第二幕 サイカイの輪舞曲(ロンド)

つまらん世界

 クエスト失敗者を嘲笑う、烙印のような真っ赤な画面。



 ――なにが世界救済だ。



 寝そべったまま、携帯ゲーム機を枕の横に叩きつけた。どうせここは気持ち悪いほどに柔らかすぎるベッドの上なんだし、壊れやしないことを経験で知っている。


 また負けた。もう三日もかけてやっているモンスターの討伐クエスト。SランクのクエストだってSSランクのやつらに馬鹿にされてんのに、Aランクで止まってるなんて、あいつらに馬鹿にされてしまう。嫌だ。悔しい。死ねばいいのにと思う。じっさい顔も本名も知らないやつらだ。メッセンジャーの趣味グループでつながっているだけ。だが、だからこそ、悔しい。



 友だちなぞいらない。無駄だから。

 ――生身の人間と、あんな長く話すなんて、ひさしぶりだった。



 待ち合わせなどふだんしないから、早く着きすぎてしまった。生まれてはじめて入ったリア充の店。私服はないから制服で行った。高校生だとばれたらまずいかな、と思ったが、店内には制服を着た人間もちらほらいて、馬鹿にされることはないと確信した。コーヒーの種類などわかるわけねえだろ、と思いつつ、店内をうろうろしたすえ、テラスに行って。

 ――そしてあのような話を。


 あの女の、笑顔。



 俺は大げさにため息をついた。――うんざりする。



 なんだよ。世界救済って。そんなのは、ゲームで充分だろうがよ。


 いまやっているこのゲームも、そういう感じのストーリーだ。モンスターをひたすらなぎ倒しかわいい女を従え、ひたすら無双する。俺は最強だから。これが、いいんだよな。


 叩きつけて裏返しになった携帯ゲーム機からは、音楽が流れ出ている。電源を切ってはいないからだ。村のBGM。やたらと明るくのんきな音楽。バトルが格好いいので気に入っているゲームだが、ここらへんが間抜けなのどうにかしてくれないか。あとシリーズごとにキャラデザがどんどん丸くなり、女受けを狙ってるのも気に入らないし。女と子どもに媚びたらコンテンツ終了だろうがよ。このシリーズの魅力はバトルのリアルな迫力なんだから。ちなみに俺は、このゲームを最初のシリーズからプレイしている。メーカーは、俺をはじめとしたガチ勢の意見こそ取り入れるべき。ガチのプレイヤー敵に回したら怖いぞ? 面倒だからやらないが、その気になればメーカーひとつなんかすぐ潰せるんだよ。



 だから、きのうの、あんなの。

 ――俺は認めない。



 世界の命運なんて心底どうでもいいが、たとえば。人間を殺しても罪に問われない一日とかがあれば、ちょっとは世のなかましになるんじゃないかって思う。その日が来たら、俺はたくさんの人間をナイフで刺してやる。学校のやつらも外のやつらも子どもも、家のやつらだってうるさかったら刺してやる。すっごい爽快だろう。殺した人数を競い合ったりして。それだってゲームの一種だ、古い気はするがな。


 ……べつに実行する気などない。そういう日がやってくるまでは。犯罪をしたら捕まる。そんなつまらんことくらい知っている。



 だが、人間は、嫌いだ。

 醜くて。汚くて。地球上でおよそ最低の生物。


 だから、答えなんか決まってる。

 ――世界滅亡。だけど、俺は救世主になれる。



 華麗に怪物と戦う俺を想像するのは悪いもんじゃない。俺の信者が増えるかもしれない。俺を崇める宗教ができるかもしれない。そうしたら、土下座でもされたら、教祖になってやらなくもないさ。

 そちらを選ばないなんて、あの女の神経を疑う。





 ……ああ、つまらん。まじでつまらん。なんで世界はこんなにつまらんのだろうな。

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