第7尾。お口の中がラグナロク
海老の朝は早い――。
まだ日も昇って居ない濃霧の朝方。
彼の1日は狩りから始める。
「こら待てイノシシ!! とっとと肉になりやがれ! ちっ……意外と速いな。じゃあ奥の手だ。喰らいやがれ!
鋏から異様な黄色のビームを乱射する海老。
彼が現在使っている魔法。それは
もしくは代々受け継がれている魔法のいずれかを指す。
彼の出した黄色の閃光。その名も
名前がクソだせぇのはさておき、3000倍に圧縮されたマヨを対象にぶち当てると言う迷惑極まりないものである。当たった対象は肌から浸透し強制的に太らせ、動きを鈍らせる。当たり続けると相手は心臓が圧迫され、死ぬ。
おかげで彼がマヨブラをぶっぱしまくったせいで森はあちこちマヨ臭い。
「はぁ……はぁ。なんとか捕まえきれたぜ。
とりあえず着々と食べ物は増えてきたな。
おっ!今日はまた随分とでかいのが取れたな」
お前だよ。お前が太らせたんだろうが。
「ひぃふうみ……まあこんなもんか。こんだけありゃあ大丈夫だろ。近くで採った山菜と近くの川で汲んできた水もあるし。またこれが美味いんだよな」
「ぐっ……うっ……ぷはぁ! やっぱり一仕事した後はコレだな! 一気に溜まった疲れが取れる取れる!」
そう言い、ぐびぐびと1リットルもあろう水筒の水を飲みほす。
山奥にある村なのでかなり自然の恵みは豊富だ。実を言うとこの村の水は、北海道や阿蘇の水と比べても劣らないどころか、かなり柔らかく上質な水で、おまけに微炭酸だと来たものだ。不味いわけが無い。
(しかし……いつまでもコットンに世話になり続けるのも悪いな)
兵の男を蜂の巣にした時から1週間が経とうとしていた。
恐らく帝国の輩に目をつけられている。彼は薄々勘づいていた。いつまでもここに留まる訳にはいかない。彼女を巻き込まない為に――。
そんな事を思いながら、彼はたんまりと食材を抱え山道を下って行く。
コットンの家に着くも、扉を開けると異様な光景を彼は目の当たりにする事となる。
「ただいま。今日も沢山捕れたぞ………ってどうしたんだよそれ」
「お帰り! ちょっと作ってみたんだけど…美味しそうでしょ?」
黒く滴るドロドロした液体。
ラスボス級のオーラ。
――それは彼女の
「お前………何を作ったんだ?」
「スープだよ!食べて食べて!」
満面の笑みで答えるコットン。
彼は意味が分からなかった。一体何をどうしたらそうなるのか。物理法則の欠片も無さそうな黒い汁。見るだけで吐き気がしそうだ。
「コットン。何入れたらそうなった?」
「えーと………人参に肉に川の水に…あとマヨネーズでしょ? ……あとトカゲにジャムに隠し味に肥料!」
「うん。途中どう聞いてもおかしいね。俺の聴力バグっちゃったのかな? もう一度教えてくれるかい? コットンくん。」
「だーかーらー! 人参と肉と水とマヨネーズとトカゲとジャムと肥料だってば! あと口調おかしいよ? 頭でも打っちゃったの?」
何回聞いても結果は変わらない。どうやらおかしいのは彼女の舌のようだ。
人参と肉と水……分かる。
マヨネーズ………水で薄まるだろうが人参と肉には合うので分かる。
トカゲ……若干悪寒はするがまだ分かる。外国でもよくトカゲを食べる習慣はある。
ジャム……ジャムを使って肉を柔らかくしたりする事はある。マヨネーズとの相性はどうかと思うが…百歩譲ってまだ良しとしよう。
肥料……???? 最早食材ですらない。さらに何の肥料も何か分からない。
どうやら大自然で過ごして来た彼女の味覚は、相当な天然物のようだ。
「コットン……お前、味見したか?」
「しなくても大丈夫だよ! 村の皆倒れるくらい美味しいって言ってくれるし!」
「そ、そうか……。」
「食べてみてよ! はい! あーん!」
(食べたくない!食べたくないが……コットンを悲しませる訳にも……えぇいこうなったら仕方ないな! 一かバチかだ)
「………っ。い、いただきます。」
躊躇いながらも彼はスプーンを口に運ぶ。
…さてお味は如何なものか。
「どう? 美味しい?」
満面の笑みで彼をじっくり見つめるコットン。
彼は気力を失い、味の感想を答えた。
「く、口の中が………ラグナロ……ク」
3秒後…彼の意識は途絶えた―――。
「レ、レッチリさん……? レッチリさん! 大丈夫? しっかり! しっかりして!」
果たして彼の運命やいかに。
――1時間後
「んう?」
「っ! レッチリさん! よかった…。急に倒れるから心配だったんだよ?」
「あ、あぁ。心配かけてしまったな。ごめん」
彼は思った。でも正直は思いたくはなかった。
目の前にいる彼女が、村の食料難の原因なのではと…。
「な、なぁ…コットン。お前、自分の作った飯食って生活してきたんだよな?」
「うん…両親も亡くなっちゃったし、基本一人で生活してたしね」
「悪い。余計な事聞いた」
「ううん。いいよ。でも急にどうしたの?」
「いやな…。コットン、お前が自分で生活してるって事はだ」
「うん」
「自分の飯を食ってきたって事なんだよな?」
「そうだけど…それがおかしいの? レッチリさん大丈夫?変なもの食べた?」
(その変な物さっき食わせただろうが!)
ツッコミたくなったが、気持ちを抑えるレッチリ。
「い、いやそれが聞ければもう大丈夫だ…」
(やっぱりか。コットン自身は自覚がない。こりゃどうなんだ?ただの体質か……それとも……コットンの無意識的に能力が発現しているのか?)
どうなんだどうなんだと首を傾けつつ悩みに悩む海老1尾。それをポカンと見つめる綿1人。
(どうしたもんかね。……っもしや!? BBAならなんか知ってるかも!!)
「悪ぃな。ちと食材採ってくる」
「また? ……沢山取りすぎないでよ!」
「おう」
扉を閉め、少し家から距離を取るために
少し山道を走る…
「まぁ……こんくらい走っときゃ聞かれないだろ」
スマホを取り出す海老。バレないように木々の間に身を隠しワダツミに連絡を取る。
(よかった……。回線復活してる)
ほっとするも1秒後、懐かしいようで懐かしくない聞き覚えのある声が聞こえた。
『もしもし誰だい! こんなクソ忙しい時に』
「あぁ……俺だよ俺」
『私に息子なんて居ないよ。オレオレ詐欺になんて引っかからないよ! そんな事やる暇あるなら真っ当に仕事でもしな!』
「ちげぇよ!! 俺だよ海斗だよ! アンタが海老にして落とした奴だよ!」
『あぁアンタかい。でどうしたんだい? 見てわかんないのかい。今忙しいんだよ。スナック営業中なんだよ。要件ならさっさとしてくんな』
「見えねぇよ! 声だけしか聞こえねぇわ!!
………ったくいっつも婆さんとはグダグダになるな。」
『なんだい冷やかしかい? 要件無いなら切るよ? いいね?』
「違うわ! 急かすなBBA! 本題に入るが…婆さん。人の持つ能力とか調べられたりするか?」
『あぁ。できるよ。ただタダで引き受ける訳にはいかないね』
「…現金なヤツだな。幾ら払えばいいんだ?」
『当たり前さ。こちとら幾ら神でも商売は商売だよ。まぁアンタの事だ。まだ金無いんだろ? 後払いでいいから、その話詳しく聞かせな』
「あぁ…助かる。ありがとな婆さん。実はな…」
―――5分後。
『なるほどねぇ。今いる村が食料難で原因がアンタの彼女じゃないかと。へぇ……彼女の事信じられない男は人としてどうかと思うけどね』
「彼女じゃねぇし! ……そこを言われるとさすがに心が痛いが……念の為だ。ただの体質かもしれないし、能力が発現してるかもしれないだろ?」
既に人では無い事を突っ込む人物は誰一人としていなかったようだ…。
『素直じゃない男は嫌われるよ。……で本題に入るけどね。話を聞く限り、アンタの彼女、どうやら能力持ちの可能性が高いと思うよ』
「やっぱりな……。どうりでおかしいと思ったんだよ。まず食材がおかしくて肥料とかジャムとか入れてるんだ」
『あら……幾ら私でもそんなモン入れないね』
(人様の能力とか姿とかめちゃめちゃにしてる時点でアンタも人の事言えねぇだろ……)
怒りがふつふつと煮えたぎるが気持ちを抑えて話を続ける。
「それだけじゃない。作った物がとびきり不味いんだが、本人に自覚症状が全くない。それどころかその
彼女が居ない裏でしれっとボロクソに言うエビ。……お前も大概だよ。
『あら……アンタの彼女。廃棄物作る天才なんじゃないかい?』
皮肉めいた事を言われ爆発しそうになる海老。
(くそう……。廃棄物みたいな髪形して、廃棄物みたいな性格してるBBAの顔ぶん殴って廃棄物にしてやりたい……だが我慢だ我慢。耐えろ俺)
『おっあったあった! ……んぅ? しかしアンタの彼女。とんでもない能力持ってるね。これはかなり大変な事になりそうだよ』
何かの機械を弄って探し当てたようだが、この際、彼女の能力か体質かを知れれば手段なんてどうでもいい。
「御託はいい。さっさと教えてくれないか? コットンの能力」
『分かったよ。教えればいいんだろ教えれば』
面倒くさそうな顔をしながらBBAは言う。
『アンタの彼女の能力。それはね。』
『
…to be a continued
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