第4話 黒い森

 ――――乗用車、多分ジープらしきものに荷物や武器やを十分に載せ、俺は彼女を国に送り届けるために一緒に連れて出発しようとしている。

 レナは先程と違って元気に動いているが大丈夫なんだろうか?

 そういえば、武器もエルフの銃は火薬を一切使っていない。

 トラックも戦車も電気や風力で動く車が多いそうだ。

 このジープはエトルリアから鹵獲した物なのか、ガソリンで動く。

 焚き火も敵の死んだ兵士の近くに落ちてたジッポで俺は点けたが、レナの国、エルフはそういったものを持っていなかった。

 彼らがどうやって暖を取っているのかが不思議だった。

 何故なら、電気で乗り物が動いてるはずなのに、近くに電気ストーブとかが無いからだ。

 エルフは火が嫌いだと聞くが、まさか火どころか熱を帯びるものが嫌いなのかと不思議に思った。


 「なあレナ」

 「何?カズト?」

 「お前らの国には暖房器具みたいなのは無いのか?」

 

 彼女は呆れた顔でため息をしてこっちを見て言った。

 なんかその顔慣れてきた俺が怖い……。


 「貴方ね、私達の国にも有るわよ暖房機。でも今、私が要らない理由は着ているこの服はそういう魔法がかかってるのよ、たしか東方の太陽を用いた魔法だったはず」


 コートのような見た目で、銀色か灰色のような色だ。

 そんな事知らんし、というかその服ズルイわ。

 

 「何だよその服、俺にもくれよ」

 「馬鹿な事を言わないで!一枚しかないし、これ女性用ですごく高いのよ!」

 「無いなら、そういった魔法を教えてくれよ?」

 「フン!もちろんそういった魔法も知らないわ!」


 何を自慢げに言ってんだ、この馬鹿エルフは?

 俺は呆れて、溜め息を吐いてしまう。


 「じゃあ!そんなブルジョア以外の暖の取り方はどうするんだよ!!」

 「仕方ないわね、はいコレ」

 

 そうするとレナは自分のコートのポケットに手を入れ、黒く濁った石を取り出し、それを俺に渡す。


 「………は?コレでどうやって暖(だん)を取れって?」

 「その黒い石同士を何処(どこ)かにぶつけてみなさい。」

 「こ、こうか?」


 持っていた石を持ち、近くのテーブルにぶつけてみた。

 するとその黒く濁った石は急に赤く透明に光り始め、少しずつ温かくなってきた。

 いや、もう数秒で石が熱くなってきた。


 「おおっすげぇ、温かい。そしてめっちゃ綺麗………」

 「私の国、ゲルマニアでしか採掘することの出来ない石、フロガダイトて言うのよ。それの大きな結晶が暖房器具になったり、明かりの代わりになっているわ」

 「へえ、この小さいのはまるでカイロみたいだな」

 

 俺はそう言うと、彼女は首を傾げた。

 

 「カイロ??」

 「ああ、俺の住んでた世界にあった使い捨てカイロみたいだなって。もちろん見た目は全然違うけど」

 「ふぅん、作り方は簡単?」

 「俺は作り方が知らないから解らないけど、難しいんじゃないかな?」

 「………そう、それはよかった」

 

 彼女はその話を聞くと何故かホッとした。

 

 「えっ、なんで?」


 俺はその行動に不思議に思い聞いた。


 「何でもないわ、これなら明かりにもなるから焚き火を消しても良いよね?」

 

 だが、彼女は話を逸らし、焚き火を消すか否かの話を聞いてきた。

 まあ、ホッとした理由なんてどうでも良いかったから、俺は焚き火についてその話に頷いた。

 

 「そうだな、敵の目からばれない様にしないといけないもんな。」

 

 そう言うと、レナは一目散に近くの壊れかけの錆びた蛇口から古びたバケツに冷たい水を入れ、

 その温かく、綺麗に輝く焚き火の炎を消した。

 そんなにエルフは火が嫌いなのかと思った。

 辺りを見回すと明るいのは手元のフロガダイトと近くの電灯らしき光がポツポツと輝いているだけだった。

 上を見ると空には自分が住んでた街では見られない満天の星空と淡い青白色に輝く月がそこにはあった。

 俺はそれを見て感動したのか、言葉を漏らす。

 

 「すごい綺麗だ………」

 「ふふっ、貴方、まるで子供みたいね」

 

 レナは俺の顔を見て彼女は微笑み、俺は彼女がそう言ったため顔が赤くなった。

 俺は急いでここから去ろうとレナに頼む。

 

 「い、行こうか。普通にここはレナの国なんだから車で走ってれば、仲間の所にすぐに着くだろ?」

 

 俺がそう言うと、彼女の顔から笑顔が消えた。

 

 「ダメみたい、この辺の地域はエトルリアの領土になったから、辺りは残党兵狩りをしているそうよ。さっきラジオで聞いた情報だから確かよ」


 この世界にラジオがあるのか、何かとても近代的だな………。


 「そうか、じゃあ逃げられないのか」

 「いいえ、ゲルマニア方面に行くのは無理だけど、一つだけ逃げ道はあるわ。」

 「え、どこなんだそれは?」

 「この森を通って永世中立国のヘルヴェティア誓約者同盟経由で私の国、ゲルマニア帝国に通るしかない」

 「え、誓約者同盟って何それ。カッコいい!!あと帝国という事は皇帝の娘なのか?」

 「いや、ヘルヴェティアのその名前は私の国でしか呼んでないし。というか、話を逸らさないで!」

 「えっ、ああ、ごめん。」

 「別に良いわよ、それで行くの?行かないの?」

 

 レナはそう言うと、俺は心の中では決まっていた。

 

 「当たり前だろ!?行くに決まってるじゃないか!!」

 「そうなら、早く行きましょう!」


 俺は荷物を載せた車に乗り込んでエンジンをかけた。

 偶然にもこの車の運転席は右側にあったため、日本人の俺にも優しい設計だ。

 車の振動が始まり、マフラーから煙が出た。

 まあ、運転したことないけど………。

 俺は人生で初めて自動車を動かした。

 助手席の方をを振り向いてレナに乗るように言ったが、彼女は腰を抜かしていた。

 

 「おい、何でそんなに怖がるんだ?」

 「だ、だって!乗り物なんてそんな恐ろしい大きな音なんてしないでしょ!!」

 「あー、これはガソリンを燃焼して爆発させたエネルギーで動く車なんだ」

 「ば、爆発!!そんな乗り物に乗る人間はやっぱり野蛮―――」

 「ああああ、もうめんどくせぇぇ!!そんなにお前らの乗り物と変わらないからし、じゃあ逆に風力自動車とかどうやって動くんだよ!」

 「そ、それは風の魔法を使って……」

 「だから、俺には出来ないんだよ!!」

 「あなた、魔法も使えないの!?なら電気自動車も運転できないわ」

 「そうか!悪いか!!ていうか、電気自動車も魔法かよ。通りで周りに発電機が無かったわけだ!」


 レナは大きな溜め息をして、諦めたのかゆっくりと立ち上がり、この車のドアに立った。


 「………仕方ないわ、この車で我慢してあげるわ。でも本当に爆発しないんでしょうね!」

 「ああ安心しろ、大きな事故でも起こさない限り爆発なんてしないから」


 俺はレナにそう言うと、彼女は渋々とドアをそっと開け車の中を見て静かに助手席に座った。


 「よし……。やっと出発できる。まったくこんな町を脱出するために時間が掛かりすぎるだろ。敵が来たらどうするんだブルジョアエルフが………」


 そういえば、あの兵士以来誰もここに敵兵が来てないな、本当に不思議だ。

 まさかまだこの場所がバレていないとか?


 「ん?カズト?今なんて………?」

 「………気にするな、独り言だ」


 俺はそっとアクセルを踏んで、ゆっくりと発進した。

 彼女は「キャッ!」と可愛い声を出して俺の右腕の袖を掴んだ。

 彼女の手は小刻みに揺れていた。

 ああもう!可愛いな!!

 すると遠くから人の声がする。


 「おい!今、ガソリン車の運転音が聞こえなかったか?」

 「聞こえた、逃亡兵だ!!すぐに捕まえろ!!」


 すると敵兵が俺たちを逃亡兵と勘違いしたのか、こちらに向かって走ってくる。

 すると一人の兵士が姿を現す。


 「………ん?あの金色の長髪はエルフだ!残党が居るぞ!殺せ!!」

 

 するとその兵士はボルトアクションの銃を構え、発砲する。

 銃弾は後部座席を貫通し、フロントガラスを突き破る。

 俺は驚き、ハンドルが疎かになりそうになったが、すぐに態勢を整える。

 するとレナは拳銃を取り出し、その兵士に対して発砲を始める。 

 兵士は腕に銃弾が貫通し、その場に跪いて、すぐに隠れて再び発砲を続ける。  

 俺は急いでその場から立ち去るために、アクセルを強く踏んだ。

 すると古くて立派な門を通り抜けようとする。

 その先は深くて薄気味悪い森が続いている。

 

 「ほ、ホントにここを通るのか!?」

 「そうよ、ここを抜けないでどこに行くと言うのよ!」

 「オーケー!了解!!」


 森の入り口には彼女達の言葉で“黒い森”と書かれている。

 その名の通り、どんどん奥へと進むにつれて針葉樹林の森が月の光を遮り、舗装されていた道路はいつの間にか砂利と道路、ところどころに水たまりがある道になっていた。

 明かりは街灯などはもちろん無く、車の先頭にあるヘッドライトしかない。

 フロガダイトはポケットの中に入れている。

 レナはガソリン自動車に慣れたのか途中で寝てしまったため、後ろの席で横にして寝かせた。

 先程気づいたが、暗く見えるのは木影とかではなく、高くそびえ立つ山々で囲まれているのであった。

 つまり今走っている所は狭い谷底の森の中である。

 やがて、少しづつ坂になっていき、いつしか通っている道が山の斜面の切り開かれていた道に出た。

 月の明かりや星の明かりがこれほど明るいと思ったことは人生で一度も無かった。

 寒い………。

 もう敵は追ってきているのか?

 俺はミラーで何度も後ろを確認するが追手は来ていなかった。

 だが俺は安心することは出来ず、車を夜通し走らせる。

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