第3話 純潔の戦姫
――――俺は一体何時間歩いたのだろうか?
いや本当は大して時間は経っていないのだろう。
嬉しい時や楽しい時は時間が早く感じ、
辛い時や悲しい時には時間が遅く感じるという事を聞いた事があるが、今は辛く感じる時なんだろうか?
否、断じて違う!
今、背中には金髪美少女のエルフを背負いながら歩いている。
自分の人生でこんな体験を今までしたことがない。
胸がそこまで大きくないのは残念だが、そんなことは気にしない。
だって、顔が可愛いからねっ!!
そんなことを思いながら真っ直ぐゆっくりと歩いていくと、この町と奥の森を繋ぐ門らしき場所に着いた。
高さ50メートルもあるのではないかと思われる高さで、灰色の石で煉瓦造りのように積み上げ、入り口の両側の窪みにに数メートルの女神と思しき雄大な彫刻物が置いてある。
門の半分が緑色のツタなどの植物で生い茂っており、古さと同時にファンタジーを感じさせるような壮観な建物である。
門の奥に見える森は今が夜に近いからだろうか、奥が一切見えないどころか暗くて何も見えない。
それどころか、気味の悪い感じが見て取れる様な森である。
その門の近くでは人は誰も、敵らしき人も見当たらない、死んだ彼が言ったように撤退したからなのか、彼女の肩や右胸に付いてある鷲のマークのワッペンと同じマークが置いてあった物資に描かれていた。
周りに敵や怪しい人が居ないか確認し、門の近くに向かった。
多くは敵の爆撃で焼けたり爆破されて破壊されていたが、一部は修理すれば何とか動かせるものも多かった。
『猿でもわかる』乗り物の運転の説明書もあったり、芋やビスケット、水などの食糧も少量だが見つけた。
もちろん、敵がもうじき近くまでやってくる。
ここに長い時間、居る事はできない。
出来るだけ修理したジープに食糧や武器をある程度載せて発車しなければならない。
そのためには怪我して大変だとは思うが、彼女にも出来るだけ手伝って欲しいと思う。
―――――私は目が覚めた。
私は今何をしているのか、どこで寝ているのかが見当がつかない。
頭がぼーっとして頭が痛い。
そういえば、私は今まで何をしていたんだっけ?
………そうだ、思い出した!
私、ヒューマンに襲われそうになって、私の傷の手当てをしたニホンジンに助けられたんだっけ?
彼があのヒューマンに襲われそうになってたのを私が………おえっ。
その事を思い出そうとした瞬間、頭痛が起き、私は吐き気を催したが、私はすぐに食道まで来たものをすぐに引っ込めた。
「そういえばあのニホンジンはどうしたのかな?彼は私を置いてその場から逃げたのかな?それとも……。というより、それ以前になぜ私は彼を助けたのだろうか。まさか私は彼に好意を感じ……って!」
色白で綺麗な顔は燃えるように赤くなり、顔をクッションにうずめる。
「ななな!何を馬鹿なことを考えてるの私!?私があんなニホンジンに惚れるなんて、そんな事あるはずがないわよ!!」
すぐさま彼女は冷静になり、
正気に戻ってゆっくりと起き上がった。
長く動いてたからか、全身が筋肉痛で体が動きにくい……。
周りを見渡して場所を確認した。
「あれ?この門と景色は……彼に出会う前に居た、この街での私の国の陣営の場所だわ。でもテントも機材も乗り物も幾分がボロボロ。………本当に私を置いて軍は撤退したんだ……。」
私は周りの光景に愕然とし、呟いた。
「でも私がここに居るということは、仲間の生き残りが助けに来たのかしら?」
私はポジティブに考えようとする。
するとテントの奥から人影が見え、音を立てる。
「誰!?」
――――彼女は動揺を示し、近くの武器が詰まれた箱の影に隠れ、少しだけチラリと顔を出した。
………可愛い、まるで小動物みたいだ。
いやいや、そんな場合じゃないだろ。
だが彼女は俺を見て、胸をなでおろす。
そして溜め息を吐いてその箱の陰から出てきて、仁王立ちしていた。
「あ、貴方ね!私を運んだのは、しかもニホンジンの分際で」
そう彼女は言うが、何を思ったのかすぐさま顔を下に向ける。
「………でも、私を助けた事には敬意を評するわ、ありがとう」
彼女の感謝を聞いた途端、俺は安心して優しく振舞った。
「それはよかった。起きてすぐ申し訳無いのだが、少し手伝ってくれないか?」
「な、なんで貴方の手伝いをしないといけないのよ!」
「いや、怪我が治ってなかったり、疲れてるなら良いんだけど………」
「そんなことを聞いていない!なぜ手伝わないといけないのかを聞いているのよ!!」
そう彼女は怒るが、俺の頭には一つしか答えが無かった。
「それはお前を救いたくなったからだよ」
「……………はい?」
「ここの物を漁っていたらこんな物を見つけたんだ」
俺はさっき見つけた新聞の一面をを彼女の目の前に持って見せた。
「お前の国では、“純潔の戦姫”と呼ばれてるんだってな。しかも所々頑張れば読める言葉だから分かるけど、一番驚いたのは、お前って実は皇帝の娘なのか?」
俺がそう言うと、彼女は表情が一変し、嫌悪な顔をする。
「そ、それが何よ、貴方には関係ないわ、それとも何かする気なの?」
「ああそうだ、俺には全く関係はない。だか俺は特に君が不利になるような事はしないよ、俺は君に興味を持ったんだ。しかもお前は“純潔”と名乗ってる以上あいつ等に襲われたら名誉も信頼もそしてお前らの国の戦う士気も失う可能性があるんじゃないか?」
「だ、黙りなさい!もう遅いわよ。馬鹿!」
彼女は顔を赤く照れていた。
俺は何故そんなに怒っているのかが分からず、彼女に訴える。
「な、何を言ってるんだ?俺がお前の命も保障して助けてやる!だから――――」
「うるさい!!だ、だって、貴方にもう私の“純潔”が取られてるのを判って言うなんて!ホントに最低よっ!!」
「…………はあ?!?」
ままま、待ってくれ、俺いつ彼女の処女を奪った!?
じょ、冗談じゃない!冤罪だ!!
俺はそう考えてすぐさま彼女の言葉にに反論する。
「ま、待て待て待てぇぇえ!!俺は年齢イコール童貞だぞ!バカな事を言うな!」
ウッ!
な、なんか、心から何か棘みたいなものが刺さるような痛みを感じる。
くそっ、童貞だという事を言うのはホントに心が痛いな、というか、ホントに辛い………。
「う、嘘を言わないで!私が気絶しているときに、そそそその私にエッチな事したんでしょ!そんな事言ったって信じないわ!!」
「いやいや!!お前が気絶しているとき、ずっと俺の背中で背負っていて、俺はずっと歩いていたわっ!」
「はっ、何を馬鹿な事を。男なんて獣と一緒よ!獣!!そんな事言って私を襲ったに決まっているわ、さあ白状しなさい、この変態っ!!」
「な、なんだとおおおお!!」
「何よ!!」
―――嗚呼、私なんでこんなこと言ってるんだろう………。
本当は怪我を治してくれたり、安全な所まで運んでくれた事に感謝を述べたいのに、私ったら混乱して変なことを言ってしまう。
本当に私は不器用だ………。
でも、やっぱり私プライドが邪魔して、あんなニホンジンに謝るのも嫌な私がここに居る。
仕方がないわ、残念だけどエルフなんだもの、本当にゴメンね………。
俺達は延々と「した」、「してない」を繰り返し、結果は俺の方に軍配が上がった………はず。
「も、もう良いわ、貴方の言うことを一応信じてあげるわ、一応ね、但(ただ)し!嘘ならどうなるか解っているのかしら?」
「おう、もうそれでいいよ。ホントに何もしてないから」
「そういえば貴方、私を助けるのよね」
「ああ、もちろ。」
「………少しの期間だけど一緒に旅をする仲間なのだから、一応貴方の名前を聞いておくわ。私の名前はレナ、レナと呼びなさい」
「そうだな、俺の名前は炬紫一翔(こむらさき かずと)って言う。一翔って呼んでくれ」
「カズトね、わかったわ、よろしく」
「あの、一応レナ様は王家だから、“姫様”とか王家の名前とかが良いのかな?」
それを彼女に対して言うと何故か彼女は不満げな顔をして後ろを向いた。
彼女の両手は腰の所で組んでいた、モジモジしながら。
しかも彼女の赤く火照った顔を俺に見せないように見えたが、
俺の事を銃で殺そうとする位嫌っているのに、それは気のせいだろう。
そう俺は考えるとレナは後ろを向いたままこう言った。
「レナで良いわよ、レナはあだ名で城下の人たちはそう呼んでくれたし、こっちの方が私にとってこの名前が慣れてるわ。あと様付けも姫扱いも禁止ね!」
「お、おう?わかった、じゃあ………レナ。」
「はい!何?カズト?」
そう彼女は振り返り、微笑を見せる。
近くに焚いていた焚き火で彼女の白く美しい顔が宝石のように輝いているように見えた。
俺は何故か恥ずかしくなった。
というより、何でこんなに馴れ馴れしんだ。
さっき喧嘩して口論になっていただろう?
俺は不思議そうに思ったが、早くここから脱出しなければ。
「な、何度も言うが手伝ってくれるか………?」
「ええ、もちろん構いませんよ。何をすればよろしいの?」
「この荷物を運んでくれ」
「………ええ、分かったわ」
そうレナは言うと先ほどの表情と違って、彼女は何故かニコニコと笑顔で手伝いをする。
なんだなんだ!?さっきと違ってものすごくご機嫌だな。
俺、何かやらかしたか?
………まあ、レナが手伝ってくれるんなら嬉しいな。
いや、それにしてもレナ………レナか!
あだ名だけど、ホントにぴったりだし可愛らしい名前だ。
ホント可愛いな、やっぱエルフは可愛いよ、ホント可愛いよ~~~!!!
初めて、男性の方からあだ名で、しかも呼び捨てで呼ばれるなんて!!
嗚呼、まるで恋人同士のようだわ!
ニホンジンだけど、顔も性格もそんなに悪くない。しかも優しい!!
今まで求婚してきた男性達は私の美貌が目的だったが、
彼はそんな事が無いように見えるし!!
まあ、どちらにせよ!彼との時間を大切にしなければ……。
こうして、俺は彼女の国にレナを連れて帰るため彼女を守ることを決めた。
どちらも変な煩悩を持ちながら。
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