第23話 「涼介と未来」

「佐藤・・・涼介・・・?」

未来が言った自分の名前を繰り返す。


机の上に置いてあった写真立てに入った自分の姿・・・

記憶の中で思い出し重ねてみるが自覚出来ない!?


どれくらい無言の時間が流れただろうか?

5分?・・・いや!?・・・10分?


未来はうつ向きベンチに腰掛けたまま、待っていた。


僕はベンチから立ち上がると僕を見上げた彼女に

「僕はここに居るけど僕じゃない」

そう言った僕の言葉に予想通り暗い顔をする・・・


「でも君の前に居るこの僕も未来が好きだ!」


「もっと聞かせてくれないか?」


「僕のこと・・・そして未来のことを聞きたい」

彼女は涙を拭きながら立ち上がると小さく微笑んだ。


「少し歩きながら話そうか?」

僕が提案すると

「うん!」

彼女は素直に頷いて一緒に歩き出す・・・

「僕はこの街のどこに住んでいたのかなぁ?」

僕は彼女に聞いてみた。


「家は私の家の隣りに住んでたの」

「貴方の両親と私の両親はとても仲良しで行ったり来たり、毎日がとても賑やかだった」

彼女の応えに僕は立ち止まり訊いた。


「過去形!?ってことは今は違うってことなのか?」


「貴方のお父さんの転勤で引っ越したの・・・」

「数年でまたここに帰って来れるからって貴方の両親に頼まれて私の両親が今も家を管理して時々、掃除したりしてるよ」

歩きだした僕は彼女を見ながら話し掛けた。


「じゃあ君と僕は違う場所で暮らしてたんだ」

彼女は僕の問いに微笑むと

「貴方はたくさんのLINEをくれたし電話もくれた!」


「とても優しくて私はとっても幸せだった・・・」

「貴方は私より1つ年上で事故があった日に通う大学を見学してこの公園に向かう途中だった」


「私が昨日、伝言を頼まれた如月樹里さんを突っ込んで来た車から助ける為に貴方が犠牲になり死んだの」


彼女の話は全て過去形であることが辛かったが

「そうか!・・・僕はその人の役に立てて死んだんだ!?」

僕は努めて明るい口調で言った。


「樹里さんは泣いてた、自分が死ねば良かったと・・・」


「彼女の夫だった孝さんは病気で亡くなったらしいの」

「自分にもっと生きる意思があれば貴方は死ななくて良かったのだと貴方のお墓の前で泣いてた・・・」


「私は樹里さんを責めた・・・貴方を返してって!」


「ご主人の死からまだ立ち直れない樹里さんに私はとてもひどいことを言ってしまったの」


「彼女は私に何度も何度も謝りながら抱き締めてくれた」

「自分だって辛いのに私の悲しみまで全て抱え込む様に抱き締めてくれたの・・・」


「あの日、私は彼女の胸の中でたくさん泣いた・・・」


僕は言葉に詰まる未来を気遣いながら

「僕がもっと早く未来の気持ちに気付いていればこんなに苦しませなくても済んだのに・・・ごめん」


そう謝ると彼女は

「また消えてしまう涼介をこれ以上、好きになったらもっと辛くなるから意識しない様に好きにならない様に頑張ってたのにやっぱり好きになっちゃった」


「記憶を失っても優しさは全然、変わらないんだもん」

「消えてしまう前に涼介に私を抱き締めて欲しかった・・・だからあんな無茶なことを出来る様に練習させちゃった」

顔を真っ赤に染めながら彼女は言うとうつ向きながら速い足取りで歩く。


「じゃあ今日からまた特訓だ!」

大きな声で彼女に言った後

「そんなに早く歩いたら追い付けないだろ!」

続けて叫んだ僕に振り向いた彼女は悪戯っぽく舌を出し


「知らないわよ!バカっ!」


恥ずかしそうに言うと走って逃げた。


昔は僕が逃げてた様な・・・

そんな記憶が甦りつつあるのを感じながら未来を追い掛けた。

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