第5話 悪役女帝と剣奴とシーフードパスタ ②
ポエルタ王は悩んでいた。その理由は――――
斥候1「帝国軍はエイル本陣をゆっくりと南下。また別同隊としてリンリンが帝国街道付近まで進軍」
斥候2「御注進! 帝国はポエルタを大きく迂回して、東ジャノ山に布陣! 今ならば兵站線が大きく伸び、輜重隊を叩けば補給を絶てます!」
斥候3「なんの帝国本体はユーリア川から南下。我らの同盟国 ギガショに裏切り勧告を成功させて艦隊を海に配置」
斥候4「いえいえ、本物のエイルはいまだに帝国本国に籠っている様子……」
斥候5「急報でございます! 周辺各地で挙兵を促す者が現れ、関所を占領されえています!」
斥候6「……以下略!」
斥候7(ry
ポエルタ王「貴様ら! 戦時中の誤報告者の処罰はわかっているだろうな!」
(おのれ! おのれ! おのれ! 帝国め! 正確な位置情報すら掴ませぬつもりか!)
ポエルタ王は暴れるように剣を周囲に振るう。乱心、精神の平衡を喪失して……
「お待ちください、我が王。これが帝国のやり方……帝国の神算と言われる軍師リンリンの戦術の1つです」
「おぉ、宮廷魔術師ども! わかるか? 帝国の動きが?」
「ほっほっほ……帝国どもは大量の魔素をばら撒き、こちら側の索敵を躱していましたが……ついに尻尾を掴みましたぞ!」
その場にいた重臣たちはざわつく。
「いくら魔素をばら撒いても母なる海に連なるユーリア川では効果が薄まるとは知らぬのでしょう。帝国は艦隊を編成して川を南下、狙いは海路を支配して他国との貿易を閉鎖することでございましょう」
宮廷魔術師は水晶を取り出す。すると同時に空中に帝国の様子が映し出された。
しかし、映し出された帝国軍の様子に「ハッハ……これはこれは」と失笑を漏らす者がいた。
まずは川の封鎖。 巨大な戦艦同士で鎖でつなぎ合い、物理的に川を封鎖していたのである。
「どうやら、帝国は水中戦を知らぬと見える。 あのような鎖で自身を巻いて動けるはずもなかろう! 先手必勝、今夜にも夜襲をかけるぞ!」
ポエルタ王は気を吐き、鼓舞させる。
それを受けた武将たちも――――
「「「うおぉぉぉぉ!?」」」
呼応して気合の雄たけびが天を突いた。
しかし、ポエルタ王だけではなく、重臣たちも精神の平衡を喪失していたと言わざるを得ない。
それが女帝エイル自身が帝国を率いて進軍する効果とも言える。
なぜ、海が遠い帝国の海軍艦隊がポエルタに現れたのか?
なぜ、ポエルタ軍は海軍艦隊が帝国本体だと思ったのだろうか?
人は自分が見たがる物を見る。
月明りも雲に隠れて暗黒の視界。 闇に紛れて、音もなく船を走らせての進軍――――そして夜襲を目的とするポエルタ軍。
「月は出ているか?」
ポエルタ王の声と共に闇は開け、月の女神に愛されたように月明かりが姿を照らす。
神聖さすら感じられるポエルタ王は指揮を取り、ただ一言――――
「攻めよ!」
同時に火が灯された矢が天を赤く染めた。
その奇襲攻撃に帝国海軍は――――動かなかった。
ポエルタ軍の猛攻を前に何もできずに動けない。
兵士たちをそう思っていた。人は自分が見たがる物を見るなのだから……
「なぜだ?」
そう初めて疑問に思ったのは、炎上した帝国艦隊が海に沈み始めた時になってからだった。
「なぜ、帝国艦隊には誰も人が乗っていない!」
軍艦に乗っていたであろう帝国数万の軍勢は姿を消し―――
すでにポエルタの城下付近まで到達していた。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「くっくっくっ……我が暗黒の策に溺れるがよい!」
そんなリンリンの様子にペシッと後頭部が叩かれた。
「その思春期特有の子みたいな喋り方はやめなさい!」
「うぅぅ……痛いですよ、エイル陛下」
涙目になりながらも不満をいうリンリンを無視しながらもエイルは
「それで? 貴方の策の成果を述べなさい」
「御覧の通り、我が軍の進軍に浮き出しだったポエルタ軍は、数多く用意した囮の中でも一番雑な海軍に集中していきました」
リンリンは、そこでため息を1つ。
様々な策を用意して準備していたのにも関わず、ほとんどが披露されることなく終わった事を残念にすら思っているのかもしれない。
「そこで、我らが帝国全軍が合流となり、ポエルタ城を包囲……これは間違いなく無血開城なりますよ。私たち後々の歴史家たちに語り尽くされちゃいますね!」
「そうですか。ご苦労さまですね。はむはむはむ……」
「はむはむ? あっ!? 何を食べてるんですか! エイルさま!」
「え? これは海鮮串ですよ? さすがは世界でも屈指の漁港ですね。こんなシンプルな調理法でも味に驚かされてしまいます」
「わ、私の分は、このたびの功労者である私の串は?」
「はいはい、もちろんありますよ」とエイルは海鮮串をリンリンの口に入れた。(他人の口に串を入れるのは大変危険です!真似しないでください!)
「はう! 美味しいです!」
(少し黒くなっていて、正直焼き過ぎじゃないかと思っていた焦げですが、これは食堂のおばちゃん発祥のショウユ! 他国にまで流通が始まって…… しかも、通常のそれとは違い甘みがある?)
そんな事を考えながら、一番上に乗っているホタテをかみ砕く。
「このホタテ! 弾力が凄いですね!」
(まるで重厚なキノコを食べているかのような弾力。一瞬、つれないような淡白な味かと思ったら甘みのあるショウユが、それすら引き立ててくれる!)
「次は野菜……玉ねぎ? 甘い! どうして野菜って火を通しただけで甘みが生まれるのでしょうか?」
(次のエビはプリプリでホタテとは違った弾力。それに、味も淡白というよりシャープ。 なんと言いますか……味に切れ味があると言えばいいのでしょうか? そして、トウモロコシ! やっぱり、甘い!)
「ふう……これがポエルタの海鮮料理の神髄。 やりましたね! エイルさま! アルスさんもこれでイチコロですよ」
「ふっふっふっ……甘いですよ、リンリン。まるで、パンケーキのクリームの如き甘さです!」
「は、ほえ?」
「秘策は我にありですよ。以前から食堂のおばちゃんと相談していた料理の1つを海鮮用にアレンジを考えています!」
「一体、どんな料理を……」とリンリンは最後まで言えなかった。
部屋に乱入するように伝令が飛び込んできたのだ。
「伝令です。囮を攻撃していたポエルタ軍が転回。こちらに向かっています」
「むむむ、これは……」
「さて、リンリン? 貴方がいう暗黒の策は、ここからが本番よ。 ポエルタ軍がたどり着くよりも早く、使者として城へ入り主のいなくなった国を口説き落としてきなさい!」
「は、はい。必ず、あの城壁に白旗を立たせてみせましょう。エイル陛下はポエルタ王の帰還を向かえる準備をおねがいしますね」
そういうと、リンリンは正装に違え、ポエルタ城へ向かっていった。
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