冒険者ギルドの還元祭。
シグマ
冒険者ギルドの還元祭。
冒険者たちには月に一度、心待ちにしている日がある。
──還元祭。
毎日のように狩られてくる魔物の素材に、放っておけばギルドの倉庫は直ぐに満杯になってしまう。
そこで特に保管に場所を取る肉を調理して、僅かばかりの対価で冒険者たちに大量に振る舞うのだ。
「野郎ども、祭りだ!!!」
「「ウォォオオ!!!」」
地響きがするほどの熱狂が町を包む。
肉を食うのにAランクもFランクも関係がない。
そして、この日の還元祭には普段とは違う肉があり、それをギルド長自らが運んでくる。
「さぁテメェら、次はお待ちかねのジュエルミートだ! 今日は食らいに食らって、飲みまくれ!!」
ジュエルミートはSランク級のモンスターであるアイランドカウから取れる、最高級の霜降り肉だ。
普通の生活をしている人にとっては、まず食べれないどころか、見ることすらも叶わないものである。
普通はギルドの還元祭であろうと出てくる逸品ではないのだが、この日はたまたまSランク冒険者が祭りに参加しており、ノリで大盤振る舞いしたのだ。
「うひょー、さすがアインズさんだぜ!!」
「君に痺れる、憧れるー!」
突然の知らせに冒険者たちは一層色めき立つ。
当然ながらに殆どの冒険者はそんな高ランクの魔物を倒せないし、高級なその肉を口にする機会などありはしない。
だからこそ我先にとジュエルミートへと殺到し、イザコザすら発生する。
「どけ! 俺が先に食べんだよ!!」
「うるせぇ! 俺んが先だ!!」
一触即発といった様相を見せ出し、もしもこれが普通の飲食店で起こったならば大惨事になりかねないのだが、ここはギルドが主宰する会場である。
「やめんか、バカモンども!!」
ギルド長の盛大な拳骨が、騒ぎを起こす冒険者に落とされる。
屈強で奔放な冒険者をまとめる長なのだ、その実力は当然に高いものがあり、騒ぎを起こした冒険者は指示に従わざるを得ない。
種々様々で風貌がまるっきり違う者達が集っているので、一見しただけでは無秩序のように感じられるが、実際はギルド長の元にいざと言う時は強い結束力を発揮する。
それだけの支持を集めるのに、還元祭は大いに役立っているのだ。
「お兄さんたち、こっちにも来ておくれ!」
全ての冒険者たちがこぞって参加するのだ。気付けばギルドの周りには多くの露店が出店し、お祭り騒ぎはドンドンと拡大していく。
そして規模が大きくなれば目敏い商人が放っておく訳がないし、国を挙げてのお祭り騒ぎとなっていくのだ。
いつしか国を代表するお祭りにまで発展した還元祭に国外からも冒険者が集まるようになり、放出される肉の量と質は過去にどこの貴族でさえ用意できなかったレベルにまで上がっていく。
「これだから冒険者稼業は最高だ!!」
集まった冒険者たちと恩恵に預かる市民たちは大いに祭りを楽しみ、皆が一様に笑顔に溢れる。
これだけ大きなお祭りになると動くお金の量も半端ないことになり、人と金が集まる町はドンドンと大きくなっていく。
それによって町では別のトラブルが生まれることになるのだが、それはまた別のお話。
こうして人々は最高の祭りをまた次の日からの日々への活力にしていくのであった。
冒険者ギルドの還元祭。 シグマ @320-sigma
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