第15話 悪役女帝と剣奴とコロッケ③

 それは決して長いとは言えない日常ではあったが、アルスはユリアに対して悪い印象は持たなかった。


 むしろ、舞台は違えど戦う事を生業としている者同士、共感すら持っていた。


 しかし、この場に立てば、どうしても思い知らされてしまう。


 ユリアもまた……いずれは倒さなければならない者の1人だという事を……


 女帝エイル陛下御前試合


 そう銘打たれた試合。アルスとユリアは女帝エイルに対して深々と首を垂らす。


 アルスは敵意と殺意を隠し――――


 ユリアは敬意と忠誠心を示し――――


 そうして、顔を上げて合い対する。


 対戦相手が対戦相手を試合の中で護衛しながら戦う。


 「そりゃ、まるで……」


 八百長試合だなと言う声を途中で止めた。


 ユリアの構えを見たからだ。


 (剣を低くした下段の構えか、意外だ) 


 さて、どう攻めるか? そんな事を考えているとユリアから、


 「どうした? そんな意外そうな顔をして? 試合開始と同時に攻めてくると思ったかい」


 「残念ながら、その通りだ。ユリアは、もう少し……」


 「豪快かつ豪胆ってか? こう見えても帝国の武将まで上り詰めてるんだぜ? 駆け引きの楽しみ方くらい知っているさ」


 「だったら、こういう攻め方は知ってるか?」


 アルスは前に出る。そう思った次の瞬間、しゃがみ込むように―――


 片手を地面に付き、足を狙い剣を走らせる。


 (低い! まるで四足獣の軌道だね)


 ユリアはその場で飛び、アルスの剣をやり過ごす。


本来ならば、低く構えた剣で受ける。あるいは後方へ飛ぶ。


それを行わなかったユリアを「やはり豪胆だ!」と称する。


 なぜ、なら低い状態からの攻撃をジャンプして回避したならば、相手アルスは次の攻撃へ。


 連続技に繋げていくとわかりきっているはずなのだ。


 「セッイ!」と短い気合と共にアルスは全身がバネに変わったように跳ね上がり、刺突を放った。


 対するユリアは――――いや、そのユリアの姿を見たアルスは驚愕の声を上げざる得なかった。


 「刺突! 相打ちを狙うか!」


 その瞬間「へっ」とユリアは笑っているように見える。


 交差する2つの白刃。 


 グラディウスのアルスに対して、ユリアは長剣。 間合いはユリアの方が長く、刺突の打ち合いならば――― 


 無論、ユリアの一撃の方が速く届く。


 「ぐっ……あぁッ!」と肩を突かれ、苦痛が漏れ出すアルス。


 しかし、アルスは止まらなかった。 さらに前に――――


 体を捻じり、肩に刺さった剣を体の外へ滑らすように――――


 刺突を繰り出す。


 空中にいるユリアは回避をできぬ。 刺突を放った武器では防御も叶わない。


 ならば……「だから、どうしたってよ!」


 ユリアは絶叫と共に、アルスの刺突を自ら腕で受けた。


 事もあろうにユリアは自らの武器を手放し、空いた片腕で――――


 アルスをぶん殴った。


 「痛ッ! ずいぶんと無茶な攻撃をするな。 嫌いじゃないぜ?」


 「うむ、別にアタイが好かれようとしてるつもりはないんだけど。 自分が思ってるよりアタイは良い女みたいなのよね」


 「……はぁ?」


 「戦場で戦った猛将たちは、みんなアンタと同じような事を言って口説いてきたもんさ」


「くっくっ……」と笑うアルス。


「へっへっ……」と笑うユリア。


「ところで」とアルスはこう続ける。


「護衛対象と戦うのはまだしも、二人とも怪我しちまうってのはどうなんだ?」


「あっ! 忘れてた。……まぁ、こればっかりは仕方ないね」


「あぁ仕方ないさ。だから―――」


「「続きを楽しもうじゃないか!」」


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・


(キツイ、ツライ、でも動きを止めるな。動き続けろ!)


 剣戟を腕に受け、片手で長剣を振り回すユリア。


 同じく肩を刺され、片手で振る舞うアルスだったが、彼の武器は刃の短いグラディウス。


 片手で扱えば、両者の剣速には大きく差が生まれ、徐々に防戦一方になっていくユリア。


 だが、それは罠……彼女の誘いであった。


 (さぁ、打ち込んでこい。 最後にもう一度だけなら……)


 そして、その瞬間はやってきた。 ユリアの剣を弾き、体勢を崩した直後だ。


 飛び込むように間合いを詰めたアルスが、体当たりのように剣を突き立てていく。


 「まってたよ!このタイミングをさ!」


 怪我をした腕。今も赤黒い半液体が零れ落ちていく腕を動かし、両手で構え直し、


 「最後にもう一度くらい動け! アタイの両腕!」


 その剣戟は剛腕と豪速。


 間合いに入り込んでいるアルスに受ける事はできず、回避することもまた――――


 「いいや、信じてたさ。最後にそうしてくるって事くらいは!」


 ユリアの剣戟を読み切っていたいたアルス。


 強引に体を捻じり剣戟をやり過ごす。 その際、回避しきれぬ部分から鮮血が舞い上がるも――――


 伸ばしていた腕。その先にあるグラディウスはユリアの胸元まで届いていた。


 「最後の一振りを読まれていたなら……いいや、アタイならそうするって信じられていたら……アタイの負けだね」


 ユリア敗北。


 その宣言を持って、この戦いは勝敗を決した。

   

  


 


   



 

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