第4話無形文化遺産
博多祇園山笠はユネスコの無形文化遺産だ。その期間も二週間以上あり、規模も大きい。
「俺も櫛田神社行ったことがあるんです」
「ビックリしたろう、狭くて」
「ええ、あの狭い中にスタンドを立てて、更に山笠が回るなんてすごいですね」
「ああ、すごい迫力だよ。帰った時は、私はもう見る専門になっているよ」
そう話してくれた。
「山のぼせ」と言うのは山笠のことに夢中になっている人のことを指すのだが、この「山のぼせ」が代々続いたからこそ、博多山笠は無形遺産にまでなったのである。
そして祭りでは、男衆は法被、締め込み姿で山笠を担ぎ、櫛田神社に入るタイムを計る。だがこれに勝ち負けはない。博多祇園山笠は「競争」ではなく「競演」なのだ。
俺の地区の祭りもこれに近い、二日間の祭りだが、一日目は各地区が太鼓の競演をする、神社にそれぞれの地区の太鼓を持ちよって各々叩くのだ。
その時の、絶対に一つになることのない太鼓の音は、俺にとっては騒がしくもなんともない、心地よい振動だ。そしてさらにまた叩きたいという欲求を掻き立てる、手の皮がむけても、テーピングから血がにじんでも。
「懐かしいかね」
「ええ、博多の山笠とは比べ物にならない小さな祭りですけれど」
「大切な事だよ、人を楽しませることを続けていくのだから」
「自分が叩くのに夢中になっていますがね」
「ハハハ、君みたいな人間がいないと、日本の太鼓が無くなってしまうよ、良いことだよ」
そう言ってくれた優しい人だ。だが優しいからこそ、俺の退職を思いとどまらせようともしてくれた。
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