充電池
男は久しぶりに田舎に帰るために、電気自動車を走らせていた。その途中、電気自動車が道の真ん中で突然止まってしまった。田舎までは残り三十キロ近くあるし、運が悪いことに民家や商店も見当たらない。
「これだから、田舎は……」と、ひとりごちながら、運転手の男は、ボンネットを開けてみた。モーターは、問題がなさそうだ。どうも充電池が切れたらしい。出発前に確認したときには、満タンと表示されていたのだが、長年の使用で内部システムに不具合が生じたらしい。
それにしても、充電池も小さくなったものだ。男は、充電池を手に取り、まじまじと眺めた。以前は大きく場所をとっていた充電池も、コンパクトになったものだ。
男が成人する少し前あたりに、充電池の技術革新が起きた。車を動かすほどに大容量なのに、サイズは一般的な乾電池とほぼ変わらない。しかも、太陽光による高速充電も可能となり、世界は一変した。ありとあらゆるものに、その充電池が用いられるようになった。
車の中に、予備の充電池を置いていなかったかな。男は探してみたが、あいにく持ってこなかったようだ。
仕方がない。左脚太もも用の充電池を使おう。左脚の機能を一旦停止させても、運転に支障あるまい。男はメタリックな左脚を、さすりながら考えた。
ありとあらゆるものに、その充電池は用いられるようになった。それは、人間とて例外ではない。
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