第26話 「それぞれの想い」

時間には限りがある。


孝の記憶も明日で消えてしまう・・・

樹里の心は重かった。


数日が過ぎ孝の覚悟は決まっていたが彼女を残すことに罪の意識を感じ始めていた。


彼女の悲しみに暮れる姿に自分の存在を教えたものの2度目の別れを告げる日が間違いなく近付いている!


自分が消えてしまえば更に彼女を悲しませることになるのではないか・・・?

存在を知らない方が良かったのではないのか!?

それは後悔という形で彼に襲いかかっていたのだ。


触れ合うことは出来なくても2人は幸せに過ごした

大切な存在・・・その想いは同じであり強く結ばれているだけに「サヨナラ」という別れは重きものになる。


明日で終わり・・・わかっているのにそれが言葉になることはなく互いが努めて明るく振舞っていた。


一方の涼介に自分の想いを打ち明けた未来は涼介に過去の自分達が歩いて来た道を話しているのだが真剣な表情で聴いている彼を複雑な気持ちで見ていた。


同じ涼介・・・だけども違う!

記憶を失った彼に私は記憶を植え付けているだけではないのか?という思いに罪悪感さえ抱いていたのだ。


もうあの頃には戻れない・・・あの日の涼介は私に何を伝えようとしていたのか?

同じ涼介なのに彼に聞いてもそれはわからない・・・

彼は事故によりこの世から消え、記憶を失った状態で突然に私の前に現れた!


嬉しいのだが、もうあの日には戻れないのか・・・?

彼の答えは闇の中に消えてしまった。


僕は涼介!?・・・記憶を失った彼は自分に言い聞かせるのだが上手く溶け込めない!

何も覚えていないのだから仕方ないのだが過去を語り聴かせる未来に対して申し訳ない気持ちがあった。


彼女の話を聴きながら思い出そうと必死なのだが思い出せなくて彼女の哀しそうな表情が心に突き刺さる!

彼女の気持ちはわかっているのだが知らない振りで聴き明るく笑うしか方法が無かった。


そんな日々を送っていた涼介と孝に突然、声が・・・

声というより意識が飛び込んで来た!


「ワタシはジル・・・君達の知識でいう異星人だ」

「えっ!?」涼介と孝はほぼ同時に声をあげた!

未来は涼介の声に、樹里は孝の声に、不思議そうな顔をする。


どうやら涼介と孝にしかその声は届いていないらしい!?

「実は君達に来てもらいたい場所があるのだが今からすぐ2人だけで丘の上にある神社に来てくれないか?」

ジルはそんなことには一切、構わずに言葉を続けた。


「君達にお詫びと話したいことがあるのだが君達に来てもらわないと現在、居る場所では我々の力も届かない!」

少し間を置いたジルは続ける。


「もう時間があまり残されていないので急いで欲しいのだ」

涼介も孝もジルの話してる意味が全くわからなかったがジルの言葉に従うことにした・・・

何故なのかと理由を聞かれても彼等にはわからない!

直感的にジルの言葉が信じるべきものだと思ったからだ。


「必ず戻って来る!」

涼介は未来に・・・孝は樹里にそう言うとジルが指定した神社に急ぎ向かい始めた!


未来と樹里はしばらく何かを考える様に動かなかったが意を決し未来は涼介を樹里は孝を追い掛ける・・・

だがジルの声が聴こえなかった彼女達に彼等の行き先は何処なのかがわからない!


涼介と孝はそれぞれに先を急いだ。


それはまるで暗い闇の中から光を目指し希望に向かって歩き出す様に・・・

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