第28話 「甦える悲しみ」
涼介は未来に言った。
「ジルという人・・・人と言えるかどうか?
テレパシーみたいなモノで話し掛けて来るのだからわからないけど話したいから来てくれないかと連絡があった・・・孝さんも呼ばれてるから行って来る!
きっと何か大切な話なんだと思う・・・」
未来は不安な表情を浮かべ涼介をじっとみつめたまま「どこに行くの?」とだけ尋ねた。
涼介は首を振りながら
「それは言えない・・・誰にも知られたくないらしい彼には何か隠して置きたい事情があるんだと思う」
そう言うと続けて力強く彼女に言った。
「僕は必ず未来の所に帰って来る!
心配しなくても大丈夫だから待ってて欲しい」
拭いきれない不安を抱えながらもこのままではいずれ彼の姿は消え自分の手の届かない所に行ってしまうことを知っていた彼女は信じて頷くしかなかった。
きっと大丈夫・・・その言葉を心の中で何度も繰り返し
「また会えるよね!・・・きっと会えるわよね!」
涙声で涼介に言った。
「必ず帰って来るから大丈夫!」
笑顔を見せて言った涼介は部屋のドアをすり抜け消えた。
未来は彼が消えたドアをしばらくじっと見ていたがやがて涙でドアは霞んでしまう・・・溢れる気持ちを押さえ切れなくなった彼女はドアを開け階段を駆け降りると急ぎ靴を履き玄関を飛び出した!
「涼介・・・涼介・・・涼介・・・涼介!」
うわ言のの様に彼の名前を繰り返し呟きながら門を開き通りにでて辺りを見廻すが彼の姿はもう無い!?
未来は思わず叫んだ!
「涼介!・・・涼介!・・・涼介ェ~!」何度も叫ぶ!
あまりに切ない大声に母親が慌てて玄関から飛び出して来ると未来を抱き締め言い聞かせる様に言った。
「未来・・・辛いけど涼介くんはもういないの」
母親は娘の想いを察して強く抱き締め涙を流す・・・
未来は母親にすがりつき涙声で繰り返した。
「帰って来るよね!?・・・涼介はきっと帰って来るよね?」
返答に困る母親は彼女の頭を優しく撫でながら呟く
「そうね!きっと未来の所に帰って来てくれるよね・・・だからお家に入りましよ」
抱きかかえる様に玄関へと歩く・・・
あの日と同じだった、涼介くんの死を聴いたあの夜の未来と同じ・・・この娘の心の中にはまだ涼介くんがいて消えたことは無かったんだ!
心配させまいといつも明るく振る舞ってずっと傷付いたままの心を私達の為に隠していたのね。
遅れて出て来た父親に首を振り母親は静かに言った
「この娘から涼介くんを奪ったらダメ・・・未来から涼介くんを消したら今は何も残らない・・・」
母親の声は哀願するかの様な口調であった
父親はもう片方から娘を支えながら涙を溜めていた。
「そうだな・・・もう少しそっと見守ってあげよう」
「何故、神様はあんなにいい青年を未来から奪ったのだ!」
薄暗く曇った空を見上げながら悔しそうに呟くと堪えた彼の涙が零れた瞬間、雨は空から落ちて来た。
未来は両親に支えられながら家の中に入れられたが
「涼介・・・帰って来て」と繰り返すその色を失った唇はその間もずっと動き続けていた。
その叶うことの無い願いに彼女の両親は顔を見合わせ涙を流す・・・
未来はベッドに寝かされ深い悲しみの中でその意識は暗い闇の中に落ちて行った。
降りしきる雨の中で雷光が激しく輝き轟音と共に近所の神社へと吸い込まれる様に落ちた。
突然に降り出した雨に人々はその方角に青白い光が瞬くのを誰も気付く者はいない・・・空間を切り裂く様な青白い閃光は瞬きを繰り返し徐々に見えなくなった。
雨は上がり雲の切れ間から零れた光が未来の顔を照らし始めた。
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