第10尾。エビの想いは熱よりも熱く

「荷物は持ったか? ってなんだよその量……」


風呂敷を包み敬礼をするコットン

それはあまりにも人が抱える量では無い……。


「準備OKであります! 水と食料にぃ……肥料!」


「肥料はやめろ肥料は!」


肥料にトラウマを覚えエビ。そんな事はお構い無しに彼女はピクニック気分のようだ。


「にしてもどうやって山を下りるの?馬車がある訳じゃないし…」


「あぁそのことなんだが……投げるぞ。そいっと――」


エビはコットンにある物を差し出した――。


「――よっと。これは?」


「ポーションだ。飲んどけ。火傷しても知らねえからな?」


(にしてもなんでケチャップなんだよ…)


そう――。彼が差し出したのはポーション。彼の考えついた灼鉄の大地グリル・フィールドを使った方法だ。しかし、そのまま彼女を持ってしまうと彼女が火傷してしまうため、耐火効果のあるポーションを彼女に渡したのである。


だがしかし、それはどこからどう見てもケチャップ、トマトを潰して作ったケチャップなのである―――。


ケチャップ、それはマヨネーズと対となる関係――。


ケチャップ、それはお肉、揚げ物の親友――。


ケチャップとマヨネーズが手を組んだ時、赤と黄色の閃光が天から降り注ぐ――。


というどうでもいいケチャップの蓋は閉じておこう―――。


「飲み終えた……いや啜り終えたか?」


「うん! 美味しかったよー!」


笑顔で答えるコットン。口元に少しケチャップが残ってるのがまた可愛らしい。


「そうか。まぁそれなら……良かったが。で、さっきバケツに半分くらいの水を入れただろ? 合図をしたら俺にかけてくれ」


「わかった!」


「よし始めるか。すぅー……はぁー……」


深呼吸をして心の準備をするも……


「早くして!」


急かされるエビ


「だあああ! もううるっさいなぁ! 急かすんじゃありません! 何事にも心の準備というものがありましてだねコットンくん」


「早く! 早く!」


「分かったよ! 早くするから騒ぐな」


「……はーい」


子供のようにしょんぼりするコットン。

仕方のない事だ。それだけ山を下りるのは久しぶりなのだから――


「さてと………やりますかね!」


「鉄の大地に我は立つ 己の身を燃やしてさえ 愛する者を守るため 熱き思いを熱に変えて――」



灼鉄の大地グリル・フィールド――」



点火イグニッション!」


その瞬間――。赤い透明な半球が彼を覆った。


「まずいッ――コットンを巻き込んじまう!」


急いで展開する体積を縮め、彼一尾分の大きさになるも…


「うぐっ――!?がァッ熱い……」


「レッチリさん?」

灼ける。体が、心が、全て―――。


「うがぐあああああああああああぁぁぁ!」


「レッチリさん!」


咄嗟に彼女はレッドの身の危険を感じ、バケツの水をかけようとしたが――。


「手ぇ……出すな。まだだ手を出すな!」


レッドはそれを拒否した。


どうしてだろう。痛いはずなのに。

何故彼は止めたのだろう――。

彼女は立ち尽くしたままだ。


痛いのは当然だろう。

だが痛いなんて生易しいものではない。

今まで生きてきた中で誰も味わったことの無い痛みというより辛さ――

身体全体が辛いのである。


でも耐えられる。

彼は分かった――。


それは何故?


彼女がだから。


レッドにとっては恩人だ。

だがそれだけでは無い――。

彼には彼女、コットン・ヴェルナードへのがあるから。


家族をも殺されひとりぼっち。

その上不幸を招く能力を持たされた彼女。


つらいはずだ。からいはずだ――。


同情か? 哀れみか? 救いの為か?

いいや――違う。


彼はただなだけだ。

好物なんだ。大好きなんだ。

とてつもなく――。


彼は優しくない――。

救いの声あらば、どこからかやってくるスーパーお人好しでもない。


でも生き物だ。海老だ。

好き嫌いは当然あるし、寝るし喋るし怒るし泣く。


だから。

彼女が不幸な目に合わせたくない。

ただそれ以外に理由はいらない――。


硬い甲羅はヒビが入る。身が灼ける。

だが彼の心は割れない。

彼女コットンと旅をしたいから。

彼女コットンを弄って弄られたいから。


ただ、それだけ――。


「コットン。今だ! 水をかけろ!」


「う、うん!」


熱と水がぶつかり白い蒸気が生まれ、痛みが彼を襲う――。


「があっ―うぐっ。はぁ……せぇのっ! おおおおぉりゃああああああああああ!」


勢いと根性だけで山場を乗り切った海老。


「よし……美味加速デリシャス・ブーストが上手く適用されてるな。まだ痛えが……まぁ収まるだろ」


「ねえ」


「あん?」


「どうして……どうしてそこまでしてくれるの!? レッチリさん。私自分から傷つかないでって言ったよね! 私頼んでないのに…それじゃレッチリさんの身が持たないよ!」


涙を流しながら彼に聞く。

そんな彼女を見てエビは――


「勘違いすんじゃねぇ」


「え?」


「ただの自己満足だ。それに好き以外に理由いるか?」


彼は当たり前かのように応えた。

そんなエビを見て彼女は――


「んにゃ。いらない!」


彼女はにしっと笑って返した。


「ったく……早く行くぞ!」


言葉が出る前に体が動き、彼女を抱えた。


「わわっ! ちょっと何すんの!」


「さっさとしねぇと冷えきっちまうんだよ。飛ばすぞ!!」


全て言い切る前に体が先走った。


「ちょっ待っ……いぃぃぃぃぃぃやあああああああああああ!」


「うっひょー爆速だぜ!! 早い早い体が軽いぜえ! はっはー!」


その速さ、時を溶かす勢いで光よりも早く―。

山々には一瞬女の叫び声が響いたという。




…to be a continued

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