大学生、渡辺
最後のひとりは、わたしたちのテーブルに気がつくと、躊躇するそぶりもなく手を上げた。
茶髪の若い男性。高校よりは、大学にいそうな感じだ。手にはプラスチックのカップを持っていきみる。アイスコーヒーだろうか。
テーブルに来ると、お疲れお疲れーと言いながら、すいっと陸くんの隣に座った。はじめまして、とわたしは会釈する。高橋くんはゲームをやっている。田中さんは笑顔のままうなずいているのかいないのかよくわからない。陸くんは目を見開いてこのひとをじいっと見る。
「や、もしかして俺遅刻でした? いっやー、きのうバイトで。そのあとサークル行ってオールして。で、夜勤で。寝て起きたら昼だったんですよー。やばいやばい」
……すごい。これが大学生ってものか。
髪は明るい茶髪。くしゃくしゃしているが、高橋くんのように寝癖でそうなっているのではなく、パーマを当ててそうなっているのだとすぐにわかる。両耳には銀色の大ぶりな丸いピアスをつけている。薄っすらと青みがかったグレーのカーディガンに、濃いめのブラウンのスキニーパンツ。荷物はトートバックだけで、むしろなにが入っているのだろうと思わせるほどに薄い。
まさしくおしゃれな大学生、って感じだ。
「っていうかー」
わたしを両手のひとさし指でさしてくる。
「女子高生じゃん! やべえ女子高生との邂逅! しかもいの女! ふー!」
いの女、というのは、わたしの通ういのち女子学園の略称だ。もっとも、内部の人間はあまりそう言わないし、そう言われるのを好まない子も多い。
「わたしも男子大学生と会ったのはじめてです」
「うっわあその反応。いいよいいよ、いいわあー。名前は?」
「王子姫子、です。高三で」
「えー、なにその名前! キラキラじゃね? だいじょぶ? だいじょぶなの?」
「わたしは気に入ってます。わたしの運命を決定づけてくれましたし。 ……そちらのお名前は?」
「俺? 俺なんて平凡だよー、ザふつうって感じ。渡辺翼ってんだー、ふつうでしょ?」
「いい名前だと思いますけど」
「あっりがとー、いの女は女子力も違う違う!」
田中さんが会話に入ってくる。
「大学生?」
「ああ、はい、そっす」
「ちなみに、どこ大かな?」
「やー、まあ私立っすね。都内の私立」
「私立は受験の負担も減るしね。いい選択だと思うよ」
渡辺さんは亀のように首をすくめて、あ、はい、ちーっす、と意味のない言葉を繰り返し、そのまま黙ってしまった。
不自然な沈黙。だれも、進めようとしないみたいだ。
集まったのに。
世界をどうしようかって、そういう話をするために――。
天使のダンス。
あれが嘘でないならば。
――ここでみんなが集まったって時点で、きっと、嘘ではない。
夢だとしたって関係ない、だいじなのは、ここにいるわたしたち五人が――もしかしたら世界を滅ぼしてしまうし、もしかしたら、救済できるってこと。
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