第27話 「戻れるのか?」

涼介と孝の2人は指定された神社へと向かっていた。


孝が樹里に結婚を申し込んだ場所・・・

そして涼介が未来とよく遊んだ場所であった。


「何故、子供の頃を僕は覚えてるんだ・・・!?」

記憶が少しづつ戻って来てるのかも知れない!

自分が誰であるかを徐々に実感として持てる様になりつつあることを涼介は意識出来る様になっていた。


丘の上にある石段の前で涼介と孝は顔を合わせた

何が目的でこの場所に訪れたのかをわかっているかの様にお互いに言葉も掛けず2人して石段を駆け上がって行く。


祭壇の前に並んで立つと周囲の景色が変わりジル達、7人の姿が現れる・・・人間で言う幻覚なので7人の姿は普通に見る人間の姿と同じであった!

周囲はホテルのロビーみたいな広々とした室内で中央に真っ白な四角いテーブルが置かれ手前に2つと奥に7つの椅子が配置されていた。


「よく来てくれました、どうぞ掛けて下さい」

真ん中にいた男性が2人に仕草で着席を促したが声は頭の中に直接、入って来る・・・声色でジルであると認識した涼介と孝は前に歩み寄り椅子に腰掛けた。


その後に続いて7人がテーブルの向かい側に腰掛けると

「君達には大変申し訳ないことをした」

ジルが頭を下げて一礼すると他の者達も一様に謝罪する。


「孝さん、貴方のことを我々は誤解していました」

その中の1人が説明を始める。


「申し遅れましたが今回の件について説明をさせて頂くミラです!」

「我々は実体を必要としないのですが貴方達に配慮しこの様な姿を作り出しています」


「これは人間社会で言う幻覚に似ていますが違うのは科学により作り出した物であり触れることも出来ます」


「この地球に有る物質を組合せて作成した質感の有る映像ですが我々は人間が死して作り出す霊魂なるものに興味を抱き人間の習慣や常識、規則などあらゆるものに精通するべく人間に憑依しこれまで学んで来たのです」


「孝さん、貴方に憑依していたのはここに居るサラです」


「樹里さんを深い悲しみから救い支え続けた貴方を良き場所に生まれ変わらせることをサラは提案し我々はそれを了承しました」


「貴方が死後に見た世界は我々が作り出した世界で選ばれた霊魂を保管する為に作った貴方だけの世界!そこから我々の科学により人間として戻すつもりでした」

「ですが我々が記録した知識を貴方が盗んだと勘違いした我々は罰として樹里さんの霊魂を奪うことに決定しました」


「そんな・・・」孝は呻く様に呟いた。


「それを阻止したのが涼介さんなのです!」

未来から話を聴いていた涼介は無言のままであった。


「我々の誤解により始まったこの事態をタイムスリップにより元の状態に戻そうと考え研究を重ねて来ましたがもう時間が有りません!・・・孝さんの霊魂はもうすぐ消滅してしまうので涼介さんと孝さんの霊魂をデータ化して現在にセットします、肉体は霊魂に吸い寄せられた粒子の集合体なので霊魂が現在に新しくセットされれば完全体としてこの世界に蘇生するはずです」


「ただ孝さんの中に入った知識に涼介さんの記憶が混入してしまっているのです」

モアがミラに促されて言った後、続けて説明を始めた。


「生存している未来さんから知識は抜き出せませんが幽体となられている孝さんからは抜き出せます・・・ですが知識を抜き出すと死んでからの記憶は全て消えます!」

誠実そうな顔立ちをしたモアは尚も続ける。


「それでも我々はその知識を大切なモノと考えているので返して欲しいのです!」

「返して貰えればそのデータから涼介さんの記憶を抜き元に戻すことがこれから行う時空調整で行えます」

そう言った後に深く頭を下げた・・・全員がそれに見習う。


「俺は死んだ後の記憶なんて無くてもいい!・・・涼介くんに何か恩返しが出来るなら喜んで返します」


「それに万が一全ての記憶が無くなったとしても妻は受け入れてくれると俺は信じている!」


「涼介くん、知らなかったとはいえ今まで辛い思いをさせてごめんな・・・恩返しには足りないかも知れないが君には記憶を取り戻して欲しいから遠慮することは無い!」

孝が言うと涼介は「感謝して甘えさせて頂きます」と言って孝に頭を下げる・・・孝の思い遣りに涙が溢れる。


モアに変わってミラが再び説明を始めた!

「時間は均衡を保つ為に科学で作り出した2人の記憶と霊魂にに合わせ貴方達以外の全てを調整し変えるでしょう」


「それを今からこの場で実施したいのですが2人共、承諾して頂けますか?」


「何がどうなるのか俺には良く理解出来ないが生き返れるっていうんなら俺は受け入れるよ!」

孝は即座に力強く答えた。


「僕も失った命だし大切な人の元に帰れる可能性が有るのなら承諾します!」

涼介も孝の後に続きそう答えた。


「あの日の我々もこんな気持ちだったな」

ジルは遠い過去を振り返り誰にともなく呟くと全員に言った!

「これより始める、セットせよ!」

景観は巨大な装置に変わり凄まじいモーター音が響く。


「約束するよ・・・必ず治して送り届ける!」

誰かのテレパシーが孝に届いた様な気がしたが激しい衝撃で2人は意識が遠のいてしまった。

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