遭遇!

 ──ガラン平原──


「はぁ、やっと着いたぁ……」

「……」


 昼下がり。僕らはようやくガラン平原へ到着した。


 ここは雑魚モンスターが多く生息している、初心者御用達の場所だ。俗に『始まりの場所』と言われている。


 そんな僕にぴったりの場所だが、実はここに来たのは始めてだ。だって討伐クエストなんか今まで受けたことなかったし……薬草採取なら近くでできるし……


「よし、ひょろひょろ。早速倒しに行くぞ」

「いや……ちょっと休もうよ」

「はぁ?」

「だって疲れたもん……」


 ちなみにギルドからガラン平原までおよそ2時間半。普段遠出しない僕が歩き疲れるのも当然なのだ。


「はぁ? 俺は今すぐ血が欲しいんだっつーの!」

「……」


 魔剣は言うことを聞かない僕に対してキレてくる……が、僕はそれを無視して木陰に腰を下ろした。


「はぁ疲れたぁ……」

「チッ……お前そんなんでよく冒険者とかやってるよな?」

「……」

「何だっけ?憧れの人が冒険者だっただっけ? そんなんで冒険者やってるなら、お前今すぐ辞めた方がいいよ?」

「……」


 ……僕の腰元から不愉快極まりない声が聞こえてくる。きっと魔剣は僕を煽りまくって、早くモンスターの所へ移動させようとしてるのだろう。


 だから無視するのが正解なんだろうけど……疲れてイライラしてる僕にはそれが出来なかった。


「だぁー!! 何だよ! そういうお前は僕の腰にぶらんぶらん下がってるだけじゃないか! お前は疲れなくていいよな!!」

「フン……冒険者なら普通馬車とか使うから、来るまでに疲れるなんてことはねぇんだけどな?」

「ぐっ……」


 無論、僕にそんなのを借りるお金はない。やっぱり僕と普通の冒険者には圧倒的な差が……いや、駄目だ駄目だ。こんなこと考えたらまた落ち込んでしまう。切り替えていこう。


 僕はパンパンと頬を叩いた。


「じゃあもう休憩はいいから……これから僕はどうすればいいのさ?」

「ああ? んなもんゴブリン探してとっとと倒すだけだろ?」

「いや、それは分かってるんだけど……そのゴブリンってのはどこにいるのさ?」


 僕は草原を見渡してみるが、モンスターどころか冒険者の1人も見つけられなかった。てっきり僕はそこら中にモンスターがいると思ってたのに……


「はぁ? そんなん自分で探せって」

「そんなこと言われても……全然モンスターが見当たらないよ?」

「何? そんなことがある訳が……」


 僕の言葉で魔剣も辺りを見回したのか、困惑した声を上げる。


「んん? あぁ……ホントだ。確かに妙だな」

「でしょ? どこにもいないじゃん」


 すると魔剣は「はぁ」と一言ため息をついた。


「ったく仕方ねぇ、今回だけだかんな?」

「え、何をするの?」

「索敵してやるんだよ。この残りの少ねぇ魔力でな」


 そう言うと魔剣は力を溜めて……


「はぁっ……【領域調査フィールドサーチ】!」


 スキルを発動したのだった。


 そして長いこと黙りこくった。何をしてるのかよく分かっていない僕は、ちょっとだけ待ってみる。


「……」

「……」

「……どう? 何か分かった?」

「ほう……こりゃあ面白ぇことになってやがる」

「ちょっと! ダースレ1人で楽しまないでよ!」


 僕は魔剣をぺちぺち叩く。


「フン、悪かったな。それじゃあ案内してやるから、とっとと立て」

「あ、うん」


 言われて僕は立ち上がった。


「それでどっち?」

「そのまま真っ直ぐ進め。そしたら……お望みのモンスターが見られるぞ」

「うん、分かったよ」


 心做しか、魔剣はさっきよりも機嫌が良くなっていた気がした。


 ──


 草原を歩いて歩いて数十分。日差しが僕の肌をジリジリと焼き付くして、また僕は体力を奪われていた。


「ねっ、ねぇ、ダースレ……本当にこっちなの?」

「ああ、間違いねぇ。こっちだ」


 魔剣の自信たっぷりに言うのだが、道は草原からどんどんと荒れた道になってきた。


「ダースレ……もうここ草原じゃないよね?」

「うっせーぞ。次そっち右な」

「えぇ……」


 それでも言われた通りに進んで行くと、僕らは森のような場所まで辿り着いた。高い木に囲まれ、緑色のカーテンが僕らを包んでいるかのようだ。


「森……? おいダースレ、何でこんなとこに来たんだよ?」

「……」


 すると魔剣は急に黙り込む。


「おーい」

「……」

「おーい!!!!」

「……」


 呼びかけても反応しない。こんなとこまで連れて来てお黙りなんて……


「おいなんとか言えってダースレ!」

「……来るぞ、構えろ」

「はぁ? 何を──」

「死にたくなかったら早く出せって!」


 その魔剣の声と同時に、ガサガサと草の揺れる音と動物の唸り声が背後から聞こえた。


 反射的に振り返るとそこには……


「グォォォオッ!!!!」

「なっ……何だよ!?」

「きへへへっ! やっとモンスターのお出ましだ!」


 体長3メートルは優に超える、赤目の光った巨大な熊が立ち塞がっていた。

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