しゅらつくも骨董店の出張営業

るらああん

破裂するもの

「毎度ありがとうございました!」

 狐の鋼孤は夜闇に溶けていく本日最後の客を見送って店じまいをする。店内には石箪笥に絵画、兜に急須までありとあらゆる骨董品が清潔な状態でところ狭くも秩序正しく陳列されている。ある意味ではガラクタで散らかった室内でありつつも整理整頓が行き届いている光景は骨董屋特有の愉しげな空気を醸し出す。わたしはレジで本日の収益を計算しながら赤字か黒字かやんや独り相撲。赤勝て……黒勝て……赤勝て……って赤が勝ったら店としてだめでしょう、ごもっとも。はてさて計算終了結果黒字が勝利してやったぜ。安堵してから明かりを消して暗闇になると店内にも夜闇が入り込み外の景色と同化して月明り混じった街灯が壺の白い表面を照らし反射する。それは壺だけでなく光沢をもつ骨董全てが等しく輝き闇の中青白く浮かび上がる即席の星空。仕事上がりにしか見られないわたしの好きな光景だとある欠点があるけれど。風を切る音が背後に接近して振り返ると飛来した壺の万歳突撃に驚きこけて頭上を通過し壁に当たって砕け散り今度は破片が飛んでくる。すると吊り下げ式傘立てに立てかけてあった白い傘がひとりでに遠心力を使って飛び上がり鋼孤を超え壺の手前で展開することにより破片の危険な飛散を防ぐ。破片は勢いを吸収されて弾き落とされる。

「また一つ、壊れちゃったか」

 鋼孤は傘をたたみ傘立てに戻して言う。

「いつもありがとね」

 傘は言葉による返事代わりに小気味よく揺れる。

「掃除、しなきゃなあ……」

 ほうきで破片を一か所に集めて――箪笥の隙間は勘弁してよ――ちりとりに入れ裏のごみ箱にポイ。ついでにポストの中身を確認する。寿司屋の広告/宗教勧誘/土地販売/特売チラシに埋もれて重要な手紙があった。封を開け一行目の『出張営業依頼』という文字列を見たとたんにガックシ。明日の蚤の市に行けないよ! 泣く泣く夜を超えるも手紙を断る訳にもいかず、わたしは出張の果て無き旅路へ挑むのである。

「ああもう!」

 臨界を迎えた何かが爆発するのにさほど時間はかからない。何かが何かは知らないし知っていたとしても精々「何か」だとか「サムシング」としか言いようがない。それって結局言えてないじゃんとか考えても仕方ないので諦めて思考放棄――したいけどそいつはまずいのでできません。そのまま悩める子羊どもを脳内に抱えてはーいどうどう疾走させても肝心の羊飼いがいないから失踪しかねないよとどまってても爆発するんだけどさぁイライラ臨界に達したこの頭が。え、実際には爆発しないしそいつは単なる比喩だろう? ノンノン、残念ながら爆発するときはするんです、存外。確たる証拠のない責任転嫁ではありますがそれもこれも出張営業依頼書の野郎が悪いのですよと開き直る馬鹿馬鹿しさ。そして脳内羊飼いな鋼孤が町を見渡す崖沿い山の道路にて実際に走らせているのはまっしろ羊ではなくまっくろバイク。どこぞのチーフめいたゴツいヘルメット被ってなんならアーマーも特注のゴツいのが欲しいですが〈機動性/利便性/実用性/現実性/予算/予算/予算!〉の面を考慮した末に完成しました薄くて快適なアーマーを使用してます。着心地はこんなもので敵の攻撃を防げるのか不安になるほど内側は上質ふわモコもふモヘ感マックス。包まれる安心感を防御力に対する不安が相殺して生み出される戦場上の背徳感は一種の快楽成分を分泌させるわけないですたまらねぇですが技術者も技術者なりの理屈と自尊心を持ってデザインした事実は信頼してるからね。うん、頭で信頼するのと体が信頼するのではまた別の話なんだよ面倒くさいことに。あ、吐きそう。するとアスファルトが膨張してうわやっべ急ブレーキ遅かったかとか考える間もなくドカドカ破裂。でっかくて尖った破片が無数に飛んでくるが無駄よ無駄よとアーマーがはじき返す。調子づいて目の前に飛んできた破片を頭突きで押し返しカーブの先を急ぐ。そしたら破片は『速度落とせ』の標識に当たって跳ね返りバイクの前輪に突き刺さる刹那、ため息交じりの言葉が口から漏れる。

「ついてないなぁ――」

 バイクは制御を失ってバランスを崩し右横倒れの盛大なクラッシュ。バイク本体とアスファルトの間で火花が飛び散り強引なじゃじゃ馬は突き進むから右手でやたらと荒れた地面を引っかきセルフで急ブレーキをかける。グローブが破けて自慢の鋭い爪が丸出しに。爪の先端をアスファルトが削っていくが止まらせるためにも一層強く削らせる。カーブの先、人影が道路で転がっている。何か叫びながら右足もブレーキに使いようやくバイクは止まった。バイクから降りて大急ぎで人影に近寄る。

「大丈夫?」

 右の手と足のダメージに反して足取りは軽い。主要な器官をアーマーが守っていたからだ。男の体がしっかりと視界に入って驚き足を止めたのは無理もない。男の周囲を飛散した血液と微量の細やかな肉片もともに視界に入ったからだ。少なくとも大丈夫ではなさそうだしどちらかといえば手遅れの予感しかしない。それでも万に一つとやらは起こりえるものと信じたがぴくりとも動かないそれは裸体の人間の男性だった。上半身の皮膚は破損して外側に反り返り破裂したような(いや、ようなではなく本当に破裂していたのか?)痕跡を見せる肉を露出させている。足元のタイヤ痕から察するに交通事故か。死体は既に漏れていた分の油っぽい血潮をぎとぎとと垂らす一方で傷口からの十分でいてたっぷりの流血は見られない。一応手袋を脱ぎ捨てて男の首元らしきところを触り脈を測る。脈拍数測定結果=南無阿弥陀仏、無残な死に方だが悔いなく成仏していただくことを祈ります無理だろうけれども。気分を悪くしながら指ぬきと化した手袋をつけなおしバイクを担ぎ上げて道路を歩く。旅は道連れ世は情けどもあの世に道連れ御免被るが故の余分な情はかけないままにスルーするルールもまた悪いものじゃない特にこういう日には。こういう日? それって毎日? なんだか冷酷無情な性格になってそう。謎の死体を通り過ぎていく際にそいつの目に見送られた気がしたけれど本当に気のせいでしかなかったよ何故って既に目はないんだもの。えっちらおっちら自然に還りつつある道路を小一時間ほど歩いて町に降り手頃な修理屋を見つけてバイク一式を預ける。店の名前は『よろず修理屋』といった。名称/店内に芸の一つもない昨今の極々平凡すら下回る旧世代の骨董品じみた外装及び店内は店主が外見にこだわらない内部至上主義であるのを(きっと)示している。だから信頼してみようかと思ったのもあるが一番はここ以外に修理屋がなかったので無理にでもこの怪しげな店を信用する他なかったのが理由。既に体はヘトヘト、疲れには勝てませんでした。そんなお店の店主は付喪神の生じたレンチ/ペンチ/スパナ/ハンマー/ドライバー/ストリッパー&エトセトラというふうな大から小までの工具が集合体と化して顕現した鋼鉄製大入道。顔はのっぺらぼう、無理に作る必要はなかったのかな。年季の入った工具はどれひとつとっても表情豊かだった。店主は無言でバイクを引き取り様子を探りながら足元の壁に立てかけられた大きな黒板にスパナを伸ばして掴んだチョークを用いて文字を書く。

『この型のタイヤ修理が終わるのは翌日になりましょう』

「料金の方はどうなりそうかな?」

 鋼鉄製大入道は黒板消しで字を消してから新たな文章を書きこむ。

『約10万~20万。車両全体のメンテナンス料金込みになります』

 指をパッチンと鳴らして人差し指で鋼鉄大入道を指さす。

「即決」

『翌日までには仕事を済ませましょう』

 異存はない。頷いて店主の邪魔にならないように店を出てから脱ぎ忘れていたヘルメットをとって外のベンチに座り爽やかな風を浴びる。汗ばんだ黒い髪と焦げ茶色の被毛を冷気が通り過ぎていくのを感じながら煙突から水蒸気を吐き出し続ける町の様子を眺めた。空は張り巡らされた電線が蜘蛛の糸のように広がり大地では所々の土の下から鉄の塊が剥き出しになっておりとてもではないが作物が育ちそうな土地には見えない。けれども、行き交うモノノケどもは他の町と同様葉や果実、道具類とかを運びながら忙しそうにしている。ちゃんと植物を育てられる環境はあるんだろう。鋼孤は立ち上がって町の宿を捜索する任に赴いた。しばしの別れじゃ、我が愛車よ。

『よろず修理屋』の鋼鉄大入道は修理に取り掛かる。右手でバイクを包み込むと蠢く工具類がバイク本体を愛撫し全体の状態を確認してから付喪神らは鼓動激しく人型の心臓に位置する部位を脈打たせ骨格を軸に全身に振動を送る。鋼鉄大入道の存在しない眼窩がきらり輝き両手を掲げると修理屋屋内中の工具が宙に浮き上がらせ歯車のように組み合わさり巨大な十字架の姿として鋼鉄大入道の背中とくっつく。タイヤを外し膝から展開したフライヤーでバイクに刺さった破片を抜き粉砕し腹から召還した細長い掃除機を用い内側から挿入。タイヤを30度ずつ回して部位調整を行い内部の塵芥を吸い出すよう一通りの掃除を終えてから店内ストックのタイヤ生地をパンク穴よりも少しだけ大きめに切り取って左腕を上下に分裂させる。上の左手は切り取った生地を使ってパンク穴を内側から塞ぎ、下の左手が接着剤を塗り付ける。乾かしてから首元の空気入れを展開し徐々に高くなっていく低い唸り声を上げて唸るように空気を注入していく。声は町を散策している鋼孤の元にも風に乗って届いていた。

 誰かがつぶやいた。

「修理屋の声か」

 鋼孤はこんなところまで聞こえてくるもんなんだなぁと感心しながら泊まれそうな場所を探す。あ、あの修理屋の声とは限らないか。モノ、モノノケ、みなノケモノなく行き交う大通りは大から小まで様々な店であふれかえっているものの生憎と宿泊施設だけはいっこうに見当たらない。食べ物の湯気は鍛錬の熱気と混じり合い生活の匂いを生み出しているが睡眠に休息といった生物に元来必要な穏やかな時間だけがきれいに抜け落ち辻褄の合わない感覚の原因は色気なく真面目にして切羽詰まった空気が空白を許さないからなんだろう。ところで、餓鬼/一つ目/ろくろ首などと人間が原型っぽい奴らはそこら中にいるのに肝心の生きている人間は一人も見当たらない。地べたに転がって烏に啄まれている女の死体は誰も気にしていないことから帷子辻に類する現象だろうと推測可能で極端にやつれているのを無視すればやっぱり人間みたいな姿の狐者異の群れがいくら食らいつこうとも歯が通っていなかった。見かねた行列のできる団子屋を営む川熊の主人がチェーンガンを持ち出し女の死体に向けて空砲を乱射すると銃声に怯えた狐者異の群れが足早に逃げていく。まったく大層治安のよい町じゃないかい銃声はすぐに雑踏へ溶け込んで日常の騒音が戻ってくる。「早く団子を焼いてくれ」「工作が始まっちまう」「時間がないんだぞ」「うるせぇ押すな」「何をこの」「喧嘩して無駄なエネルギーを使うとか正気かよ」「気がくるってんだろ」「邪魔だよ列から出ていきやがれ」「勘弁してくれよわたしはなにもやってない」あるいは土地柄故に最初から途絶えていなかったのかもしれない。お客らはせわしなく栄養素の塊以外に言いようのない脂ぎった串団子を受け取ってはお足を払い団子屋から足を払っていく。お腹は空いてもあんなゲテモノを食べたいとは思えないよ。さぁてさて、本当に眠らない町で宿はないのやもしれぬならば正午まで野宿をする羽目になりそうだ。宿屋の場所を訊くにしても「そんなことで俺を呼び止めるんじゃねぇよべらぼうめ」染みた侮蔑の眼差しを送られかねない。話をするなら心にゆとりのあるものの方がいいと相場は決まっている。だからあてもなく賑やかなだけの道をとぼとぼ歩いていた。だが夕暮れを過ぎて突然、――三味線の音色が、ぽろんと融けた。

 聞き逃すはずもなく耳は反射的に反応する。乾いた荒野に広がった硬い筋を柔らかな流水が行くように染みていく。ふと足を止めて音の聞こえた方角を探る。西か、東か、南か……北だ。縦横無尽に漂う生活をかき分け現れた音の主は三毛猫又の少女。路地の隅の塀の際で三味線を弾き大きく口を開けて歌い出す動作になびきそうな髪を梅の髪飾りで留めている。安定した腹式呼吸から慣れた調子で紡がれる声もまた町の日常を感じ取れてようやく洒落た面を垣間見ることができたんだなって。不思議な安心をすると急に緊張の拘束具が解けてここまでの警戒心がアホらしくなっちゃったよどうしてくれるんだいまったくもう。責任を取っていただくべく誘われるようにして少女の前に立ったが気付く様子はない。大通りを行くものたちにとって路地は存在しないかの如く過ぎていき、路地を行くものたちにとってもまた少女は存在しないかの如く過ぎていく。雑踏から転げ落ちた空白には三味線の世界が凜と満ち空気と何も変わりはしない。四拍子音色が響いて凜・凛・琳・淋、終いにちりん。鋼孤が小さな拍手を送ると少女は顔を上げて銭を求める手を伸ばしたが代わりに握手を差し出して微笑む。

「よかった」

「まさか聴いてくれる人がやってくるなんて、思いもしなかった」

「忙しい町、無理もない」

 少女は『ん?』という顔をして軽く首を傾げる。

「別のところから来たの?」

「この辺りに用事がありまして、遠路はるばる」

「歓迎するね。あんまり、いい町じゃないけれど」

「表通りは君の言うとおりだった。裏通りの方はどうなんだろう」

「そんなに変わんない。汗水たらしてあっち行きこっち行き、今や日銭欲しさにはたらいているのか仕事欲しさに日銭を求めてるのか……どこもかしこも混沌にこんがらがってる」

「他の町も似たようなものでしょう」

「でも、きっと、ここほど酷くはないなぁ」

「どうして言い切れるの」

「意味なくても、せわしなく動き回るのが前提になって麻痺してる。誰も疑おうなんて思っちゃいない」

「目の前に一人はいるみたいだけど」

「僕も大差ない、弾き語りで日銭を稼いで生き延びる身分だ」

「文化的でいいじゃない」

「あなたの言う文化的ってなに。働いて歯車になってモノ作って流通して、それだって文化だし。むしろ構成組織単位で考えるなら、僕の方が文化とは著しくかけ離れてる」

「そうかなぁ」

「そうだよ。たった一人の行動だけじゃここの文化とはいえないもの」

「そこから生まれるものもある」

「死に絶えるものの方が圧倒して多い。面倒くさい前提として、伝える者はどうにかして生き延びる必要があるもの。さて、ここで問題。弾き語りを生業にする僕が明日を迎えられる確率は? ただし死体として明日を迎える場合をのぞく」

 三味線をゆっくりと降ろして、挑戦的な口調で告げた。

 鋼孤はお猪口を持つ仕草をする。

「奢る。よって正答は10割」

 少女は胸の上で二本の親指を交差させてバツを作る。

「はずれ」

「なら正答は?」

「9割」

「いい店、教えてね」

 入れ物にしまった三味線を背負った少女に案内されたのは多くの路地の奥の細道を行く裏通りの路地裏に佇む廃墟のような酒飯場だと思ったらその酒飯屋はやはり廃墟ですっかり日は沈み荒れた店内を抜けた先の松明に灯された坂道を進み小山を登り切った先に建つ、あかり灯る店。看板曰く店名は『ろっじ華ノ歌』といい煙る穏やかな空気に混合したあたたかさ。先刻の賑わいは想像もつかぬのどかな場所にやってきてしまったが道程の濃密さの割にそこまで離れているでもなくだからこそ唐突に異なる世界へ飛ばされてしまったようなトリップ感覚がお出迎え。耳を澄まさずとも聞こえてくるのは琴と三味線、色彩鮮やかな弦の音色。なんだちゃんと居場所あるじゃないですかずっと一人ぼっちで暮らしてるって訳でもなさそうですね。随分緩んじゃった少女の表情に安堵。そうだよ、どんなに孤独に見えても誰だって真の意味での孤独のままでは生きていけないから特に意外でもない新事実――詳しくは知らない彼女のこと。そんな側面にわたしまで表情を緩めかけていたのをよそに少女は意気揚々と店の暖簾をくぐる。鋼孤も後に続いて暖簾をくぐり店内へ。

 店主の「いらっしゃい」が案内する吹き抜け二階の食堂に溢れかえった桁外れな呑気さに反し一抹の気まずさ。店員と客は猫に類する妖ばかり!……つーかしかいねえに訂正。暖かさの正体は都会にカットアップされた隠れ里の雰囲気だったみたいだ。曲は男性四人集団(編成は琴=二人/三味線=二人)の演奏により一階の小舞台から。こんなのありかなあるからありなんだろうななかったらないしあるはずもないんだものなあ。実存と一見して分かる店に溶け込み過ぎた(=なじみ過ぎだ!)客が調和して醸し出される絵画にもよく似た一体感はわたしが入り込むことによって間違いなく凍てつき崩れるであろう!……気配はなかった。当たり前のように時間は流れ少女は店の奥に入っていきテーブル席に座って入れ物にしまった三味線をおろしながら鋼孤に目配せして左隣の空席を左手でポンと叩く。右手を上げて「ここ空いてるよー」軽っ。どのみち引き返す選択肢はないのだからままよと行くほかにない故に抜けきれない奇妙な緊張感を胸に添えて示された座席に向かう。他の客が坐する席の横を通る際に生じるのは毒々しい興味から生じる有刺の無関心ではなく歓迎から生まれる綿製の柔らかな無関心で、知ってか知らずかよそ者のわたしを馴染ませようと全力稼働中。席に座る頃にはすっかり洗礼を終え調和の乱れは消し去られていた。隊長! 伝令、伝令であります、遂にわたくし、この町への潜入に成功しましたのであります! 残るは工作任務をこなすのみ!……なーんて。テーブルについて一息ついて女将さんが差し出すお冷を一口つけて少女がわたしをつついて「今日この人のおごりだから」なんて言うので女将さんが微笑。その奥では主人による指揮の元で料理人たちがせっせと頑張っている。酒と肴どころか飯まで奢らされそうな勢いに驕りやがってだとかの野暮な言葉は言いっこなし、これは町の情報を聞き出す絶好の機会なのだよ君。少女があまりにも嬉々とした表情で眺めている簡素なお品書きにちらと視線をやる。

『本日のお品書き

 トリ

  もも・むね・手羽・皮・ささみ・はらみ・なんこつ・肝・つくね

                     一本アタリ金五〇也

             六本マトメテ金二五〇也

 サカナ

  かつお・はも・しゃけ・ほっけ・さんま・さば

             一皿アタリ金八〇也

                     二皿マトメテ金一五〇也

 酒

  猪子刈り・御霊聖天・荒神砕き

                     一杯アタリ金四〇也

                     一本アタリ金一三〇也


                   その他 おまかせ注文 承りマス……』

 ぼったくり価格じゃないから余程の大食いではない限り多量の出費は抑えられそう。かなーり大雑把な表記なのが気になるけれど。果たして、少女は女将さんに「おまかせ二人前お酒付き」などと言い、それは彼女が二人分を食べるということなのかわたしの分を含めての注文なのか? もし大食いで前者の場合は本当に二人前分で済むのかという問題が浮上しこれは痩せた大食いほどよく喰らうという経験上の実体験に基づいた推測だ。もし大食いではなく――大食いであったとしても今回はたくさん喰らうつもりがない――後者の場合はとんだおせっかいで何故なら自分の分は自分で注文をしたいし少女の注文した一人前の分量に対して具体性を持った把握がない。料理が出てくるまで分量が適切か不明瞭ではいざ出てきた料理を食べきれない事態が発生しかねない。食べきれなかった場合の食べ残しは廃棄処分直行の勿体ない生ごみになりさもなくば強引にでも食べるしかなくなる。そして強引に食べるのは逆に体力を消耗してしまいせっかく吸収した熱量の用途が勿体ないことに使われ或いは仕事中に吐く可能性が高くなどの不慮な事故を鋼孤が考えていると少女が人差し指で机を鳴らして会話要請を送る。

「さて、どんな用事でやってきたのか、聞いてもいいかな。旅人さん」

「せっかく馴染んできた空気を、旅人さんの一言で壊される……物凄く自然な流れ。けれども、自然な流れが常に良い流れだとは思えない」

 耳ざといものはどこにでもいるもんでしばしば回避できただろう厄介を持ってくる。

「気悪くしちゃった? ごめんなさい、でも事実だから」声を小さく「そんな大層な店ではないし」声の調子を戻し「身構える必要はないよ。面食らうのは最初だけ」

 女将さんが豆腐を切りつつ反応。

「聞こえてるわよ」

 少女は笑って流そうと試みる。

「ははは……」

 女将さんは切り分けた豆腐を二つの小皿の上にのせそれぞれに小葱と紅葉おろしをちらし全体の均衡を整えて一方を少女の手元にもう一方を鋼孤の手元に置いて言う。

「お通しの冷ややっこ。召し上がって」

 純白と呼ぼうが気付かない微細な範囲で苦く濁されたにがりの凝固作用より固形化した豆乳すなわち豆腐の上に淡き黒色の淡口醤油を着飾らせ一口大に取った豆腐を口に運ぶ。濃厚にして歯応えすら感じられる独特な感触に思わず唸り少女も慣れた動作で美味しそうに食べてるのにはなるほど彼女がこの店を選んだ理由が理解できる。厨房では少女が注文した品の調理が進んでいる。

 そんな中、少女は好奇心も隠さず鋼孤に問いかける。

「旅人さん、お名前は?」

「鋼孤」

「それは上の名前? それとも下の名前?」

「どっちでもいいし、その両方でもある」

「へぇ。なにをしにこの町へ」

「骨董屋を営んでおりまして、あやしげな噂を聞きつけ商品の仕入れと販売に参りました。古今東西絶品逸品珍品新品名品三品逃してなるかと颯爽に、病み憑くものたち輝ク奇縁を、欠けるものたち逸楽ス奇蹟の品々をばお売り致す、その名も修羅憑喪骨董壊修屋の鋼孤と申します」

 芝居ががって言う鋼孤に少女は笑ってくれた。

「しゅらつくも……お決まりの口上?」

「今考えた」

「道理で」

 鋼孤は酒に酔う前から恥ずかしさに顔を赤らめる。

「いい格好したいの、悪いかい。骨董屋を営んでるのは本当だから」

 料理人はとりもも肉をさいころ角に切って六切れづつ串に刺したものを六つ作り特製タレで満たされた壺の中に浸す。調味に必要なだけを染みこませたなら手早く揚げて焼き網の上に乗せ加熱開始。肉汁を落としながらじゅうじゅう焼きあがる音に合わせて匂いを含んだ煙が上がり引き締まる肉の中は旨味で濃縮されていく。程よく焼いたらひっくり返し反対側も同様に焼いていく際に顔を見せた香りの良い焦げ目は特にうまく焼けた証。

「蔵部姫夕火。長らく言ってなかったけど、一応の僕の名前」

「町は多くの人と接するだろうに、そりゃまたどうして」

「接するだけで、実際に名前がどうかなんてどうでもいいのさ。なんなら、簡略化された記号の方が呼びやすくていい」

「名前はその記号に入らない?」

「記号を記号化してるんだ。無意味だよね」

 料理人が包丁でさんまの頭を勢いよく切り落とすと飛散した黒い血が口元に付着するので舌で舐め取り腹を裂いて刃先で内臓を抜き取り桶の水に溜めていた水で残留した汚れを落とし赤く染まる水面に泳ぐ魚を揚げ三枚におろす。卵の殻を割り深皿に入れて菜箸で溶きぐるぐるぐるぐる手際よく混ぜできた溶き卵にさんまの三枚おろしを浸してんぷら粉を纏わせたら煮え滾った揚げ油の中へ投入。

 鋼孤は頷いて凝固した豆乳を裂きながら返答。

「多少の意味を含有する無意味が積み重なったなら、意味を有する無意味は確実に生じる」

「細かいこと言いましても仕方ありません。僕らの現実問題は、結果どう作用しているか、ですから」

「反論のしようがない」

 女将さんが猪子刈りの一升瓶の栓を抜いて二つの茶碗に薄い琥珀色の酒を注ぎ二人の手元に置いて言う。

「暗い話は言いっこなしですよ。明るく、盛り上がりましょう」

 夕火が女将さんに反論する。

「暗い話で明るく盛り上がっているんですよ」

 あ、確かに。言いかけてやめた言葉と一緒に飲み下す猪子刈りは名に恥じぬ砕け散るような衝撃に由来する力強い飲み口で固まった喉を粉砕し言いかけた言葉を強引に吐き出させる。

「けれども、暗い話であることに間違いはない」

 女将さんも「そうそう」と賛同を示す。夕火は最後に不満げな顔を浮かべ、

「むー、話題に引火したのは鋼孤さんの方じゃないですか」

 この話題は終息。するとタイミングよく揚げ魚/焼き鳥/山菜料理の盛られた器をお盆に載せ主人が運んできて待ってましたとばかりに夕火が焼き鳥に食らいつく。

「焦らなくても料理は逃げないし、お題はちゃんと払う」

「そういう問題じゃなくて! 料理はなくならなくてもできたてのおいしさは一目散に逃げるから僕は疾く食べるし鋼孤さんも疾く疾く食らうべきなのだよ!」

 二人前分盛られた揚げ魚/焼き鳥/山菜料理はわたしの分もしっかり入ってるご様子。

 夕火が目をぱちくりさせて驚く。

「あれ、山菜がある。珍しい」

 お女将さんが笑う。

「この頃はよくとれるようになりました。お肉に加えて、野菜もしっかり食べてください」

 しばらくは黙々と飲んで食べた。より正確には「喰らいやがれ!」の勢いで脅迫されたよ食事と攻撃は食らい与えるものという共通点以外は全く違うのに。人心地ついて箸の速度が遅くなってから、やはり夕火の言葉から質問攻めが再開する。

「骨董屋って、具体的にはなにしてるの?」

「古い品を仕入れたら店に並べて客が来るのを待つ。最近は出張営業も始めたよ」

「儲かってる?」

「うーん……もうかってないこともないけど……労力に似合ってるかは別の話」

「どんなことに苦労してる?」

「苦労しないことなんか、ない。でも一番は、そうだなあ……骨董品に嫌われること」

「聞かせて」

「本心の好意からやってるのに、相手方に誠意が伝わらない時って結構あるんだ。そういう時だけははっきり心身に苦労を感じるなぁ」

「接客業でそれ言っちゃうか」

 ふと思い直して鋼孤は呟く。

「まあ、あれもお客さんには違いないけど……」

 夕火はしっかり聞いていた。

「その言い方はまずいよ」

「ところで――この辺に宿屋はある?」

「ないよ」

「どこか泊まれるところに心当たりは」

「ないよ」

「夜はどうしてる?」

「ないよ」

「安全に野宿できそうなところに心当たりは」

「ないよ」

「わたしが無事に朝を迎えるには、どうしたらいいかな」

「この辺を離れればいいよ。町を出てしまえば、もう町の規則には囚われなくていいから」

 仕事は夜のうちに済まして帰ることになりそうな予感。

 夕火が続けて言う。

「でも仕事ってなに? 夜のうちに済ませられるようなら、早く済ませたほうが……」

 店の中央の床が奇妙に膨張しているのを見た店主が叫ぶ。

「伏せろ!」

 演奏が止み反射的に店内にいたものたちが伏せ鋼孤も疑問を持つ暇なく夕火の手によって伏される。噴き上がる土壌に膨張が破裂し床板が砕け四散し噴水めいて店内を襲い大きく震動。飛び散る土はテーブルを押し流し混ざっていた鉄の破片が食器/酒瓶を無残に撃ち抜き被弾を免れたそれらも続く揺れに勝てず落下して内容物を撒き散らし火元が倒れ酒と油と客の四人に引火、六人に広がって炎上し店主が慌てて火元にかけた水は足らず肉の焼ける匂いが平穏だった空気を容赦なく上書きする。

「避難しなさい早く!」

 店主に急かされ大半が出入り口へと殺到するが曲もないのに踊り狂う燃え上がったものたちの身内はどうすべきか戸惑いあるものは火を消そうとして自らも引火し、またあるものは土で火を消そうともがき暴れるが残念なことに鎮火に至るだけの量は確保できそうにない。破裂した地点は丁度大きな鉄の塊が埋まっていたようで土よりも鉄破片の分量の方が多かったしおまけに残存した鉄の塊によって剥き出しになるはずだった土壌は蓋をされているので掘った土を被ることもできないがそれに気付かず必死で穴を掘り続けようとする火達磨もいる。今現在できることは、なかった。

 そんな燃え広がる『ろっじ華ノ歌』を明かり灯る町の上空から観測したのは提灯を携え夜回りを行っていた烏天狗の男。彼が消防署の方角へ拡声器を構え叫ぶ「火事だッ」の合図で貯水湖に聳える消防塔がサイレンを鳴らし光らせ「火災発生、火災発生」をアナウンス。塔内で待機していた河童/水虎/蛟/カワウソ/貝吹坊/川猿/出世法螺ら水の妖がどたどた降りてきて塔の外に集合しポンプから組み上げる湖水を最大容量にまで補充した消防車に飛び乗り出動、一両目〈川猿/蛟〉の後に二両目〈カワウソ/河童〉、三両目〈水虎/出世法螺〉が続き岸辺へ繋がる橋を突き抜け烏天狗の先導に従いサイレンを撒き町内を駆ける。消防車の通過が予測される通りでは烏天狗らが交通整理を行い消防車は生じた道を無遠慮にひた走る。指示を聞かない火車の暴走族を追い抜き路上ストライキを見据えると脇道にそれ坂を飛び越え後続の二台もそれに続き着地の衝撃に驚いて足を止めるものたちの間を進み十字路を左に曲がり道路に躍り出る。膨張をはじめ破裂しそうになった道を一両目が押し潰し二両目が踏み固め三両目が何もなかったことにする。

 鋼孤と夕火が他の客に続き店を出て燃える店を観察していると三両の消防車がどこからともなく二等辺三角形の編成を組み頂点を向けながら飛んできて急ブレーキをかけ着地し二人の目と鼻の先で停止する。消防車は車両上部から巨大な放水銃を展開し火災めがけ発射――火勢の弱まったとたんに火消しの隊員らの半数〈川猿/カワウソ/出世法螺〉が火炎放射器のような図体の消火銃を構えて店内へ突撃。残りの半数〈蛟/河童/水虎〉は消防車に留まり炎上する店を正三角形の中心にするよう囲み放水を継続する。

 目まぐるしい光景に呆然としながら鋼孤は夕火に尋ねた。

「えーと、飲みなおす?」

「お酒ないよ」

 鋼孤は店から持ち出した猪子刈りの瓶をさりげなく持ち上げてみせた。二人は手頃な鉄塊に座って猪子狩りを交互に飲みながら燃え上がる店を眺める。

「随分手慣れた調子だけれど、この辺はずっとこんな感じ?」

「最近はそうでもなかった」

「というと」

「少し前までは頻繁に」鋼孤は怪訝な顔を浮かべる。「よその土地は爆発したりしないの?」

「そんなにしない、せいぜい地下に溜まっていたガスが引火したときくらいにしか。でも、店の地下にガスがあって、それに引火して爆発した訳でもなさそうだ」

「ちょうど今座ってるやつみたいな鉄の塊がごろごろ入ってる。爆発に至るほどのガスが溜まる隙間はどこにもない」

 店内で〈川猿/カワウソ/出世法螺〉が火の元へ向かって消火銃を撃つ。一リットル単位で霧状に射出される散弾めいた湖水は机の下でひっそり盛る小火さえまとめて消し去り残り火には二射目を与える。

「ならどうして爆発したのか、それ以前にこの爆発はガスに由来するものなのか。ガスに由来するものなら独特の臭いがするはずだし、拡散されたガスに起因してより強く燃え広がってもいい。火消しのものが早く来たこともあるけれど、それにしても燃える勢いはいたって穏やかだ」

「あのお店、防火対策は万全だったから」

「悲しくはない?」

「悲しい? 何が」

「行きつけの店が燃え上がって」

「別に。すぐ代わりの店はできるから」

「本当にせわしない町だね。少し前までの穏やかな空気はどこに行ったんだろう」

「どこにも行っていないし、最初からありもしなかったのか――教えてあげようか。あのお店はね、お酒でも食べ物でもなく穏やかな空気を品に商いをしていたの」

「ああ、だから一見場違いなわたしがすぐに馴染めたのも」

「完璧に調整された癒しが最大効率で提供される空間、それがあのお店。お酒と食べ物は単なる演出上の小道具でしかない。だから隙間需要が生まれれば、間もなく誰かが取って代わる」

 鋼孤は二人の間に置かれた酒瓶に視線をやる。

「向精神薬でも入ってそうなお酒」

「お酒自体が向精神薬でしょう」

「それもそうか」鋼孤は猪子刈りを飲む。「ねえ、どうして教えてくれたのかな」

「薬には二つあるでしょう。一つは本物、服用さえすればいかに効果を疑おうともきちんと仕事をこなしてくれる。一つは偽物、効果を疑い服用すればたちまちのうちに力は消え意味もろとも失せてしまう。どれだけ使ってもご利益はない」

 鋼孤は頷く。

「効くという思い込みを利用できなければ、ただの練り菓子だ」

 夕火は星々輝く夜空をごく自然な動作で見上げる。

「僕には、甘味さえない練り菓子だった」

「うん」

 夜空を一筋の流れ星が落ちていく。

「で、降ってきた天然物の砂糖を練り込んでみるとどうなるのか、試してみたかっただけ」

 鋼孤は苦笑する。

「わたしが砂糖? どうしてだろ」 

 月が傾きかけるころに鎮火は終わり主人とお女将は消防隊のリーダー格である川猿に出火時の状況を詳しく話す。運び出された黒焦げの死体は毛の一つ残してはいない。河童は横でメモを取り蛟/カワウソ/出世法螺/水虎は現場の最終確認中。鋼孤がひそかに店内を覗いた先は惨憺たる有様で床に天井に机に椅子、四方八方が火に喰われた跡だけ。宴の後にはふさわしい燃え尽きた光景といえるだろうか。事情聴取を終えた川猿が声を張り上げる。

「これより危険物の除去作業に移ります。一般の方は離れてください――」

 そういうことになって、客は帰り店主とお女将に調理人が遠くから見守る中で鋼孤となぜかついてきた夕火は茂みに隠れて除去作業の様子を近くで伺っていた。

「なんで一緒に隠れているのかな」

「いけない?」

 嬉しい反面、参った。ひどく気に入られたらしい。

「そういうことじゃないんだけど……あ、」

 河童とカワウソが担架に乗せた裸体の人間の男性の死体を消防車へ運び込もうとしている。死体は上半身の皮膚が破損して外側に反り返り破裂したような姿なので既視感を感じ即座に理解。バイク事故時のあの死体と損傷の仕方が同じなんだ。もう一つ共通する点に不可解かつ唐突な破裂の発生があるのはどうも偶然の一致ではなさそうだ。不条理な因果には不条理なりの筋とか糸がありそいつだけは通してもらわないと困るし事実これまでもこれからもずっとそうだから経験則に基づき判断を下す――指針確定・聞き込み開始。鋼孤は足元の手頃な鉄塊を拾い集め店の残骸を組み立て煤けた木箱を作る。木箱の中に鉄塊を入れじゃらじゃら掻き混ぜてから一つを掴み茶碗の姿に化かし怪しげな微笑みを浮かべる。

「狐の本分は往々にして化かすことにありけり」

 鋼孤は酒飯屋跡地(にして建設予定地)を足早に立ち去り案の定ついてきた夕火とともに通るものの多い町中で露店を広げる。敷物を広げ中央に木箱を置き『付喪骨董屋』と書かれた札を立てただけの簡素な店で両手を叩き客寄せを始める。

「さぁさ イラハイ イラハイ! お客様にとっての必需品がなんでも揃う、付喪骨董屋の開店でございます! なんと今ならお得な開店大売出し中、そこいくお兄さん方お姉さん方是非とも一度ご覧になってくださいませ!」

 道行くものたちは奇異な目さえ向けず淡々と通り過ぎていくも鋼孤は諦めず営業を続ける中唯一奇異な目で鋼孤を見ていたのが夕火で理由は『開店大売出し中と言いながら品物をなんにも並べていないじゃないか』という呆れにゆえんし何も言えん。夕火は思わず呟く。

「呼び込み、下手くそなの?」

 呟きは鋼孤の耳に届かない。

「いらはいいらはい……」

 冷やかし一人こないまま朝が来て夕火が眠気を抑えられなくなってきたところに一人目の客らしき一つ目小僧がやってくる。

「お客さん、いい目をしていらっしゃる! さぁさ、存分にご覧になってくださいまし!」「とは言うがね、肝心の品は一体全体どこにあるんだい」

 夕火は黙ったままながらも激しく同意する。

「おお、いい質問をなさる! お客さんそれはですね、ここはお客様にとっての必需品がなんでも揃う付喪骨董屋。揃わない物はないのですよ!」

 一つ目小僧は敷物を指さして言う。

「でも、現にないぞ」

 鋼孤はにやりと笑みを浮かべる。

 まずは強い興味を惹かせることが重要。

「本当にないのでしょうか? ないということは即ちいかなる物をも置くことができ、いかなる物も見つかる無限の可能性が隠れているということ。物は試し、お客さんはこれらの品の中に何を求め、何を探しますか?」

「話にならん」

 一つ目小僧はそう言い残して去っていき寒風が冷や汗滴る鋼孤の頬を揺らす。

 どう考えても失敗。

「あー……さぁさ、イラハイ イラハイ!」

「無理があると思う」

 でも頑張るよものすっごい頑張るよ他に手段は思いつかなかったから。二人目のお客さんは男なのか女なのか以前に色々と不明瞭なままにふわふわやって来る狂骨。

「このうらみ甚だしきなり」

「お、お客さんお目が高い」

「このうらみ甚だしきなり」

 夕火はちょっとこの二人大丈夫だろうかと遠目で見つめている。

「このうらみ甚だしきなり」

「なるほどなるほど、それならば、」鋼孤は木箱の中から桶を出す。「こんな桶はいかがでしょうか」        

 その様子に夕火は驚く。

「そんなもの中に入ってなかった」

 狂骨が満足げに桶を受け取り、「このうらみ甚だしきなり」と言い残して桶と一緒に消えていく。ああ! せっかく確保した情報源があぁ!

「初めてのお客さんは特別、お代は頂きませんよ!」

「頂く機会を逃しただけでは?」

「言わないで」

 しかし、周囲の目を惹く効果はあったようで間もなく次のお客様がやって来る。三人目のお客様は足のない縊鬼。

「縛り縄を探している」

「縛り縄ならあれもこれも」

 鋼孤は木箱から細い縄から太い縄まで計八本の縄を出して縊鬼の前に並べる。

「化学繊維から天然繊維まで幅広く揃えておりますよ。お望みとあらば金属製までも」

 更に木箱の中から有刺鉄線をちらりと見せる。縊鬼は品物をよく吟味しながら訊ねる。

「どいつが一番強く縛れる」

「それは何を縛るかにもよりますね。具体的には?」

「痛く強く、しかし必要以上に肌を傷めないものがいい」

「でしたらこちらの」鋼孤は木箱の中から麻製の細い縄を出して続ける。「麻を丹念に紡いで作られた縄はいかがでしょうか」

 縊鬼は麻の縄を受け取って引っ張る。

「この麻がどれだけのものかは知らないが、つくりは悪くない」

 縊鬼は麻の縄をじっくりと眺めてから言う。

「いくらだ」

「お代の方ですが、金銭の類は頂いておりません。その代わり、お客様自らの身の回りで生じた、珍妙怪奇にして摩訶不思議な出来事をお話していただきたいのです。特に今日この頃なれば、地面に関するものがよろしいでしょう」

「それだけでいいのか」

「十分でございますよ」

「そうか。なら少し前に聞いた話だが――」

「お待ちください。伝聞は事実を歪曲しあらぬ方向へ誘い惑わせます。それ故に、それ故に、大変心苦しいのですが、お客様自らがご体験なさった出来事をお話しください」

 日常に紛れ込んだ奇妙な出来事は現実性が薄く虚構と混在しやすいため又聞きは間違った情報を聞かされるリスクが増加する。情報は数あることも重要だけど最も大切なのは質にして精度、いかに意味と価値があるか。交渉相手がどうしても出来事を持ち合わせていないのなら又聞きの情報でも構わないけれど得た対価の価値が落ちてしまうのは労力の割にロスが大きくできるだけ避けたい。それだけこのキャラ作りはきつい。

「俺の体験で? 大層な話は持ち合わせてないが」

「どんな些細な話でも、怪事であれば十分でございますよ」

「分かったよ――スミレの花で有名な『花屋の久美紀堂』ってのがあるだろう、あの店はスミレはもちろん他のどの花も綺麗だ。けれどな、俺はその美しさの秘密を知っちまったんだ。奴は特製の肥料を使ってるのさ」

「その秘密、お聞かせ願えますね」

「聞かせたいのは山々なんだが、生憎とド忘れしちまって、」

「同じ品をもう一本、お付け致しましょう」

「おお、思い出した思い出した。へへ、あんたはさっきの言葉を忘れるなよ」

「もちろんです」

「あそこの店主は毎夜ごとに、北西にある『大荒畑』に行く。連日やってりゃ、なんかあるのはガキでも察するだろうよ。そこで俺はひっそりと後をつけてみた。するとどうだい、人間の死体を掘り出して車に乗せ、持ち帰っては自分ちの花の肥料にしてたのさ。毎日毎日んなことやってても、一向に死体が切れる気配はない。どっかから調達していい感じに崩れるまで寝かしてるんだろうが、よくもまあ続けられる」

 縊鬼は話し終え縄を催促し遠慮なく受け取る。  

「で、いいのかい」

「ありがとうございます。どうぞ、お品物の方をお持ち帰りください。安価な店故包みなどはございませんが、何卒ご了承を」

「悪いな」

 縊鬼は全く悪びれた様子もなくなくむしろ上機嫌に去っていきあれは相当なやり手だなとか考えてると夕火が三味線を構えて跳ねるように踊る指先で軽快に弾き鳴らし客引きの曲を朗々と歌い始める。


 寄っといで 酔うといで 

 なんでも揃おう付喪屋へ

 白々 品々 白目にゃ 損々

 黒目で眺めにゃ 分かんねい

 

 よう問いて よう問うて

 万物揃おう付喪屋へ

 黒々 繰ろう句 苦労も 得々 

 白目で流すにゃ 勿体ねい

 

 よう研いだ 夜を伽いで 

 御足要らずの付喪屋へ

 はなから 亡骸 華々 噺や 

 傍目で永めず 来なしゃんせい

 

 なんだなんだと疎らなざわめきが生じて客の巡りが円滑になっていくのに驚く暇もなく接客を求められる。四人目のお客さんは背丈の小さなすねこすり。「近頃脛をこすると電気にやられるのよ」静電気除去ブレスレットを渡して円満解決。「このブレスレットを使えば、静電気の発生を格段に抑えられます!」対価のおはなし曰く、「あれは爆発でも破裂でもなくてよ。単に地面から人が浮かんできているだけなのよ」五人目のお客さんは首の長い火間虫入道。「近頃は灯油がすっかり減ってしまってな」中東の原油分布地図を渡してアドバイス。「灯油の豊かなところへ旅をしてみるというのはいかがでしょうか!」対価のおはなし曰く、「最近は作物と一緒に死体がよく採れるんだ」六人目のお客さんは猫のようにざらざらした舌を垂らした嘗め女。「どうにも嘗めるのが下手みたいですぐに気付かれてしまうんです」ローション瓶を渡して健闘を祈る。「滑りをよくすればいいのですよ!」対価のおはなし曰く、「家の下で覚えのない死体が育ってるようなの」七人目のお客さんは大蛸の足。「嫁を貰おうとしたら八本足が気に入らないから二本にしてくれと」弓鋸と蛸焼き機をセットにして微笑む。「愛する方のため、足を減らしてタコ焼きを差し上げましょう」対価のおはなし曰く、「色々起きてるらしいが、むしろ俺の周辺では何も起きない。こいつぁ逆におかしいんじゃないのか?」八人目のお客さんは豆狸。「屋敷に化けていると入ってきたものが煙草を吸うから睾丸に灰を落とされるわ流煙で肺がいかれるわでたまらなく」具体的な脅迫文と絵で描写された禁煙ポスター(ニコチンとタールと一酸化炭素とシアン化水素と窒素酸化物とアンモニアとヒ素で呼吸器を疾患させ血管を欠陥品に仕立て上げ血圧を上げるとともに肺の黒ずむ空洞風船を広げ炎症を起こしやがてはあなたを爆発及び爆死に至らしめる有毒紫煙を吸い込むのはおいしいですかおいしくないですよね?)をおいしいから吸ってるんだろうなぁ、と手渡す。「禁煙を促す張り紙を出しましょう!」しかしこれには不満な様子。「吸わせたくないのでなく吸って欲しいのだわペニスの先端に煙草の先端を接吻させる勢いで」ここで噴き出して商機を逃すようなら商人としての正気を疑い勝機を逃す三流以下故に次に紹介すべき商品をとっとと選ぶ。「それならば喫煙を促す張り紙を出しましょう!」禁煙を促す張り紙をしまって新たに具体的な推薦文と絵で描写された喫煙ポスター(公害による大気汚染及びストレスから世界を救えるのは貴方が吸う煙草の素晴らしい味わいとリラクゼーション効果を含んだ副流煙だけなのです!)を手渡す。「こちらもおつけしましょう!」更に底の抜けた灰皿をおまけ。「局部に置けば的確に火を落としてもらえること間違いなし!」遂に満足なされて得られた対価のおはなし曰く、「地面ってのは雨降って固まるのだわ。ところがどっこい、『大荒畑』の土はあんなに広いのにどこもかしこも全然固まらない。根気ある人が耕してるにしてもおかしいんだナ……」いい感じに情報が整ってきたので店をたたみ検証開始、向かうは情報量の多かった大荒畑。道中で夕火曰く、「大荒畑――変な名前でしょう。元々は大根がよく採れるからそのまんま『大根畑』って言われてたんだけど、土に鉄塊ができてからはお世辞にも豊作とは言えなくなった。やがて『だいこん』が『だいこう』に訛り、見た目としても名前としても丁度よく収まったの」とのことで名は体を表すが大荒畑の場合は体が名を表すようになったみたいだ。

 シャベルを一本買ってから到着しました大荒畑は名に偽りなく一面の荒れ地で作物の類はおろか雑草すら育っておらず畑と名乗るのに相当な図太さが必要なのは間違いない一方でやたらと念入りに耕されている。

「これから作物を育てるつもりなのかな」

「作物は死体?」

「かもしれないし、あるいは大根か、」

 土を掴むと中から鉄の小粒がごろごろ出てきて転がり落ちる。

 わたしはシャベルを土に突き立て地面を掘り始める。

「まだまだ準備の途中なのか。ねえ、夕火さん」

 夕火はしゃがんで鋼孤が土を掘る様子を観察している。

「夕火でいい」

 穴掘り深度――足首くらいに到達。

「夕火、地面に鉄が混じり出したのはいつから?」

「ずっと、ずうっと前から。詳しくは知らない」

 穴掘り深度――膝小僧のあたりに到達。

「鉄分は作物の育ちをよくする。植物が葉緑素を作るのに必要なんだ。でも、土の中が鉄塊だらけで根を伸ばす隙間すらないとなれば吸収どころでない」

「前提の問題だね」

「うん、この町の作物の育ちが悪かったのも、大方はそんな理由かな」

「そうだよ」

 穴掘り深度――太腿付近に到達。

「それほどまでに厄介な鉄塊も、砕いてしまえば肥料になる。最近になって植物の育ちが全般的に良好になっているのは、なんらかの要因で鉄塊が砕かれているから――って予想ができる」

 夕火が穴を覗く。

「実際、使ってるみたいだし」

 スコップの先端が肉らしきものの感触を手元に伝達しビンゴの感覚を抱いて周囲から丁寧にそれを掘り出し引っこ抜いて出てきたのは裸体の人間の男で一応脈を調べても生存の可能性はなさそうだから死体認定し穴から出して横たわらせる。

「破裂現象には死体がつきまとい、しかし死体は常に唐突に出現する」

 死体には大きな外傷はないが頭部/両肩に集中して石とか鉄の粒が当たってできた微細な傷跡がある。胴体には地中で当たった石による引っかき傷程度の破損がいくつもあるが直接の死因とは関係あるまいし流血等の痕跡は見当たらず生じたのは死後と予測可能つまり埋められてから死んだのではなく死んでから埋められたのか。更にシャベルで近くを掘ると次から次へと死体が出てきて追加の四体を掘り出した時点で呼吸が荒くなりこれ以上掘り出すのをあきらめて理解する。

「畑は唐突に地中で発生する無数の死体により作物の成長を妨害する鉄塊を砕かれ、その上で同様の効果をもたらす死体によって耕されていた?」

 いや、畑だけでなく――地面が震動する。拙いだろこんなに整った畑で作物とか雑草とかともかく植物がまったく育っていないのには理由は一つしかなくてそいつは「違うまだ土壌を耕してる最中なんだ!」叫んだが遅く目の前の地面が破裂して飛び上がる死体は勢い任せな頭を使って地面の中から押し出した土/石粒/鉄粒を撒き散らす。飛んできた分を鋼孤がスコップで薙ぎ払うが間髪を入れず目の前を噴き出る死体に足をすくわれ地面に倒れ土の直撃を食らいかけスコップで頭部を防御。夕火は大砲の弾のように飛来する死体を三味線の入れ物でかっ飛ばし新たに飛来する死体諸共撃墜する。跳ね起きた鋼孤は飛び出る死体をスコップの先端で突き刺し前方に構え盾にして姿勢を低くし夕火の手を引き畑の外向けて突進、歯食いしばって目ん玉見開いて進行方向から飛来する無数の死体を押しのけていく様はさながらブルトーザー。緩やかに右へ曲がることによって死体が溜まって進行を妨害しないように調整。夕火が右の真横から飛んできた死体を入れ物で跳ね返し左の真横から飛んできた死体を背面から体当たりして倒す。地面の質感に違和感を覚え飛翔すると土の下から噴出した五体の死体が続いて追い越して空高く打ちあがりミサイルめいて落下、鋼孤は盾を傘にして落下する死体の防御を試みる。一体目は二人が右に逸れて不発。二体目は二人が速度を上げたために後方で不発、残る三体が一気に落ちてきて盾の上にずしりとのしかかり鋼孤は態勢を崩し走る速度を落とす。夕火は鋼孤を追い越してからその様子に気付き足を止め起こそうと手を引っ張る途端に足元から死体群がにょきにょき噴出し二人は打ち上げられ衝撃に手を離してしまい離れ離れ。死体群はなおも果て無く高く打ちあがる。痛いくらいの風圧が二人の被毛と髪をなびかせる。鋼孤は宙返りして盾に乗り空高く直線状に飛び上がる死体の側面に乗って滑り降りていく。死体群はサーフィンの衝撃が加わった部分から崩れていき土の上へと落下していく。中ほどまで滑り降りると死体を蹴って飛翔し落下する夕火を抱き上げつつ離脱――しようとしたが畑の全域が軽く破裂し死体が波打つように現れるので盾には乗ったまま死体の上に落ち蠢く荒波を乗りこなす。遂には長く大きな波になって二人を飲み込もうとする刹那、鋼孤は死体の流れを利用して波のトンネルに入り内部を滑走していく。四方から垂れる死体の手もそこのけそこのけ上から落ちてくる死体は夕火が入れ物を掲げてガード。それでも二体三体四体と流れ落ちずに積み重なってくれば必然的に重くなり防御姿勢を維持するのが困難になるも鋼孤はなんのと跳ねるように押し返し次には本当に跳ねてトンネルを抜け畑の領域を出てやって来た『花屋の久美紀堂』のトラックの荷台に落ち耐久限度を超過した死体が二つに割れて臓物を漏らす。

 トラックの運転手席から驚いて顔を出したのは木の肌を持つ木魅の老人。

「なんだあ今の音は」

「どうも、付喪屋です。本日分の肥料をお届けにうかがいました」

 血潮滴りよくうねった腸を掴み営業スマイル。

「勘弁してくれ荷台が汚れちまう!」

「申し訳ありません、なにぶん畑が」畑の方を指さして続ける。「あの有様ですから」

 木魅は畑の方を見やって呆然とした顔を浮かべる。

「こ、こいつぁ……」

「詳しいお話は花屋の方で――」

 とまあ荷台に乗せられて花屋へ出荷され季節の花々=スミレ/勿忘草/水仙/鈴蘭/桃の苗木が並べられ彩られた店内にてかくかくしかじか端折りながら淡々話す。話す必要のないことは話さないでテキパキやりましょうぞ。

「――ということです。地面からあれだけの数の死体が噴き出てくる、その原因に心当たりはありませんか? 例えばですね、奇妙な骨董品を見かけたとか」

 木魅は花々の調子を調べながら問う。

「奇妙な骨董品。なんだそりゃあ」

「支離滅裂に物理的な因果法則を無視し、およそ理性に基づいた行動とは思えない奇々怪々な現象を発生させる骨董品です。現実に非現実性や過剰性を与える物品、と言いかえても構いません」

「その骨董品とやらは、どうしてそんな現象を起こすんだ」

「理解は及びませんし及べません。結果、誰もが適切な対処を行えず、物品は危険なままでほったらかしになってしまう。ですがわたしは、彼らに適切な居場所を案内し、荒ぶる付喪を鎮めさせる方法を知っています」

「ほう」

 木魅が鈴蘭の葉裏を押し上げる手を止める。

「物は使われるために生み出されました。ならば、使われることを拒む物などありません。それは存在意義の自己否定であり付喪神は宿れず、最初から怪異性など持てません」 

「長く愛用された物品に付喪神が宿るも、来たる愛用者の死をもって付喪神は主を失う。が、心を持ってしまった骨董品は自分を使って欲しくて欲しくて仕方がないから己が怪異を用いて存在を泣き叫び、次の所有者の到来を待つ……そんなところか」

 理解度の高さは両手を叩いて大歓迎。

「流石、話がお早い!」

 木魅は鋼孤の方を見て視線を合わせる。

「で、その話を俺にするってぇことは」

「既にご理解されているとは思いますが、相互認識に齟齬のないようあえて声に出させていただきましょう。死体を発生させる骨董品の回収に成功した暁には、他ならぬあなたに引き取っていただこうと考えております」

「本当に俺でいいのか? 正しい管理の仕方も分からねえんだぞ?」

「ただ使うだけでいいのです。そこに素人も玄人も達人も関係ありません。強いていうならば、現状を最も有効に利用しているあなた以外に、その資格がありましょうか」

「己惚れちゃあいねえが、ないな」

「そういうことです」

「そういうことか」

「はい」

「引き受けよう」

「ありがとうございます」

 深々と頭をさげると桶の中に入った臓物に蠅がたかり始めているのが見えこれがあの綺麗な花の栄養になるとはとても思えなくて命の流転は感慨深いよなあ。

「だが問題の品はどうやって探す。俺でさえまったく心当たりがないんだぞ」

「問題ありません、専門家におまかせを――そうだ、いくつかお伺いしても?」

「ああ」

「大荒畑が死体によって耕され始めたのはいつ頃からですか」

「あー……悪いが覚えてねえ。本当にある日突然だったからな」

「死体が出始めた当初、それらに目立った破損はありましたか?」

「当然さ、硬い土壌を下から上へ押し出して出てくるんだからな」

「その時の死体の姿を詳しく」

「確か……頭の肉が外側に反り返って……肩もだったか、ええいとにかく上半身だ。上半身がグチャグチャになってたな。下半身は綺麗だったよ。上と比較した場合、な」

「最期にもう一つだけお願いします。先刻のように、大量の死体が噴出したケースは過去にありましたか?」

「ない。だから驚いてたんだよ」

「情報提供に感謝します。吉報をお待ちください」

 営業を終え花屋を出て無数にある大通りの一つを歩く。

 夕火が鋼孤に問いかける。

「これからどうするの?」

「死体には一貫した目的があるのには気付いた?」

「地面を耕すこと」

「正解」

 指を鳴らし讃える。

「現在の大荒畑の死体は土ができ上がっているために損傷が少ないけれど、そうでない箇所、例えばろっじ華ノ歌、現象発生当初の大荒畑では上半身の皮膚が破損して外側に反り返り破裂したような形状をしている」

「ようなと言うには具体性がある」

「だったら『ような』を取り消しにいこう」

 日は昇り朝がやってきて、よろず修理屋の鋼鉄大入道は修理を終えたバイクの最終調整に取り掛かっている。そこに鋼孤がやって来て言う。「バイク引き取りに来ました!」代金を支払って出庫し飛び乗り夕火を後部座席に乗せ事故現場へ。道路の死体はまだ残っていて幸い(?)なことに昨日の夜から何者かの手によって変化した様子は見られない。轢き逃げ犯も死体を隠蔽せずとんだ肝っ玉でいらっしゃること! ま、おかげで助かってるのは間違いない――そう、確かにこれは何者かの手によって変化したのではない。隠蔽の共犯者は自然であるのは明白ですると今が進行形で犯行中? けど自然環境の現行犯逮捕はどんなに優秀な捕り物屋でもできない。夕火は借り物のヘルメットを脱いで呟く。

「もう、こんなに――」

 死体は橈骨を筆頭に至る部位の骨がこびりついたように乾燥した赤黒い肉片を残して露出し白骨も風で吹き飛んでしまいそうなほどもろくこぼれた骨粉が道路を軽く白く塗していてこの感じ路上にチョークで子供が描いた落書きの跡によく似てる。わたしもヘルメットを脱ぎながら言う。

「いくらなんでも自然に還る速度が速すぎる。なんて不自然な物質だ」

 夕火はしゃがみこんで死体をじっくり観察する。

「分解を待たずして自壊してるのかも」

「そりゃあ手っ取り早く使えるいい肥料にもなりますね。土壌を耕した後のアフターケアもばっちり」

 鋼孤は昨日クラッシュ状態のバイクで通り過ぎた距離を注意深く歩く。見上げた太陽の眩しさに目を細めても崖の側面に穴が開いているのがはっきり理解できてつまりあそこから死体は噴き出て落ちてきたんだ。

「この死体も、一連の死体と同じ」

 いつの間にか横に立っていた夕火が言う。

「確信できる複数の証拠があるなら、もう偶然の一致にはならない。ここは、そんな死体を赤の他人に他因が偶発して生み出すような環境じゃないもの」

 鋼孤は肯定して言う。

「彼らは支離滅裂でも、支離滅裂なりの規則や信条に従ってことを起こしているから、重なった不自然には必ず意味がある。ただ、それがわたしたちにとっての妥当なものとして理解できるかは別の話だし、必ずしも全てを理解する必要性はない」

「現象の発生範囲はどうなってるんだろ……蛸のお客さんが、」

『色々起きてるらしいが、むしろ俺の周辺では何も起きない。こいつぁ逆におかしいんじゃないのか?』

「とか言ってたのが気になる」

「蛸の主な生息域は?」

「海」

「つまり普段暮らしている場所=当事者にとっての周辺は水中を示す」

「ということは、水中は破裂の対象外になる。破裂の目的は土を耕すことだから――」

「養分のスープたる水中で意図して作物を育てるのに、水底の土を耕す必要性はない。網かごに元手を入れて手入れして、水が正常に循環するなら問題なく主要な作物は育つ」

「地面を耕す意味が薄いから、狙いを外されたってことかな」

「単に地面と認識されなかっただけかもしれないけどね」

 夕火は落ち着きなくその辺をうろうろ徘徊中。

「仮定が正しければ、破裂現象は作物が育たない場所を狙って発生してることになる」

「筋は通ってる。でも範囲が広すぎる」

「露骨に怪しい場所を除外して」

「やっぱり大荒畑なのかな。土の下に農具が埋まってたり」

「ありえる話。だとすれば、問題はいかにして農具を掘り出すか」

「方法はあるよ」

 夕火が足を止めて聞く。

「それってどんな」

 鋼孤はバイクの座席をベンチ代わりに腰かける。

「骨董品屋に来るお客さんの中で、一番多いのはどんなお客さんだと思う?」

「えーと、お金持ち?」

「惜しい。一番は骨董品そのものなんだ。そういった品はわたしたちの売り物でもあると同時に、次の主を得るまでは店の中で安全にお泊りしてもらう、言わば宿泊客でもある。ここに問題が生じるのさ。道具は使われてこそ意味があるのであって、作られた意義を果たせるのは前に述べた通り。なら、次の主を得るまでの間徹底した品質管理上において安全にお泊りして頂く品々に道具としての役目は果たせているのか?」

 夕火は黙って真剣に話を聞いている。

「答えは否。単に厄介な客は骨董品だけの話でもないよ。売り手に買い手に宿泊客に、いずれにしてもそういうお客さんはいる。わたしが主に困らされているのが、宿泊客の皆々様方なだけ。けど無理ないんだ、長い時の果てに霊性を獲得したのが、たくさんの古いものが並び使われもせずお客さんの――こっちは物品とは違う、売ったり買ったりする方、ややこしい――いかにも使ってくれそうな眼差しを受け続けるだけの環境。気も狂う、霊性なんて持たなければよかったと自らを呪いもする」

 夕火は深い共感と共に言う。

「売れ残りは、いつまで経っても売れ残り」

「売れるものは明日にでも売れる。けれど、売れないものは来年売れるかも分からない。そうやって半殺しにしてきただけの病み付喪が辿り着く臭い、わたしには漂ってるみたいでさ」

「嫌われ者なんだ」

 鋼孤はやれやれと右手を上げる。

「親切にしてくれる付喪神は室内用傘だけ」

「雨漏り対策用」

「血潮の雨漏り対策用」

 傘もあれはあれで満足してるんだろうか。価値観の差異は時として非常に理解し難い。

「そうでない、売れ残りの病み付喪が鋼孤に牙を向けた時はどうするの」

「他のお客さんに迷惑がかかるから速攻処分。故に付喪神死臭成分由来の香水がしょっちゅうぷんぷん」

 夕火が鋼孤に口吻を近づけて匂いを嗅ぐ。

「そんな臭いしないけど」

「付喪神の死の臭いは、同じ付喪神には分かるんだろうな。畑の時みたいにわたしの本来の仕事内容を理解してくれるまでは接近を嫌がられることも珍しくなくて。花屋さんの話を聞いて疑惑を持ったけど、死体を再確認して確信できたよ。畑には件の骨董品が隠れている」

「破裂現象の暴走は免疫作用だったんだ。猶更どうやって回収するの? 他の人を利用するの? まさか僕とか?」

「危険なことを人任せにはしません。わたし自身が突撃して、アナフィラキシーショックを発生させる予定」

「僕にできることは?」

 ここから夕火と別行動を行いわたし単独で大荒畑に向かう。向かうとは言っても正しい道は通らず危険を冒してでも手に入れるべき安全保証を求めて多少は派手に行こうじゃないか。上空では昨晩の騒動を知ってか知らずか烏天狗の警備隊が羽ばたいていた。

 崖を高く高く登り大荒畑をよく見渡せるジャンプ台に適した斜面についたら角度調整して深呼吸してフルスロットル発車、ジャンプ台を駆け上がって崖のその先へ――バイクも鋼孤も放り上げれば無重力感覚へようこそお帰りくださいと重力の重しに従い大荒畑に狙いを定め空中を砲弾のように走り抜ける。大荒畑上空に到達したら車体を土に向けて急降下。畑が反応して土の中から軍隊のように整列した大量の死体を召喚し一斉射出。残った射出口からも次から次へと死体を射出していく。烏天狗は驚いて消防署へ伝令を走らせ鋼孤は接近した死体の頭を前輪で踏みつけ飛翔し高度を保つ。後方に飛んできた死体へタイヤの横蹴りを食らわせる反動で移動、正面から迫りくる死体は車体を右斜めに倒して回避し新たに上がってきた死体の頭を後輪で踏みつけて飛んで前方に180度回転し大荒畑の空から迫りくる死体の雨を見上げ落下。処理は着実にいきませう。前輪で一体目の右頬をぶち二体目に左袈裟切りを食らわせそのまま車体を回転させ後輪で三体目と四体目と五体目を腹部からまとめて薙ぎ払う。一回転が終わったらハンドルの上で逆立ちになって頭上を飛び越してきた六体目の死体の胸郭を回し蹴りで吹き飛ばす。バイクを鋼孤自身と水平に持ち上げながら前輪と後輪で七体目の死体を轢き割く。撃墜した死体が後続する死体の上に乗って勢いを削ぎ足場を作る。バイクに乗り直しウィリー走行で一体目の死体上に着地し前方に見える二体目の死体へ飛び移る。次は右にある三体目の死体に飛び移り左にある六体目の死体をバネにして再び大空へ飛翔。すれ違いざま七体目の死体を肘打ちし発煙筒を使用する。舞い上がる赤い煙を地上から見た夕火は助走をつけて『猪子刈り』の空き瓶で作った火炎瓶を死体の止まらない射出口めがけて投擲。ビンが新たに射出されたばかりの死体の頭部に命中してひび割れ内用液を拡散し引火、燃え上がった死体は幹となり上昇とともに周囲の死体に引火させ空高く育ちゆく焔の大樹と化す。そこへ三台の消防車が駆けつけ「おやおや」「これはこれは」「伝令内容と違う」「とりあえず消しとく?」「異論なーしっ」短いやり取りを終え速やかに放水を開始すると水の勢いによって死体の軌道は横に逸れていく。畑は負けじと死体の射出量/速度を上げてなおも鋼孤を狙い続け同時に消防車も穿とうとする。が、消防車は散開して死体を回避し畑の外周を回りながら放水活動を続行、落下する火達磨を的確に放水銃で狙撃していく。鋼孤はバイクで迫りくる死体の股間を後輪で押し潰し次の死体の大腿を前輪で左横から砕き背後に迫った死体は左足の後ろ蹴りで吹っ飛ばし――遥か先、土も死体と一緒に飛んで行ってすっからかんになった射出口の奥にぽつんと蓋の開いたハンドル式生ごみ処理機を観測する。そいつはひとりでにすっからかんな処理機のハンドルを回転させると内容物の代わりに土壌をこねて掻き混ぜ養分ある微生物の死体を濃縮し裸体の男性の形に形成して射出している――鋼孤は目を輝かせながら放水によって倒れる死体群のために空中で生じた長い下り坂の上を下っていく。その道は射出口の奥にあるごみ処理機に通じていた。下り坂の下から射出される死体群が鋼孤狙って一直線に集中して飛び立っていく。接近したその一体目は車体を左に倒してやりすごし左右からの挟み撃ちを狙う二体目と三体目は飛翔して回避。迫る四体目を車体で踏みつけ坂道の崩れた部分ごと飛び越え坂の上に戻り背後から迫る五体目の顎へ浮き上がらせた後輪を叩きつけてやると前輪に負担がかかり過ぎてバイクごとごろごろ転がり出し脱輪事故を起こした大型トラックの車輪めいて暴れ狂う。前方に迫る六体目の死体を車体で押し潰し右横にやってきた七体目の頭を掴んで同様にやってくる八体目を巻き込み九体目に叩きつける。バイクの態勢を戻し間もなく消火水で満たされてきた射出口。十体目の腹部を前輪で薙ぎ払い十一体目をジャンプ台に鋼孤は高く飛び上がり十二体目もジャンプ台に更に高く飛び上がりハンドルの上に逆立ちし一回転して乗りなおさずバイクを横に構える。回転する二つのタイヤが十二体目十三体目十四体目十五体目十六体目を分厚く挟んでゴリゴリ首やら腹やら腕やら肉やら骨やら削ぎつつ空中を直進。後続する死体ごと押し込んで車体を右に振り溜まった死体を廃棄したら再び直進して十七体目十八体目十九体目二十体目二十一体目二十二体目の死体を挟み削ぎ車体を左に振り廃棄。射出口の水たまりに浮き上がる死体処理機を掴み取る。バイクを正しい姿勢に立たせて乗って久方ぶりの地面(と死体)を走り出す。紛れもない大空から降り注ぐ四割くらいは燃え上がった死体の大雨を遠方へ押しのける消火水が架けた虹の橋に「明日は晴れそうだ」。

 まあ、すぐに急雨が降ってきたんですけど。夕火の差す傘に入ってごみ処理機を抱えたわたしは花屋の久美紀堂を訪ねた。こうやって掴まれた付喪神はわたしの付喪神殺したる死臭を感じ取って基本おとなしく最早抵抗は無駄だと諦める。猫の子みたいであんな大惨事を引き起こしてさえいなければ素直に可愛いと言えたのに勿体ない。

「古今東西絶品逸品珍品新品名品三品逃してなるかと颯爽に、病み憑くものたち輝ク奇縁を、欠けるものたち逸楽ス奇蹟の品々をばお売り致す、その名も修羅憑喪骨董壊修屋の鋼孤と申します」

 口上を述べた後に、店の中で花の手入れをしている木魅に成果を報告する。

「こちらがお品物になります」

 木魅は商品を警戒しつつもしっかりと受け取り頷く。

「確かに受け取った」

「使い方をご説明致します。上部の口に水を切った生ごみと土を入れて蓋を閉じ、ハンドルを握ってしっかり回して頂く。このごみ処理機には土から基材の役割を抽出する性能を有していますので、本当にそれだけで結構です。それはもう千々に千代に花々咲き乱れる、素晴らしい肥料ができるでしょう」

「危険性は?」

「保証致しかねます。ですが、わたくしどもには見えております――既にお二人の間で結ばれた、奇縁の糸が」

「縁ってのは、実に怖え」

「ごもっともです」

「どうせ俺の他にこいつを担えそうな奴はいない……いいさ、町のため犠牲になってやる」

 木魅は机の上にあった萎れた鈴蘭の花束を処理機の中に入れ袋から土を注いで蓋を閉じハンドルを回す。静かに土の混ざる音が響く。渋々ながら引き受けたようなことを口では言う木魅だが処理機に注ぐ眼差しは真剣そのもの。投げやりな仮面の下は挑戦意欲であふれかえっているんだろうか。そんなこんなを考えても結局わたしはこのお客さんのことは詳しく知らないしもし彼以外に……彼以上に上手くやってくれる人を見かけたならそっちの方に売っていた。悲しくはないが商人とはそんなもので自分がこの世で一番理解している商品であっても自分が何も知らない客に品を売る。ああ、あのものなら託してもいいかな。これはちょっと駄目かな。全部身勝手でその場しのぎな印象による判断の決めつけだけで。名前も聞いていないお客さん、あなたはどうなんですか? あなたは何を見出しますか? ハンドルを回す音が止んだ。土の混ざる音も止んだ。木魅が蓋を開け内容物をすくいじっくりと眺めたら親指で撫でて質感を確かめ匂いを嗅ぐ。

「さて、どうなんだい」

 木魅は他の鉢植えには目もくれず店の最奥に安置された枯れかけのスミレが生える鉢植えに肥料を混ぜ込み土を整え水をやる。

「ほう」

 それだけが答え。

 店を出た後に夕火がわたしに聞く。

「働いた分のお金はもらわなくていいの?」

「押し売りだから無理に貰うのも悪い。それに、きっちり出るところからは出る」

 鋼孤は町に行くきっかけとなった手紙を摘まんで揺らす。

「付喪神を鎮めるよう頼んでくれた依頼者から」

 出張を終え帰路につくわたしを町の外まで夕火が見送った。現在の陽の高さは昨日町についた時と同じくらい。

 足を止めて風を浴び問う。

「いい曲は浮かんだ? きっと、夕火が危険を顧みずわたしに同行したのはそういう理由からでしょう」

 夕火は立てた人差し指を唇にあてて『ないしょ』のジェスチャー。

「秘密」

「どっちが?」

「両方」

 鋼孤はヘルメットを被る。

「そっか。機会があったらきかせてね」

「うん」

 バイクにまたがり手を振って惜別を送る。

「じゃあ」

 夕火も手を振り返す。

 そして鋼孤はこの町を去っていった。

 ぽつんと町の入り口に佇む夕火が一言呟く。

「羨ましいな……」

 大荒畑の火は消し止み、土は固まり始めていても町の喧騒は破裂現象が起ころうが起こらなかろうがたいして変わらないし行き交うモノノケなど特に変わらない。しかし、夕火はいつもの路地の隅の塀の際で三味線を弾き語る日々のとある一日に奇妙なうわさ話を耳にする。曰く、「縊鬼が鉄屑で首を絞めようとしたらしいぜ」「脛を通る静電気がましになったよ」「灯油の持ちよくなったよな」「男の子の日も流血を伴うようになったみたいだぜ」「旨いたこ焼き屋を見つけてな」「化け狸の玉袋に鉄屑が刺さってた」不思議に身の覚えがあるものばかりでそれもそのはず彼らは狐に化かされていたのだ。化けの皮剥がれた品々は鉄屑に戻り購入者の期待した価値が失せてしまって、代わりに一つのおはなしが残り――


 付喪継ぐ者 つくつく 憑く物

 屑鉄夢売り たれかしら

 口先嘘つき遊売り狐は 銭に買えない換えれない

 

 集うも集うも 遂に終に 尽く物

 屑鉄夢売り ただ今は去り

 釘さし唄撒き夕過ぎ狐は 為做言葉で品揃え来る


 宵の良い酔い……

 

 夕陽が語るのはそんな短い歌だ。

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しゅらつくも骨董店の出張営業 るらああん @Nino612985

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