女は厄介な荷物のような足先を感じながら橋の上を進んだ。あるはずの雲を探して空を仰ぐ。しかしながら女は雲を見つけることができなかった。なぜなら頭上には雲はなく窺い知れる範囲では工場の向かいだけだったからだ。女は工場に向き直って、メガネの位置を人差し指で調整しながら雲を眺めた。次第に妙にふわりとした雲が焼き上がったソーセージにように赤く色を染め始めた。


本来であれば帰路についている時間だ。なぜ足を止めたのかはわからない。これから狂人と対面するからかもしれない。女はズレた歯車の答えを探すように歩きはじめようとした。しかし、ある声が彼女の動きを止めた。それは向かいからくる少年からだった。


「あの工場って何を作ってるの?」

すき渡る声には純粋な好奇心が含まれていた。


隣にいた父親らしい男が答える。

「雲を作ってるんだよ」


女は雷にうたれたかのような衝撃が脳裏に走った。全身が極寒で悴んだ指みたいに感覚をなくしていく。どうにかして彼女は意識を保とうと右足のピンヒールで左足を突き刺した。しかし、その行動も虚しく彼女は気絶して倒れた

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