第24話 「彼等の誤算」
「何だと仮想空間に亀裂があっただと!?」
ジルの声が響いている。
「どうやら亀裂から情報は漏れてしまった様です!ピノとモアが発見しました」
ミラが補足的な説明を加えるがジルに届いてはいない
いや・・・届いてはいたのだろうが狼狽したジルにはそんなことはどうでも良かったのかも知れない。
生活環境の違いによる能力低下が原因だとは思われていたが彼等は全くの勘違いをしていたのである。
彼等がこの地球と呼ばれる星に漂着して約400年が経過しようとしていた。
この美しい星の風景などに興味を持った彼等は満足して暮らしていたのだが退屈と言う感情が芽生え始める。
彼等は動物に憑依し始めた・・・彼等にとっては人間も動物も同じものに見えたのだ。
時が経ったある日、人間に憑依したジルは驚嘆する!
何という感情の豊かさ・・・彼は憑依した女性が一生を終えるまで一緒に過ごした。
そして彼女が死んだ時に体から離れゆく魂に遭遇し会話を試みた・・・驚くことに魂となっても意識が存在することを知った彼は仲間達に教えて話し合った。
善き者、正しき者は良き場所に甦らせることを自分達の手で行う為に・・・彼等はこの街にある神社に本拠を構え住み着いた。
人間のことを何一つ知らない彼等は物事の善悪から憑依により学び人間の知識や知恵、風習など多岐に渡り学習し善き者や正しき者を捜しては幸せと思える場所に生まれ変わらせて来た。
それを記した本(データ)が如月孝に読まれた物である。
本の形をしているが人間について記した物なのでただ単にその様な形状をしているだけであり実際には形などは存在しない!孝に自然と入り込んだのは形という物が無がゆえに瞬間的に入り込んだのだろう。
それは現世に暮らす未来にも偶然、入り込んでしまったことも有り彼等の勘違いが始まったのだった。
善き者として迎い入れた者が盗んだと勘違いしたジルは裁きを下すべく全員を集め話し合った・・・罰を下すことに最後まで反対したのがモアとピノであった。
あらゆる問答の末に決まった罰は孝が愛する女性・・・樹里の命である。
しかし彼等はまだ知らなかった!
自分の命を投げ出しても他人の命を救う正しき者がこの街の中にいることを・・・彼等の誤算である。
彼等は困った、そして悩んだ・・・この地球という星に於いて時間という物はページを重ねるが如く積み重なって成り立つ物であり彼等の星の様な線(ライン)の束とは
似ているが異なる。
積み重なったページを抜き取れば時間は戻せるが他とは高さの違った者の時間は歪みを引き起こし何が起こるかわからないというのが現状であった。
彼等と違って人間の魂は永遠に存在する物ではない。
彼等の意識や能力とは科学により進化した物であるが魂とは自然の物である為、時が経つと消えてしまう。
彼等は焦っていた・・・残された時間は少ない!
まるで自分に言い聞かせる様にジルは言った。
「最悪の場合は私が犠牲となりどちらかを助ける!」
「えっ!?」ざわめきが起こり緊張感が漂う・・・
作業は更に急ピッチで進められた。
「善き者、正しき者はこの身に変えても救わねばならん」
彼が涼介から学んだことである。
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