第22話 「未来の告白」
昨日、樹里さんと会って帰って来た未来は僕に言った。
「明日は私とデートしましょ!?」
驚いて言葉も出ない僕を見ながら
「貴方に話したいこともあるの・・・聴いてくれる?」
笑顔でそう言った彼女は来て行く服をあれこれ悩んだり昨日から楽しそうに喋りながら大忙しで準備を始めていた。
机の上に飾られた写真の彼はそんな未来をいつもと変わらぬ爽やかな笑顔で見ている。
僕は着て行く服も同じなのでそんな彼女を見ていただけでいつも通りに過ごすと彼女が消した明かりの中で眠った。
次の日の朝、部屋から追い出された僕は先に玄関を出た
春らしい柔らかな日差しが気持ちいい!
その時、僕は変な感覚に襲われた・・・
いつも見ている見慣れた風景なのだが何かいつもと違う
この風景はどこかで見た様な気がしたのだ。
何だ、この懐かしい感じは・・・
何かを思い出せそうとするが思い出せない!
そんな感覚に僕が戸惑っていると玄関の開く音がした。
「じゃあ行って来ま~す」
声を掛けて外に出てきた未来の姿に僕は絶句した。
薄いピンクのワンピースに身を包み、いつもは結んでる髪をほどいたその姿は妖精!?
いや・・・天使!?・・・とても可愛い
いつも悪態ばかり言ってる彼女とはまるで別人だった!
呆気にとられてる僕を見た彼女は恥ずかし気に笑い
「何よ!そんな顔してないで感想ぐらい言ってよ」
突然の応酬に言葉がみつからない僕は
「とても可愛いと思うよ・・・」
思ったままを正直に言ってしまった。
また何か言われるんじゃないかと思っていたのだが門扉を閉めながら彼女は「ありがとう」と素直に言った。
いつもの2人とはまるで違った空気が流れる・・・
「じゃあ行きましょうか!?」
そう言った彼女はスキップしそうな足取りで歩き出す。
僕は慌てて彼女の後を追った・・・
彼女が向かった先はいつもの公園にある時計台だった
この割と小さな街では大きく作られた公園だけあって人が少ない訳ではないのだが誰にも邪魔されず話せるスペースは十分にあった。
「貴方に話さなくちゃならないことがあるの」
ベンチに並んで腰掛けると唐突に彼女は言った。
写真の彼のことでも相談したいのだろうか?
彼女を好きになり始めていた僕は聴きたくなかったが
「うん・・・聴くよ」
その言葉に敢えて理由も聞かず簡単な答え方をした。
「彼と約束したホワイトデーに私はこの場所でこの時間に同じ服を着て彼を楽しみにして待ってた」
「彼はどんな言葉を掛けてくれるだろうかって期待と不安が半分づつ頭の中は彼のことばかりだった」
蒼い空を見上げながら彼女は更に話し続ける。
「約束に遅れたことがない彼が何故かその日は遅くて私は何度も何度も周囲を見廻し段々と不安になったの」
遠くを見る様な彼女の視線に映るものは何だろう?
きっと彼のことなんだろうか?・・・聞けなかった。
「すぐ近くで救急車のサイレンは聴こえるしもしかして何か彼の身にあったんじゃないかと心配で・・・」
彼女の声はもう涙声で空を見上げた目から涙が溢れ頬を濡らしていたが気にする様子もなかった。
「日暮れまで私は待ったけど彼はここに来なかったの」
彼を信じて1日中、待ち続けた彼女の気持ちを思うと僕は何一つ掛ける言葉もみつからずただ沈黙を保った。
「家に帰ると彼が・・・涼介・・・が死んだって・・・」
必死に繰り出す言葉は途切れ途切れで語尾は消えた
言葉というより悲痛な叫び・・・心の傷み・・・
話してはいるのだがその悲しみは想像も出来ないほど計り知れないものだった!
彼女は僕の方を向いてこう言った。
「貴方と初めて会った場所・・・あの場所は涼介が死んだ場所なの」
涙に濡れた瞳を僕に向けた彼女は言った。
「あの日、私は事故現場に花束を置いて祈ったの彼に逢いたい・・・もう一度、逢いたいと・・・貴方はそこに帰って来てくれた!」
「記憶は失ってたけど約束の小指と笑顔は変わってなかった」
僕は何も知らずに事故現場へと戻り彼女と会ったのか?
「えっ!?」・・・「それじゃ僕があの写真の・・・?」
記憶がない僕にあの日の答えを聴いていない彼女は怖くてずっと自分の気持ちを言えなかったのか・・・?
初対面の振りをして自分の気持ちをひたすら隠し続けて夢の中で泣きながら毎日を送っていた未来・・・
何故、気付かなかったんだ!
僕は何故、それに気付いてやれなかったんだ!
いつも一緒に過ごしていたのに・・・
後悔だけが僕の頭の中をグルグルと駆け巡る。
そんな僕を真っ直ぐみつめながら頷いた彼女はハッキリと言った。
「そう!・・・貴方が写真の彼、佐藤涼介なの!」
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