスターの数は6、7体。これらを一気に倒すには……!


「ダースレ、範囲攻撃だ!」

『……』


 僕がそう言っても魔剣は反応せず、黙ったままだった。不思議に思った僕は、剣を口に近づけて呼びかける。


「おいどうしたんだダースレ?」

『……別に俺はやっても構わねぇけど。多分そこの女にも当たるぞ』


 魔剣はさもどうでも良さそうにそう言った。


 というかそこの女って……ハンナさんの事だよな。ハンナさんを傷付ける訳にはいかないから……範囲攻撃はなしだ。他の方法を考えなくちゃ。


「じゃあそれなら……」

『おい前見ろっ!!』


 ──魔剣の声とほぼ同時に、ブラッディウルフの1匹が僕の真正面に飛び込んで来た。


「なっ!?」


 即座に反応出来なかった僕は、思わず仰け反り、倒れてしまう。


「アル君っ!」

「──っ!」


 そして押し倒すように、ウルフは僕にまたがって噛み付こうとしてくる。


 クソッ! コイツ思ったよりも重い……!


『アル!! 俺をヤツに触れさせろ!!』


 その声に僕は反射的に従った。僕の右手に引っ付いた剣をブンブン振り回し……ウルフに押し付けた。


『よし……【悪魔的生命奪取ディアボリックアブソーブ】!!』


 魔剣がスキル唱えた瞬間、その僕の上にまたがっていたウルフは血しぶきを上げて……絶命した。


 僕はそれを蹴飛ばし、急いで立ち上がる。


 ……立ち上がったその先には、明らかな殺気を出して睨みつけているウルフ達の姿があった。


『アル。奴らは仲間を殺されて相当キレてやがる。恐らく次は全員で襲いかかってくるから……一気に決めろ』

「でも範囲攻撃は使えない……!!」

『なら俺がお前の素早さを上げてやる。どうせ今魔法教えても使いこなせねぇだろ?』


 多分僕もそんな気がしたので……頷いた。


『よし……【軽量化】!』


 魔剣が唱えると、僕の身体は温まってきて……身体の全てが軽くなっていくのを感覚的に感じたのだった。





「ダースレ……行くぞっ!!」

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