いざクエストへ

 それから数日が経過した。この間は何事も起こらず、いつもと変わらぬ日々を過ごすことが出来たのだけど……


「おい、ひょろひょろ。そろそろ俺の魔力が尽きそうなんだが」


 その一言で、僕の平穏な生活の終わりが告げられたのだった。


 困惑しながら僕は返事をする。


「ええっと、ダースレ……? 君の魔力が尽きるたらどうなるのさ?」

「ああ? 普通に死ぬぞ。そして呪われているから、お前も自動的に死ぬ」

「絶対?」

「絶対だ」

「本当に?」

「本当だ……ってお前それいい加減しつけぇぞ」

「はぁ……そうなんだ」


 人間は食べたり寝たりすることによって、魔力を消費しても自然に回復するのだが……どうやら魔剣にはそれが無理らしい。


 つまり魔剣は吸収によってしか魔力を得られず、何もしなかったら一方的に減っていくって訳か……それは不便だなぁ……


「というかダースレ……お前が無駄に魔力使うからこうなったんだろ! 仕事中もずっと【テレパシー】とか使ってさ! あれだけ魔力を大切にしろって言ったのに!」

「ああ?」


 すると魔剣は悪びれた様子もなく言い返してきた。


「節約したっていつかは魔力はいつか尽きる運命だっつーの。おら、さっさと血を奪いに行くぞ」

「僕が居ないと動けない癖に……というかそもそもどこに行くつもりなんだよ?」

「ギルド。ギルドでモンスター討伐の依頼を受ければ、モンスターの生息場所だって教えてくれるだろ?」

「……ダースレ、僕より詳しくない?」


 そんなの僕初めて知ったぞ……いや僕が討伐系のクエスト受けたことがないから、知らなくて当然か。


「んなの常識だろ……」


 呆れたように魔剣は言ってくる。まさか魔剣に常識を問われる日がくるなんて……


「というかダースレ。魔力吸収ってモンスターの血でもいいの?」

「ああ。生き血なら何でもいいって言ったろ?」

「言ったっけ?」

「言った。早く行くぞ」

「……でも僕、まともに戦ったことなんかないんだよ? 雑魚モンスターに勝てるかどうかも分からないんだし……」


 ……と、そこまで言った所で痺れを切らしたのか、魔剣が無理やり割り込んできた。


「ああ? なら人間の血でも別に俺は構わねぇんだぜ? その辺の奴殺して奪ったって、俺は何も問題ねぇんだぞ?」

「そっ、それは……駄目だよ」

「チッ……ならとっとと行くぞ。時間がもったいねぇからな」

「はぁ……分かったよ」


 魔剣に逆らえないと改めて実感した僕は、渋々魔剣を腰に装備してギルドに向かうのだった。


 ──


 ギルドに到着するなり、僕は中央にある掲示板を見に行った。ここにクエストが張り出されているから、その辺は人でごった返している。


 僕は人混みをかき分け、何とか目の前まで辿り着けた。しかし……


『オーク討伐……Dランク以上』『ワイバーン討伐……Cランク以上』『薬草採集……ランク制限なし』


 僕が受けれそうなクエストは、薬草採集しか見つけられなかった。……薬草じゃ回復しないのかな。しないよな。でも一応聞いてみよう。


「ねぇダースレ。薬草じゃ駄目?」

『駄目に決まってんだろ。何でいいと思った?』

「……そっかー。あ、スライム討伐のクエスト見つけた! これなら僕でも……」

『スライムは血なんか流さないっつーの……』

「……じゃあもうその辺にいる小動物から奪っちゃえばいいんじゃ……」

『足りねぇに決まってんだろ。それともなんだ? 小動物を何百匹も虐殺するつもりか?』


 魔剣は僕の言うこと全部を否定してきた。なんだよ……僕だって真剣に考えているのに……


「じゃあ何をすればいいのさ?」

『フン……そうだな。ここは安定のゴブリン討伐でいいんじゃねぇのか?』

「安定なの?」

『ああ。スライムの次くらいに初心者がよく倒す奴だ。それにしろよ』

「うーん、分かったよ」


 これ以上考えても僕の考えはきっと採用してくれないだろうし……僕は大人しく魔剣の案を飲むことにした。


 そして僕は慣れない手つきで、クエストを受注して……受付のお姉さんからゴブリンの居場所も教えて貰った。


「それじゃあ……行く?」

『何でお前そんなに行きたくなさそうなんだよ』

「だって……怖いし」

『よくそんなんで冒険者やってるよなお前…… 』


 確かに魔剣の言う通り、僕に冒険者は全く向いてないだろう。でも僕が冒険者を続けているのには、ちゃんとした理由があるんだ。


「それは……僕の憧れの人が冒険者だったんだ。それで僕もその人みたいになれたらって……だから冒険者になろうって思って……」

『ふーん。全く興味ねぇ』

「おい! 普通はそう思っても黙って聞いてやるもんなの!」

『へいへい。クエスト終わったら聞いてやるから、早く行けよ』

「もう……分かったよ」


 そして僕は重い足取りで、人生初の討伐クエストに出かけるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る