束の間の休息
「へへ……ああっ、美味ぇ! 超美味ぇ! やっぱり魔物の血は新鮮なやつに限るなぁ!」
「……」
あの戦闘の後、僕は熊が吹き出した血を魔剣に吸収させていた。
謎の重力が働いているのか知らないが、魔剣を血に近づけるだけで自動で吸い込んでいくからその行為自体は楽だったけど……
「あぁ……生き返る……!」
「……」
血を吸い取る度に魔剣の色が不気味に光っていくので、何だか悪い事をしてるような気分になるな……
あまりその光景を見たくないと思った僕は、それから目線を下げたまま魔剣に質問するのだった。
「ねぇダースレ……それってそんなに美味しいの?」
「ああ、クソ美味い。お前ら人間が高い酒を飲んでる様なもんだ」
「いや僕未成年だし……」
僕は16、成人は18。僕が合法的にお酒を飲むには後2年は必要なのだ。……まぁ同い年でも飲んでる奴はいるんだけど。
「へっ、お前律儀にルール守ってんのかよ」
魔剣は馬鹿にしたように笑う。
「いや当たり前じゃないか。それに僕は酒場で酔っ払った、醜い大人をこれまでに何人も見ているんだ。そんな大人なんかなりたくないからね」
「ほーん……まぁ好きにしたらいいんじゃねぇの?」
そう言うと魔剣はまた血をクビクビと吸収し始めた。
──
あらかた血の吸収をし終わった後、僕は魔剣を鞘に収めて、さっきから気になっていた事を聞いてみた。
「それでダースレ……僕らはゴブリン討伐に来たんだよね? どうして熊のモンスターを討伐させたのさ」
一呼吸置いて魔剣は答える。
「あ? それはこの辺りに熊しかいなかったからだ」
「え、でもここは始まりの場所、ガラン平原だよ? そんな訳が……」
「そんな訳があんの。さっき俺が【
魔剣はそう言い切った。
魔剣の言った事は嘘をついているようには見えなかったし、なんなら僕だって全くモンスターのいない草原を見たから、それを信じざるを得なかった。だけど……やっぱり何かおかしいよ。
「……」
「まぁまぁ、お前の言いてえ事は分かる。どうして熊しか反応しなかったのか……他のモンスターはどこに消えたのか……それが知りてぇんだろ?」
お前の考えている事はお見通しだと言った具合に、魔剣は聞いてくる。
「わ、分かっているなら早く教えてよ?」
「へへへっ……どうしてだと思うよ?」
うわ、急に面倒臭い女みたいな事言い出した……どうして僕にクイズなんかさせるんだ……?
……まぁせっかくだし少し考えてみよう。
確か……魔剣がこうやって楽しそうに話をする時はいつもろくでもない事が起こった時だ。あの時も……あの時も。
という事は……
「……誰かがモンスターを連れ去ったとか?」
「へへ、正解。今日のひょろひょろは冴えてるな」
当たってしまった……全然嬉しくないよ。
「まぁ熊はたまたま連れ去られなかったのか、出来なかったのかは知らねぇけどな」
「でも一体誰がそんな事を……」
「さぁ?」
「んーじゃあダースレ、そのモンスター達はどこに行ったか分かるの?」
そう聞くとまた魔剣は、嫌な笑い方をした後、また嬉しそうに言うのだった。
「ああ、分かるぞ。お前の大好きな人の居るグリフォンシティだ」
「なっ──」
グリフォンシティとは……この辺りの1番の大都市。超大型ギルド『ウォルティア』のある場所。僕の働いている酒場のある場所。そして……ハンナさんの家がある場所だ。
「ほ、本当なのか……!?」
「ああ。俺基本嘘つかねぇから」
嘘つきの言葉じゃんかそれ……! いや、いちいちコイツに突っ込んでいる暇なんてない。
「どのくらいのモンスターが連れて行かれたんだ!」
「うーん、ざっと数百……いや数千体か? それが街に放たれたんなら、今頃大パニックに陥ってるんじゃね?」
「……」
想像するだけで身の毛がよだつ。
「ぐっ……お前はどうしてすぐ教えなかったんだ!!」
「血が欲しかったからな。それに草原に着いてすぐ街に戻すのは流石に鬼かなって思っただけだ」
「そんな優しさ要らない!!!」
というか絶対血が欲しかっただけでしょ……!!
「なら早く街に戻ろう!!」
「おいおい、走って帰るつもりか?」
「そうするしかないだろ!!」
そう魔剣に当たり散らして、駆け出そうとした時。
「へへ、そうか。せっかく魔力補給出来た事だし、転移使ってやろうと思ったんだけどよ」
魔剣から思いもよらぬ言葉が。
「転移……?」
「簡単に言えばワープだ。ここから街まで一瞬で送ってやろうかと言ってんだ」
「……」
魔剣に頼み事をするのは癪だが……これを使わない手はない。
「ダースレ! それをお願いしていいのか!?」
「ああ。ただし……またそこで血を補給してくれる事が条件だがな」
……きっとグリフォンシティに放たれたモンスターを殺しまくれ、という意味だろう。
それは怖いけど。ハンナさんを守らなきゃいけないんだ。今度は僕が救う番なんだ。僕が。僕がっ!
「いいよ! ダースレ行こう!」
「へへっ、さっき熊にぶっ飛ばされた奴が言うセリフとは思えねぇな!」
「褒めてんのかそれ?」
「自由に解釈しとけ! はぁっ……【
そう魔剣がスキルを唱えた後……僕らは神々しい光に包まれたのだった。
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